二人なりのお見合い
アルマウェルとの会話が終わり……とりあえず試作は上手くいったということで、マグロイワシの調理法を皆に教えて、それから盛大なマグロイワシの食事会というか宴会というかが開催されて……翌日。
目を覚まし身支度を整え朝食を終えて、グラディス達の世話をしに行き……それから村に戻ると、村の入口で何とも言えない光景を目にすることになる。
向かい合って立つ二人の人物、一人はユーラで両手を腰に当てて目の前の人物をじっと見やっていて……もう一人、ベアーテが腕を組んで胸を張りながらユーラへと厳しい視線を返している。
一体全体、何がどうしてこうなった? 昨日ユーラはベアーテと話をしてみるとか、そんなことを言っていなかったっけ? それがどうしてこんなことに?
と、その様子を見やりながら、そんなことを考えていると……遠巻きにその様子を見ていたらしいサープが、気配を殺しながらささっとこちらに移動してきて、小声で話しかけてくる。
(二人が顔を合わせたのはついさっきで、ユーラが結婚について話をしたいと声をかけたら、ああなった感じッス。
ベアーテさんが返事をしないで睨み返し、ユーラもそれに負けじと睨み返し。
正直二人がなんであんなことしてるか訳が分からなくて……声をかけるのも間に入るのも躊躇われて、とりあえず様子見してたッス)
(……なるほど? 何かがあってああなった訳じゃなくて、いきなりああなっちゃったんだ?
そうすると……うぅん、二人だけに分かる何かがあった感じなのかな、目線とか表情とかでお互い語り合ったとか)
と、俺がそう返すとサープは、そんな馬鹿なと言いたげな顔をして肩をすくめて、とりあえず様子見を継続するためか、二人へと視線を向ける。
それからもしばらくの間、にらみ合いが続き……俺の頭の上に乗っかっていたシェフィが状況に飽きてか大あくびをした所で、ベアーテさんが動きを見せる。
「なるほどねぇ、中々肝の座った男じゃないか。
アンタくらいの男なら考えてやっても良いんだが……よそ者をあっさり受け入れる訳にもいかないね。
一緒になった後、どっちの暮らしに重点を置くのか、どっちで子供を育てていくのか、色々決めなきゃいけないことも多いし……そこら辺のことをしっかり決めておこうじゃないか。
とりあえずアタシはアタシより弱い男は好かない……という訳で一勝負するよ。
……ここで暴れるのも迷惑だろうから、やるのは人のいない所にするかねぇ」
と、そう言って顎をくいっと上げて、森の方を指し示し……それを受けて頷いたユーラと二人で森の中へと入っていく。
俺やサープ、他の野次馬の面々はそれを黙って見送り……二人が見えなくなった所でその場は解散となり、動きを止めていた人々が日常に戻っていく。
そんな中、俺とサープはユーラが戻ってくるのを待とうと、その場に残ることを決めて……森の方を見やりながら口を開く。
「……アルマウェルの話から、腕試しみたいなことはするんだろうなぁとは思っていたけど、まさかこういう形になるとはなぁ」
「……ッスねぇ。
もっと色々話し合うことがあるというか……お互いのことを知るのが先だと思うんスけど、まーさかいきなり睨み合って、それから殴り合いとは……。
まー、ベアーテさんも向こうの戦士なんスから、必要なことではあるんだろうけど、驚きッスねぇ」
俺の言葉にサープがそう返してきて……俺は頷き言葉を続ける。
「そう言えばベアーテさんはあっちの重要人物なんだよね?
そうすると……結婚したらユーラがあっちに行くことになるのかな? そうすると中々会えなくなりそうだし、寂しいことになりそうだねぇ」
「まー……しょうがないんじゃないッスか? そういうこともあるッスよ。
あの二人が結婚したらヴァークとの繋がりも安定する訳ッスからねぇ……ユーラが幸せになれる上に、そんなメリットもあるとなったら、応援してやらないとッスよ」
と、そんな会話をしていると、それを聞いていたのか、たまたま通りかかった所で耳に入ったのか、一人の男性……ベアーテさんとやってきたヴァークの男性が声をかけてくる。
「ベアーテがうちの重要な戦力なのは確かだが、だからって縛り付けたりはしねぇよ。
行きたいとこに行けば良い、それでシャミ・ノーマとの関係が良くなるってんなら尚更だな。
オレ達ヴァークは、故郷を大事にしているが、同時に冒険と開拓も大事にしている。
海路を切り開いた先に良い島があればそこに拠点を作ることもあるし、住み着くこともある。
だからベアーテがここに残る決断をしても止めはしねぇさ……もちろんオレ達のとこに戻りたいってのも止めはしねぇ。
どうするかは二人で話し合えば良いこと……なんだが、そもそもあの二人が結婚を決めないと話は始まらんからなぁ。
……結果を待つしかないだろう」
それは全くその通りの言葉で、俺とサープは頷き……二人が帰ってくるのを待つことにする。
二人がどんな結論に至るにせよ、どういう結果になるにせよ、それを歓迎してやろうと、そんな事を考えていると……今度は野次馬から話を聞いたらしいアーリヒとビスカさんがやってくる。
興味半分不安半分といった様子でやってきて、俺達にどこにユーラ達がいるのかと表情で問いかけてきて、俺達が森の方を指し示すとそちらへと視線をやり……しばらくそちらを見やってから声をかけてくる。
「ヴィトー、二人はどんな様子でしたか? 良い結果になりそうでしたか?」
と、アーリヒ。
「ケンカ以外で決める方法もあると思うんですけど……他の方法じゃダメだったんですかね?」
と、ビスカさん。
「どんな様子かと言うと……何も言わずにただ睨み合っていたかな、それから森に入っていって……まぁ、うん、どういう結果になるのかは二人次第だと思うよ。
そして他の方法があったかについては……あの二人だからね、この方法が一番良いんだと思うよ」
俺がそう返すとアーリヒは頭を抱え、ビスカさんは目を丸くして硬直する。
確かに言葉にして説明されるととんでもない状況だなぁ……いや、実際目にしたとしても同じ感想になったかもしれない。
そうしてそのままその場にいた全員が無言となり……誰も何も喋らないまま時が過ぎて、どれくらい経ったか、それなりに立ち疲れた所で森から雪を踏む音がしてきて……ユーラとベアーテさんが帰ってくる。
ベアーテさんには傷一つなく、ユーラの顔は何発も殴られたのだろう、ボコボコに腫れ上がっていて……そしてベアーテさんはニコニコ笑顔で、ユーラに寄り添っている……ように見える。
そして二人はそのままどこかに行こうとして、思わず俺が、
「え!? いや、結局どうなったの!?」
と、声を上げると、アーリヒを始めとした一同は、よくぞ言ってくれたと俺のことを見やってから一斉に頷き視線を送り、ユーラとベアーテさんに説明を求めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、ユーラ達のあれこれです






