ガクシャの目的
ユーラとサープの二人と、シェフィ、ドラー、そして合流したウィニアの精霊三人とでサウナに入ることになり……体を綺麗に洗ってから俺達がサウナ室に入り椅子に座ると、精霊達はサウナストーブの上に空中に浮かぶベンチを作り、そこに仲良く座って熱気に蒸され始め……その様子を見て少しだけ目を丸くしたサープが、その目をこちらに向けて口を開く。
「……ところでヴィトー、ガクシャって何なんスか? あいつの目的……なんとなく察している風だったッスけど、良かったら教えて欲しいッス」
「あー……まぁ、なんとなくだけど察しはついているかな。
まずガクシャは、俺の世界と同じなら学ぶ者と言う意味で……恐らくはこちらの文化とか信仰……精霊に関するあれこれを知りたいっていう、知的欲求でここまで来た、んじゃないかな。
調べて研究して、そこから新しい知識を生み出したりして生活の役に立てる人を学者と呼ぶ訳だね。
まぁー、その裏にいるスポンサーというか雇い主の思惑はまた別かもしれないけども……。
で、彼女の具体的な目的についてだけど、それを話す前にユーラとサープに何があったか……あの人達とどんな会話をしたかとか教えてくれる?」
と、俺が返すとサープは頷いて、ユーラと一緒に記憶を探りながら今日の出来事を説明してくれる。
沼地の人々とのやり取り、その後の戦闘、そしてあの学者の女性の言葉。
それらを聞いて俺は頷き……それから考えをまとめて言葉にしていく。
「んー……まず商人の目的は明白で取引の再開だね。
何人も人を雇ってきたのを見ると相当焦っているようで……もしかしたら商人以外の思惑も関わっているのかも。
良い木材は建物はもちろん、船のマストなんかにも使えるから……もしかしたら支配層、貴族とかの思惑も関係しているのかもね。
ヴァークの人達と長年揉めているとするなら、その対抗策として軍船を作ろうとしていても不思議ではないし……そんな状況でやらかしたとなったら商人としても後がないのかもしれないね。
商人以外の男達は多分傭兵で……金を稼ぐのと、上手くすればうちの村を略奪出来るとか、そんな目的でやってきたのかもしれないね。
で……学者はやっぱりさっき言った通りの目的なんじゃないかな、特にほら、魔法と汚染の辺りのことを迷信なんて言っちゃっていることからして、あちらでは瘴気関連の知識継承が上手くいっていないみたいだし……そこら辺を調べに来たんだろうね」
魔法を使うことによって瘴気が生まれ、それが世界を汚染し、世界をおかしな形に歪めてしまう。
俺達シャミ・ノーマ族にとってそれは差し迫った世界の危機なのだけど、彼らにとってはただの迷信……。
沼地から南の世界ではすでに世界が歪み始めているというのに、それを迷信と言い切ってしまっているのは……もしかしたら瘴気が彼らの考え方にも影響してしまっているのかもしれないなぁ。
「ふぅーん? 沼地じゃそういったことを調べるだけでの連中がいるんスか?
知識はそりゃぁ大事ッスけど、知識が欲しけりゃ爺さん婆さんに教われば良い訳で……わざわざガクシャなんて必要なさそうッスけど……」
俺の言葉を受けて少しの間考え込んでいたサープがそう言ってきて……俺はその気持ちは分かると頷いてから言葉を返す。
「一見必要なさそうなことを役立てたり、そこから役立つ何かを生み出したりするのもまた学者の仕事って感じかな。
成果が見えにくいから俺の世界でも必要ないんじゃないか、なんてことを言われていたけど……そういった人達の研究のおかげで生み出された物も多かったし、目に見えない所で生活の根底を支えてくれていたりもしたんだ。
……たとえば俺の銃なんかは、学者達の研究の賜物……科学の結晶の一つだからね。
漢方薬もそうだし……あ、そうだ、俺がシェフィに作ってもらった漢方薬についての『本』……あれこそが学者が生み出した物の代表例だね。
俺は漢方薬に関する研究者……学者じゃないけど、そういった人達が知識を本にまとめてくれているから、それを読むだけでどの漢方薬がどう効くのか、どう使ったら安全なのかがすぐに分かる。
そんな風に皆に分かりやすく、知識を広げることで皆の暮らしを豊かにする……って感じだね」
「あー……なるほど、今のでなんとなく分かったッス。
……なるほどなるほど、あの学者が色んなことを調べて本にしたら、本を手に取った沼地の人皆が同じ知識を得るんスねぇ。
……だから一人で……そして裏にそれをさせているヤツがいる……納得ッス。」
「おお、今のはオレ様にもよく分かったぜ!」
俺の言葉に納得できたのか二人がそう言ってくれて……それから俺は銃の仕組みについてもあれこれと語る。
火薬、薬莢、ライフリング……そのための発射機構が銃で、弾丸の方にこそかなりの知識が、科学が使われていて……と、そんな説明をしていると、シェフィが俺の目の前にやってきて、なんとも予想外の言葉を口にする。
『あ、言い忘れてたけど、ヴィトーの銃は純粋な科学の産物ではないからね。
銃や弾丸……のようなものを精霊の力で作り出している訳で、大元があのポイントなんだから、普通のものとは違うっていうのは分かってたでしょ?
つまりはまぁ、精霊パワーの賜物って訳だね! 仕組み自体は科学のソレだけどね!
……そういう訳でヴィトー、このサウナが終わったら魔獣をたくさん倒したご褒美に銃をボク達三精霊のパワーで、パワーアップしてあげるからね!
ヴィトーも今の銃じゃぁ力不足だって感じ始めてたみたいだし……たっくさん魔獣倒したことで瘴気が一気に薄まったからね! そのくらいの余裕ができちゃったんだよね!
いやぁ……相手も馬鹿だよねぇ、あんな風に魔獣を使い捨てるなんてさ!』
そんな突然のシェフィの言葉に俺は目を丸くし……ユーラとサープも似たような顔をする。
まさかあの銃にそんな秘密があったなんて、とか。
銃がアレ以上強くなってしまうのか、とか。
今回の狩りはそんな大事だったのか、とか。
魔王……のような影は一体何を考えているんだ、とか。
色んな言葉が浮かんできて、頭の中をぐるぐる巡って……巡って、段々と頭が茹だってくる。
そして……、
「そうだ、サウナ中だった!!」
そのことに気付いた俺は砂時計を確認し、とっくに砂が落ちきっていることに気付いて大慌てで立ち上がって、水風呂こと湖の方へと駆けていく。
これ以上はのぼせてしまう、さっさと冷水で頭と体を冷やさなければ。
そうやって駆ける俺の後をユーラとサープと、三精霊が追いかけてきて……そうして俺達は皆で一斉に湖へと飛び込んで茹だってしまった頭と体を一気に冷却するのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はガクシャとのあれこれです。






