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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第三章

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占い


 ビスカが去っていき……それを見送ってから一人で行かせて良かったものかと思案する。


 村の外を出て森の中を駆けて、そうして洞窟サウナへ……。


 それなりの距離がある……が、開拓は完了していて人の行き来もそれなりにあり、雪を踏み固めての道も出来上がっている。


 それに今も作業をしている若者達がいるはずだし……何かあっても彼らが対応してくれるはずだ。


 洞窟サウナは服を着込んだまま入るサウナで、まだまだ裸になることに抵抗があるらしいビスカにとっては悪くないサウナのはずで……まぁ、うん、悪くはないのだろう。


「……そう言えば、ビスカのメガネはシェフィ達が作ってあげたの?」


 思考を切り上げ、なんとなしにコタの中の片付けをしながらそう声を上げると、ビスカが置いていった精霊達……シェフィ、ドラー、ウィニアのうちのシェフィとドラーが声を返してくる。


『うん、そうだよ。

 冷えない特別な素材で作ってあげたから凍傷になったりはしないはずだよ。

 レンズもちゃーんと度に合ったの用意してあげたから、色々見えやすくなって、それでテンション上がってるのかもねー』


『冷えないだけじゃーなくて、熱で溶けたり歪んだりもしねーぞ。

 だからサウナで使っても平気だ、洞窟サウナでも平気だ。

 ……まぁ、曇っちまうのはどうしようもないけどな』


「ははぁ……なるほど。

 この辺りでメガネをしようと思ったら熱さも冷たさも気をつける必要がある訳か。

 ……まぁ、熱に関してはサウナの間だけメガネをしないとかで対策は出来そうだけど……。

 ……そうすると、プラスチックとかでも難しそうだし、精霊の力で作った不思議素材なのかな……?」


『ん? まぁ、そうだけど……別に作ろうと思えば精霊の力じゃなくても作れるよ?

 サウナ用メガネなんて、ヴィトーの世界じゃ当たり前に手に入るものだったし……そこまで珍しいものでもなかったよ?

 むしろあっちの世界の方が、曇らないレンズとかあって凄かったよねぇ』


『確かにな……曇らないレンズは作れなくもないんだが、手間が無駄にかかるからなぁ』


 と、シェフィとドラーがそう言ってきて……俺は目を丸くする。


 そんな眼鏡があったのか……しかも曇り止め付き。

 

 ……そう言えば景色が良いサウナがあるとか、サウナの中にはテレビがあるとか聞いたこともあるから、眼鏡が欲しくなる環境なのかもしれないなぁ。


 なんてことを考えていると、コタの入口が開き、アーリヒが顔を見せて……柔らかな笑みを見せてから、中に入ってくる。


「ヴィトー、今日も鍛錬を頑張っていたようですね……お疲れ様です。

 チェアさんの占いの話は誰かから聞きましたか?」


 そしていつもの場所……アーリヒのために用意したクッションというか座布団のようなものの上に座りながらそんなことを言ってきて……俺は半分寝ぼけていた頭を働かせてチェアさんが誰であるかを思い出そうとする。


 チェア……女性の名前だったか、そんな女性いたかぁ? いやでも、アーリヒの態度からして俺が知っている人物のようだし……。


 チェア……チェア……あ、ああ、もしかして……。


「チェア婆さんの占い? いや、俺は何も聞いてないかな」


 チェア婆さん、ジュド爺ほどじゃないけどもかなりの高齢で占いを生業としている。


 この占いは現世での占いとはちょっと違って、水晶玉とか筮竹……占いデジャラジャラとやるあの棒を使ってどうとかじゃなくて、経験則……過去に経験したあれこれを特別な人達に口伝で集積し、そこからこれから起こるだろう出来事を予測するものとなっている。


 特別な人達というのは記憶力が良い人達のことで……文字がないからこその記憶力頼りという訳だ。


 チェア婆さんは……確か今年で80だったか、それでも記憶力は衰えることがなく、結構な確率で占いを成功させている。


 ……っていうか、サウナにも入っているだろうから、精霊の力で記憶力とかも増しているかもしれず……そうなるともう、年齢でどうとかは言えないのかもなぁ。


「はい、鳥の数と飛び方、獣達の動き。

 それと雲の流れから今年は雪解けが早いだろうとの結果が出たそうです。

 雪解けとなれば沼地の人々がまた何かをするかもしれませんし……色々忙しくなります、今からそのつもりでいた方が良いかもしれません」


「あー……雪解けかぁ。

 それが早まる……と、どのくらい早まるとか、だいたい何日後とかはまだ分からないかな?」


「そう遠くはないようです。

 私にはよく分かりませんが、老人達によると既に気温が上がり始めているとかで……もしかしたら10日とか20日とか、そのくらいで溶け始めるのかもしれませんね」


「……なるほど、そのくらいかぁ」


 文字がなければ暦もない、いや、もちろん冬と春の認識とか、だいたい今が一年のうちのどれくらいの時期という感覚はあるのだけど……正確な暦は全くない。


 そのため去年との比較とかはしにくいのだけど……その辺りのことを担っている占い師がそう言うのなら、その通りなのだろう。


 この辺りには春と冬しかない……雪がないのが春で、あるのが冬で、一年の半分近くが冬となっている。


 とすると……今は3月とか4月とかそのくらいなのかな?


 そしてそれが早まり……雪と寒さで遮られていた様々なことが動き出す、か。


 沼地の人々はもちろんのこと、獣も魔獣も……ヴァーク達もきっと動き出すのだろうなぁ。


 しかしヴァーク……ヴァークか。


 海に生きる人々、船で川を遡り襲撃を繰り返す一族……。


 魔獣を狩っての浄化を目指すシャミ・ノーマとは違って過激派と見るべきか……シャミ・ノーマが穏健過ぎると見るべきか……。


 世界が滅ぶかもしれないとなったら、襲撃くらいはどこの誰でもしてしまうかもしれないしなぁ……。


 ……ん? 海で船使って襲撃? なんか思い出すことがあるような……。


 と、あれこれと考えていると何故だかシェフィ達がクスクスと笑い出す。


 手を口で抑えてこちらを見て……どこかからかっているようで。


 どうやら俺が何かを思い出せないでいることを……忘れてしまっていることをそうやって笑っているようだ。


 その態度が妙に気になったが、何か重要なことを忘れているならシェフィ達が教えてくれるはずで……そうやって笑っていられるくらいにはどうでも良いことなのだろう。


 そういうことならばとあれこれ考えるのを止めた俺は、夕食まで体を休めるかと横になるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、ヴァークのあれこれです

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