一応の決着
――――一方その頃 ヴィトー
盾を構えてグラディスの突進のフォローに徹すると、グラディスはしっかりそれを意識しての対応をし、敵の鱗攻撃が飛んでくる位置に盾を持ってきながら駆け回り……そうして魔獣を踏みつけ、跳び上がり……落下の勢いのままにもう一体の魔獣を踏みつけ、ダメージを与えていく。
そんなことをせずとも角で刺してしまえば良いのではないかと思うが……弱点でもある頭を相手に向けての攻撃よりは踏みつけの方が安全なのかもしれない。
相手の数が多かったから危険を覚悟の上で角を使っていたが、数が減って余裕が出来たので踏みつけで……ということなのかもしれない。
何より鱗魔獣達の攻撃は上には撃てないというか、対空には向いていないようで……跳び上がりからの落下攻撃はそういった面でも安全な攻撃ということになるようだ。
一撃で致命傷を与えることは出来ないが、安全確実にダメージを与えることが出来て……何度も何度も踏みつけられ、鱗をどんどん失っていき、体力と防御力を失うことになった鱗魔獣達は、10回目かそこらの踏みつけ攻撃をくらったことでついにダウンする。
「お、おぉぉ……まさか踏みつけだけでダウンさせるとはなぁ。
……盾があって良かったのか悪かったのか……まぁ、これからも練習をして上手く使えるようになっていくしかないか。
これで鱗魔獣はなんとかなったし、あとはユーラ達と合流して沼地の人達をなんとかしないとなぁ」
「ぐぅ~~~」
俺の上げた声にそう返したグラディスは、荒く息を吐きだしてから首をぐいと上げて、どこか誇らしそうな表情をし……俺は盾をシェフィに預けてから、その首をがしがしと撫でてやる。
そうやってグラディスのことを労っていると、なんとも言えない嫌な予感が……気配のような何かが首筋をぞわりと撫でてきて、慌ててそちらへと視線をやる。
するとその先には以前倒した熊型魔獣が3体立っていて……今度は熊か、まぁ熊ならなんとでもなるかとそんな事を考えていると、熊型魔獣が数歩こちらに進み出てきて……その背後にいた鱗魔獣の姿までが視界に入り込む。
数は2、熊が前衛で鱗が後衛で……まるで一つのチームとか部隊のようだなとそんなことを思いながらシェフィの方へと手をやって銃を受け取る。
鱗2体ならグラディスの踏みつけや角でなんとかなる、熊魔獣なら銃でなんとかなる。
どうして種類の違う魔獣が連携しているのか? とか、魔獣に前衛後衛の概念があるのか? とか、色々気になることはあったけど、あれこれ考えるのは連中を倒してからだと弾込めをしていると、鱗魔獣の更に後ろに大きな影が見える。
大きく力強く……そして悍ましく。
はっきりとは見えないがあれはまさか……、
「ま、魔王!?」
と、思わずそんな声を上げてしまっていると、その影は正体を明らかにしないまま何処かへと去っていき、それと同時に熊魔獣がこちらに駆けてくる。
魔王が生きていたのか? それとも別個体か?
そして魔王がこいつらを率いているのか? 部隊編成なんてことをしているのか……?
さっきよりも強い疑問が次々と湧いてきて、その答えを得るために去った影を追いかけたかったが、目の前の魔獣を無視する訳にもいかないし、俺とグラディスだけで暫定魔王とやり合うのは危険過ぎるし……仕方ないかと銃を構え、駆けてくる熊魔獣に狙いを定める。
まず一体に狙いを定め2連射、終わった瞬間グラディスが駆け出し……発射された鱗がグラディスを狙って次々に放たれる。
俺が再装填をする間、グラディスは駆け続けてくれて……再装填が終わると速度を緩めて狙いやすいようにしてくれる。
先程の2連射で一体倒れていて……残る熊魔獣は2体、このまま数を減らしていけばと銃を構えると、
『ガァァァァァァ!』
と、まるでこちらの邪魔をしているかのようなタイミングで熊魔獣が吠え、鱗魔獣が鱗を発射し、グラディスがそれを避けることで狙いが定まらない。
だが誤射して困る相手がいる訳でもない、揺れるグラディスの背の上で俺は構わず発砲をする。
2連射、そして再装填、駆け続けるグラディスに振り回されながら必死に両足を踏ん張りまた2連射。
グラディスが逃げ続けている限り、あちらが追いつくことも攻撃が当たることもないのだからチャンスはいくらでもある、何ならシェフィが作ってくれた弾帯のおかげで残弾のことを気にしなくても良いし、何を気にするでもなく乱射に近い状態で撃ちまくる。
撃って再装填、また撃って再装填、そうしているうちに熊魔獣が倒れ……もう一体も倒れ、鱗魔獣だけになり、その頃には鱗魔獣の残弾、鱗も減っていて、一体を銃で撃ち、もう一体をグラディスが踏みつけ……という形で決着となる。
魔獣全てが動かなく鳴ったことを確認してから荒く息を吐きだし……それから再装填をしながら周囲を見回し、魔王がいないかの確認をし……何度も何度も視線を巡らせたが見つからず、仕方ないかと諦めのため息を吐き出してから口を開く。
「……チームにしては連携不足だったかな。
前衛後衛が逆で銃弾が効かない鱗が前に立っていたら……簡単には熊魔獣を倒せなかった、かもしれないなぁ」
「ぐっぐー」
俺の言葉にグラディスが同意した……その時、魔王のような影が居た辺りから……影が去っていったと思われる方向から一体の鱗魔獣と熊魔獣がこちらに駆けてくる。
今度は鱗が前、その真後ろに熊。
鱗を盾にするかのようにしてこちらに駆けてくる熊を見て、こっちの話を聞いていたのか!? とか、魔獣を好き勝手に生み出せるのか!? とか、もう何度目だよって疑問が湧いてきて……予想外のこと過ぎて呆然としている俺の目を覚まそうとしているのか、グラディスがなんとも荒々しく駆け出し……そしてその角で鱗魔獣を突き上げる。
今度の鱗魔獣は鱗を発射しておらず、十分な防御力を有していたが……グラディスは角でもって下から上手く突き上げ、脚が生えている穴を貫いていて、見事に鱗魔獣を貫くが同時に熊魔獣に無防備な首を晒すことになってしまう。
「やらせるか!!」
熊魔獣が鋭い爪の生えた手を振り上げると同時に、銃を構え引き金を引く。
ただ銃を構えただけで狙いも何もなかったが、グラディスが動いていなかったのと……散々銃を撃ちまくったおかげか、なんとなくここなら当たるという場所が分かって、そこに銃口を持ってくることが出来て、結果見事に熊魔獣の頭に銃弾がぶち当たり……こちらに駆けてきていた熊は力を失い、すれ違うようにして俺達の横を通り過ぎて倒れ伏す。
それをちらっと見て確認したらすぐさま再装填、銃床を肩に当てて次の魔獣と魔王の襲撃に警戒するが……それ以降は特に何もなく、静かな……ただただ静かな白銀の光景だけが周囲に広がっている。
「……最後二体だけだったのは弾切れというか、瘴気切れか?
いや、そもそも本当に魔王が魔獣を生み出しているのか? 力で支配くらいはしていそうだけど……シェフィ、どう思う?」
油断をせずに警戒を続けながら俺がそう言うと、俺の頭に張り付いていたシェフィは……俺の目の前へとやってきて、キョロキョロと周囲を見回してから言葉を返してくる。
『……正直ボクにも何がどうなってるのかは分かんないな。
ただ瘴気は綺麗に消えた、綺麗過ぎる程に綺麗になった……まるで浄化が終わったみたいに周囲が綺麗だ。
ヴィトーが言った通り、瘴気切れみたいなことが起こったのかもしれないな。
それだけ相手も無茶をしたのか……あるいはこの辺りの瘴気を失ってでも確かめたかったのかな、あの動きが有効かどうかを。
なんだっけ……こういうの、ヴィトーの世界だと威力偵察って言うんだっけ?
……まぁ、あの影の気配はボクでも感じ取れないくらいに遠ざかったから、とりあえずは気にしなくて良いよ。
あれ程の気配なら近付いてくればすぐに気付けるしね……だからとりあえず、今はよくやったということで村に帰ろうか、ユーラ達のことも気になるしね』
そう言われて俺は頷き……グラディスに村に戻るように指示を出す。
それからグラディスはゆっくりと村に向かっていき……その間俺は、シェフィのことを信じていなかった訳ではないけども、どうにも不安で銃を手に持ち続けるのだった……。
お読みいただきありがとうございました。
次回はユーラ達が出会った女性やら何やらです






