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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第三章

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文字


 それからの日々はなんとも順調かつ平穏に過ぎていった。


 何しろ瘴気が一気に減ったのだからそれも当然で……魔獣が姿を見せず、沼地から何か接触がある訳でもなく、ただただ平和だった。


 新しく洞窟サウナが出来て、村人の移動範囲が広がり、新しい餌場を確保したこともあって恵獣達もごきげんで……困ったことがあるとすれば、魔獣の肉が手に入らなくなったことくらいだろうか。


 とは言えこれまでに大量に狩れているし、雪の中で冷凍させた肉や燻製肉が残っていて、飢えるような心配はなく……少しだけ気温が上がったこともあって他の食料も手に入るようになりつつあり、そんな何もない日々を村の皆は心底から喜んでいた。


 そんな中、俺やユーラ、サープは恵獣を使っての狩りの訓練をしたり、次の開拓地をどこにするか決めるための偵察をしたり……それなりに忙しく過ごすことになった。


 ……そして騎乗戦闘もそれなりの形となったある日のこと、訓練を終えて厩舎に帰り、たっぷりとグラディス達の世話をしてやって、それからどこからか飛んできたシェフィを頭に乗せて村に帰ろうとしていると……すっかりと村に馴染んだビスカ女史が駆けてきて、声をかけてくる。


「こんにちは! 今日は皆さんに話を聞きたいのですが、この後良いですか!」


 それが最近のビスカ女史の仕事だった、村の皆の話を聞いてまとめて、書き上げる。


 ちょっとした知識や、シャミ・ノーマ族の歴史やルール、どんな食事をしているか、どんな仕事をしているか……などなど、色々な取材をして記録を作っているようだ。


 今は何の役にも立たないかも知れないが、いつかは立つかもしれないというのと……この村に文字を広めたいという想いもあるらしく、毎日励んでいる。


 文字を使わない文化にはどうしても限界がある、その限界のままで良いと言う人もいるのかもしれないけども……世界中を浄化しようと思ったらそうも言っていられない。


 狩りについてとか、世界についてとか……他の地域で戦っているという、志を同じくする者達のこととか、しっかりと記録し、後世に伝えるというのは大事なことだろう。


 ……それと、諸々の原因となった化け物の話も。


 化け物、世界に呪いを……魔法と瘴気を振りまいた存在……それがどんな存在だったかはシャミ・ノーマ族の口伝には残っていない。


 ただ化け物とだけ伝えられていて……詳細なことは失伝してしまっている。


 これは沼地の人々も同じらしく……精霊達は何か知っている風だが、理由があるのか教えてくれず、完全に謎な存在となっている。


 世界をこんな風にしてしまった存在を失伝してしまったというのは、村の皆にとっても痛恨のことであり……そういった想いからビスカ女史のことを受け入れてくれていて、取材にも積極的に答えてくれている。


 そうなると当然、文字の受け入れにも前向きになってくれているのだけど……ここで少しだけ問題が起きている。


 シャミ・ノーマ族の中にも読み書きが出来る人は何人かいる。


 これは沼地の人々と取引、交流をするからで……ならば村でも沼地の人々の文字を使えば良いと思ったのだけど、それにはかなりの抵抗感があるようだ。


 沼地の人々と同じ文字を使うようになったら同じような考え方になってしまうんじゃないかとか、沼地の人々に思考を乗っ取られてしまうんじゃないかとか、そんな不安があるらしい。


 人は言葉でものを考える……言葉で思考をする、だからこそ言葉や文字には人の思考を操る力があると、そんな考え方がシャミ・ノーマ族にはあって、その影響なのだろう。


 ならばどんな文字を受け入れるのか、学んでいくのか、使っていくのかという話なのだけど……ここで皆が、あの本の文字を使いたいと言い出してしまった。


 あの本、精霊が作った本、漢方について書かれた本……日本語で書かれた本。


 精霊様の文字ならきっと学んでも悪いことにならないはず、むしろ精霊様と同じ考え方が出来るようになるはず……同じ力を得られるはず。


 なんてことを一部の人々が言い出し、日本語のことを特別視し始めてしまったのだ。


 ……いや、まぁ、日本語なら俺は楽だし? 教えることも出来るし? 不都合はないと言えばないのだけど……習得難易度が高いとされている日本語の文字は不適当なように思えるし、そもそもこちらの世界の言葉をどんな風に文字起こしするのかという問題もあるし……絶対に向いてないと思うんだよなぁ。


 全部ひらがなで? それともカタカナで? いっそひらがなとカタカナを交えて? まさか漢字を使う? 異世界言語を漢字で表記する? どうやって??


 基本的な言語は沼地の人々と同じなのだし、素直に沼地の人々の文字を使った方が楽で早いと思うのだけど……皆の中にある強い忌避感を払拭するのは難しいようだ。


「……ヴィトーさん、ぼーっとしてないでもっと話に参加してくださいよ。

 さっきから全然質問に答えてくれないじゃないですか」


 あれこれと考えて、考えすぎて思考の世界にふけっていたらしい、ビスカ女史に横腹を突かれそんな声をかけられ、ハッとなった俺は言葉を返す。


「ああ、ごめん、それで何の話だっけ?」


「もー! ……さっきまでは生肉食についてだったんですけど、話を変えます!

 えぇっと……ヴァークってどんな人達なんですか?」


 俺が譲ったメモ帳とペンでもってあれこれと文字を書き込んでいるビスカ女史にそう言われて……俺はどう答えたものかなと頭を悩ませる。


 正直俺はヴァークについてよく知らない。


 今の俺になる以前のヴィトーなら面識があったはずで、何か知っているはずだが……そういった記憶は思い出そうと思って思い出せるものではなく、以前のチェア婆さんの時と同様、思い出すのに時間がかかるというか、モヤがかかったように記憶が引き出しにくくなっている。


 えぇっとヴァーク……ヴァークか、シャミ・ノーマ族と取引があって、村にも来たことがあって……友好関係というか同盟関係にあって、かなりの猛者揃い、だったか。


 俺がそんな風に頭を悩ませながらどうにか記憶を引き出そうとしていると、俺より先にユーラとサープが声を上げる。


「ヴァーク達でぱっと思いつくのは、村まで来る遠征隊の隊長のことだろうな。

 髪を複雑に編み込んで、丸くてでかい盾を持った……美人の姉ちゃんが隊長なんだよ。

 なんかすげー腕が立つとかでな、流石に手合わせしたことはねぇが、ヴァークの猛者達を武器じゃぁなくて、その盾でぶん殴って倒しまくってるとか聞いたな。

 なんでも自分の数倍でかい魔獣も盾で殴り倒したらしいぜ、しかも一撃で」


「ああ、あの人ッスか……うちの族長と気が合うみたいで、こっちに来る度、族長んとこに寝泊まりしてたッスね。

 シャミ・ノーマとヴァークが良い関係でいられるのもあの人のおかげなのかもしれないッスねぇ。

 ちなみに盾で殴ったって言っても、そこらにあるような盾じゃなくて、ちゃんと武器っぽい加工のされている盾っすからね。

 トゲがあったり刃があったり……あんなことするくらいなら普通の武器を使えば良いと思うんスけども、精霊様や神々との約束……契約があるとかで、どうしても盾で戦わなければならないみたいッスね。

 ……もしかすると自分達みたいになんらかの加護をもらっているのかもしれないッスねぇ。

 何しろ単身でどっかの国の軍船を沈めたこともあるそうッスから……尋常じゃぁないッスよね」


 そんな2人の言葉を受けて俺もようやく記憶を引き出すことに成功し、その人……女性の異名を口にする。


「盾の乙女……確か、そう呼ばれていたっけ。

 戦い方は豪快だけど、性格は繊細で柔和で……力とかじゃなくて母性で部下を率いているって印象だったな」


 するとビスカ女史は猛烈な勢いで文字を書き始め……、


「それはいつか会えるのが楽しみですねぇ!」


 なんて言葉を口にする。


 彼女に会えるということは沼地の方にもヴァークが襲来するということなのだけど、そこら辺分かっているのだろうかとなんとも言えない顔となった俺は……とりあえず話の続きは村でしようと、村へと足を向けるのだった。



お読みいただきありがとうございました


次回はこの続き……やってきたあれこれとなります

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