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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第三章

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学者とサウナ


 魔王の目的がどうあれ、大量の魔物が狩れたことにより俺達の状況は大きく前進することになった。


 北部の瘴気が一気に消失し、俺達が今まで探索していた北部のエリアだけでなく、更に北と東西の一帯からも瘴気が消えていて……かなりの範囲の浄化が可能となった。


 可能となったシェフィ達とサープ達は大忙しとなっているようだ。


 シェフィ達が浄化し、サープ達が罠や鳴子を設置し……サウナに良さそうな場所を探してサウナを作るための準備をし、それから地図を作り直し、どんな動物が住んでいるか、どんな植物が生えているかの確認をするなど、かなーり忙しくなっているようだ。


 その辺りに何が住んでいるのか、どんな植生なのか、どんな地形なのかといった知識は、一応言い伝えられているのだけど……その知識もかなり古いものとなっているので、再確認が必要という訳だ。


 毎日毎日息をつく暇もないほど忙しい……が、魔獣の素材と肉が大量に手に入った上に、魔獣の脅威が遠ざかり、獣が村の付近をうろつくようになり、それだけでなく野生の恵獣も姿を見せてくれるようになってきて……世界が元の姿を取り戻しているという実感と喜びが、その疲れを吹き飛ばしてくれているようだ。


 それでいてポイントは大量で、銃の改良案まで出てきて……何もかもに余裕があり前途洋々、村の皆の顔に笑みが浮かんでいる。


 ただ喜んでばかりいられない部分もあり……まず沼地の連中。


 ついに実力行使に出た彼らを警戒して、村の南にはかなりの罠を設置することになったが、それで防ぎきれるかどうか……。


 それにあまりに多すぎる罠は野生の獣や恵獣を傷つける可能性もあって、必ずしも良い案だとは言えず……学者のビスカを通じて解決を図れると良いのだけど、それもそう簡単にはいかないだろう。


 そしてもう一つは交易をどうするか? ということだった。



 ついに村で持て余し始めた魔獣の素材、ここまで多いといっそ交易で他の品と交換したくなるのだが……相手がいない。


 この辺りに住まう他の部族との交易は移動の関係で春にならないと難しく……散々話題に上がっているヴァークとの交易も同じ理由で難しかった。


 普段なら沼地の連中に売りつけるところなのだけど、それは絶対に無理な状況で……これもちょっとした悩みどころになっていた。


 それでもまぁ、贅沢の悩みとも言えるような内容だし、差し迫って何かをしなければならないという状況でもないので、焦る必要は無いのだろうなぁ。


 なんてことを考えながら村の中を進んでいく。


 ここ数日はずっとグラディスと騎乗訓練をしていたのでこうやってゆっくり歩くのは久しぶりのことで……そうやって村の外れに向かうと、真新しいコタが視界に入り込む。

 

 それは最近建てたばかりのビスカ女史のコタで……しばらく様子を見ていなかったが、どうしているのかとそこに近付いてみると、入口を勢いよく開けてビスカ女史が顔を見せる。


「サウナですか!?」


 そして第一声そんなことを言い……俺が目を丸くしているとビスカ女史は、俺の顔を見るなりがっくりと肩を落として、


「なんだ……ヴィトーさんですか、何か用ですか?」


 と、なんとも露骨な態度で声を投げかけてくる。


「いや……どうしているのかと様子を見に来ただけなのだけど……。

 第一声でサウナって……そんなにサウナのことが気に入ったの?」


 俺がそう返すとビスカ女史は、着込んだシャミ・ノーマ族の伝統衣装の裾を振り回しながら、物凄い勢いの身振り手振りを交えての返事をしてくる。


「そりゃぁ気に入りますよ! ととのいの気持ちよさも素晴らしいんですけど、見てください、このお肌!

 すべすべつやつやで、すっかり若返っちゃって……あの特製石鹸のおかげか、今まであったかゆみもなくなって、毎日ぐっすり眠れるんです!

 ぐっすり眠れるから頭がすっきりして、書き仕事もガンガン進められますし……いや、本当にヤバいですね、サウナって!

 1日1回じゃ足りないくらいですよ! 朝起きて、それと寝る前、2回入りたいくらいです!!」


 そう言ってビスカ女史は自分の頬を撫で回してみせて……まぁ、確かに以前よりは綺麗になっているのかもしれない。


 ビスカ女史が使っている石鹸は、向こうにはない感染症で苦しんだりしないようにと用意した、工房で作った薬用石鹸で……あれを使っていれば肌の調子もかなり良くなっているだろうからなぁ。


「え、いや、入ったら良いんじゃないの?

 朝いきなりは難しいかもだけど、管理人さんの仕事を手伝えば朝食後くらいには入れるだろうし……待っている人がいないのなら一日何回入ったって怒られはしないでしょ?」


 なんてことを考えながらそう返すと、ビスカ女史は更に勢いよく、元気いっぱいな声を返してくる。


「いやいやいやいや、何言ってるですか、ヴィトーさん!

 あたし、よそ者なんですよ! しかも迷惑をかけたよそ者です!

 それが、あんなにいっぱい薪を使うサウナに何度も入らせてくれなんて、言える訳ないですよ!

 普段だって村の誰かが……アーリヒさんとかが誘いに来るの待ってるくらいなんですから!

 そのくらいは弁えているつもりです! 自重です、自重!」


 ……なるほど、それで第一声がサウナだったのか。


 ずっとサウナに行きたくて、誰かが誘ってくれるのを待ち続けていて……人の気配を感じた瞬間サウナ、と……。


 いや、ドハマリしてるじゃん、まさかそこまでサウナにハマってしまうとは……。


 確かに気持ちいいものだし、ずっと不潔にしていた状況からとなれば尚更なのだろうけど……いや、それにしても凄いな。


 元々サウナ好きになる素養があって、それがサウナに出会った結果……ということなのだろうか。


 そんな状況でしっかり学術調査が出来ているのか疑問だったが……ちらっとコタの中を覗き込んでみると、大量の文字が書かれた紙が、まるで洗濯物のように干してあって……うん、調査と記録はしっかりやっているようだ。


 シャミ・ノーマ族には文字の文化がなく、必然紙やペンなども存在していないのだけど、低品質のものなら低ポイントで作れるということで、工房でかなりの数を量産して、彼女に渡してある。


 彼女が調査し、記録し、本を出版してくれたならあちらでの理解が進むはずで……それを考えれば大した出費でもないのだろう。


「―――ちょっと! 何ぼーっとしてるんですか! 今大事な話してましたよ! サウナです!サウナの話ですよ!」


 あれこれと考えているとビスカ女史がずいっと顔を寄せながらそんな声を上げてきて、俺は少し後退りしながら言葉を返す。


「いやまぁ、少し考え事をしていてね……。

 とりあえず元気そうで良かった、調査も進んでいるみたいだし……しっかり仕事をしてくれているなら、サウナにも遠慮なく入ってもらって良いと思うよ。

 それでも気が咎めるなら……中間報告ということでどんな調査をし、どんな記録をし、どんな本を作ろうとしているのか、村の皆の前で発表したら良い。

 そういった発表も学者の大事な業務なんだし……それをしっかりこなしたなら、サウナに好きなだけ入っても誰も文句は言わないと思うよ。

 ……あ、一応言っておくと、過剰に入りすぎると健康を害するから程々にね」


 実際は精霊達がその存在を認めて、歓迎している時点で文句を言う村人はいないのだけど……まだまだ彼女はその辺りの理解が進んでいないようだし、こう言った方が良いだろう。


 調査と研究ばかりだと村人との交流の機会が失われてしまうし……学術発表でもなんでも、交流する機会を持つべきだ。


 そしてビスカ女史が、こう考えてこんな調査をして、こういう研究をしていると皆が理解してくれたなら、ビスカ女史や沼地の連中への理解も深まるはずで……今後彼らとどう付き合っていくにせよ、その理解はプラスに働いてくれるはずだ。


「……わ、分かりました!

 そういうことならあたし、頑張ってみます!

 ……頑張るので、今夜頑張るので……とりあえず今はサウナいってきます!!

 ……あ、そうだ、あたしはまだ混浴までは慣れてないので、ヴィトーさんは来ちゃ駄目ですよ」


 ビスカ女史はそう言ってからコタに戻り、着替えやらタオルやらを抱えて出てきたと思ったら、慣れない足つきで雪を蹴りながらサウナの方へと向かって突き進んでいく。


 俺だってアーリヒ以外の女性との混浴はごめんというか、他の人としたことは無いのだけどなぁ……なんてことを思うが、この村では混浴が当たり前なのだから、ああいう言い方をするのも仕方ないのだろう。


 とりあえず元気そうで仕事もしっかりしているようで、何も問題はないようだと頷いた俺は、踵を返して自分のコタへと……そろそろシェフィが帰ってくるはずのコタへと足を向けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回は色々と変わり始めた村のあれこれです。

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