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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第一章 スロー・スノー・サウナ・ライフ

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その後のあれこれ

 俺とアーリヒが混浴したこと、そして一歩前進した関係となったことは……アーリヒが友人達に自慢して回ったことにより、あっという間に村中に知れ渡った。


 村に戻ってきたユーラとサープは、


「まぁ、時間の問題だったろうしなぁ」


「朝食持ってきてくれたって時点で察するッスよねぇ~」


 なんてことを言った後に祝福してくれた。


 各家長も精霊の愛し子と族長という妥当な組み合わせであったことと、前世で女っ気がなかったことに同情してくれたこともあって、今生くらいは良い女性とくっつけとか、そんなことを言いながら祝福してくれた。


 村の女性陣もアーリヒから相談を受けたり、アーリヒの背中を押していたりした関係で祝福してくれて……村の大体の人達が俺達のことを祝福してくれたという結果となった。


 一部の若者達……アーリヒのことを狙っていた男達はとても不満そうで、俺の顔を見る度何か言いたげにしていたが……何を言う訳でもなくする訳でもなく、渋々ながらもう決まったことだからと受け入れるつもりであるらしい。


 シャミ・ノーマ族の価値観において正式な男女交際というのは婚約とか結婚にほぼ等しい。


 相手の気持ちを確認し、それを言葉にし、お互いに相手のことを受け入れたなら男女交際がスタートすると同時に婚約が成立すると、そんな文化となっている。


 相手の気持ちを確認せず、言葉にせず、ただその時の気分で遊ぶだけという場合は正式な男女交際であるとは見なされず、サープはもっぱらこちらの男女交際を楽しんでいるようだ。


 そんな正式な男女交際に対し文句を言うとか横槍を入れるというのは、正式に決まったことにケチをつけるというか、破ってはいけない約束事を横から破ろうとする行為であり、男性と女性の家それぞれに対し宣戦布告をするに等しく……アーリヒを狙っていた若者達にそこまでする勇気はなかったようだ。


 ……仮に彼らにその勇気があったのなら、結構前に結婚適齢期を迎えていたアーリヒととっくに、俺が記憶を取り戻す前にくっついていたのだろうなぁ……。


 今回の件で一番勇気があったのは、俺をサウナに誘い、一緒にサウナに入り、気持ちを伝えてきてくれたアーリヒであり……俺は今後その勇気や気持ちに応えられるよう、頑張っていかなければならないのだろう。


 とはいえアーリヒには族長の仕事があるし、俺には魔獣狩りという大事な使命があり……そのどちらもおざなりにする訳にはいかず、俺もアーリヒもそれぞれのすべきことをしながら交際をしていくことになる。


 一緒に遊んだりサウナに入ったり、会話を楽しんだり……お互いのことを知りながらいつか至るゴール……結婚への準備をしていくのがシャミ・ノーマ族の交際となる。


 ……そう考えるとサープがやっていることは大変アレというかなんというか、問題のある行為のようにも思えるのだけど……まぁー、両者合意の上だから構わないのだろう。


 とにかくそういう訳で俺達は、パートナーを得ての新たな日々を送ることになった。


 ……ただまぁ……魔王が沈んだ湖の確認に行っていたサープが持って帰ってきた報告によってただただ幸せでラブラブな日々という訳にはいかなかったのだけども……。




「サープの報告によると、魔王の姿はどこにもなく、湖から何かが這い上がって南の方へと去っていった痕跡があったとのことです。

 他の三体の魔獣の死体はそのまま放置されていたそうで、今日の昼過ぎには村に到着するようです」


 アーリヒとは中々会えないはず、お互いの仕事が優先されるはず、それでもお互いのことを思う気持ちがあれば大丈夫……なんてことを考えていたのだけど、混浴の翌日、朝の俺のコタにはどういう訳か当たり前のようにアーリヒの姿がある。


 あの時のように朝食を作ってもってきてくれていて……一緒に朝食を摂りながら様々な話題を振ってくる。


「まぁ……それでもやることは変わりません、魔王がいつ出てきても良いように、魔王級の別の魔獣がいつ出てきても良いように対策をするだけのことです。

 村の狩人達もやる気を漲らせていて……魔王殺しを成したものは未来永劫語り継がれる狩人と……勇者と呼ばれる存在になるだろうと、そんなことまで話し合っているようです。

 それとミリィはすっかり良くなって元気に駆け回っていましたね……風邪を引いた子供がこんなにも早く元気になってくれるというのは中々無いことで、それがこれからも手に入る薬のおかげというのは本当にありがたくて……村の母親達もおかげで心が軽くなったと本当に喜んでいましたよ」


 笑みを浮かべて楽しそうに……以前とは少し違って、緩んでいるというか油断しているというか……族長ではない一人の人間としてのアーリヒは本来、こういう顔をする女性なのかもしれないなぁ。


「……ヴィトー、どうしました? スープは美味しくなかったですか?」


 あれこれと考え込んでいるのが顔に出ていたのか、アーリヒが心配そうにそんな声を投げかけてきて、俺は飲み干したスープ皿を置いてから言葉を返す。


「いや……こう、魔王のこともそうなんですけど、族長の仕事で忙しいアーリヒとは中々会えないかなと思っていたのに、結構普通に会えているから驚いたというか拍子抜けしたというか……いや、凄く嬉しいしありがたいことなんだけどね」


「ああ、そういうことですか。

 それはまぁ……昼間は忙しいですけど、忙しいからって普通に生活を送れない訳ではないですし……二人の時間を作るためなら多少無理をしたとしても苦になりませんよ」


「い、いやいや……無理はしなくて良いからね、無理は。

 これから長い付き合いになるんだから、無理をせず無茶をせず、自然体でいられる関係の方が良いだろうし……」


「えぇ、もちろん無理をしていけないというのはよく分かっていますよ。

 ただ……まぁ、ほら、付き合い始めたばかりですし? 嬉しくなってこういうことをしたくなって、止まらなくなるってこともあることなんですよ」


 そう言ってアーリヒはにっこりと微笑み、こちらをまっすぐに見つめてくる。


 それを受けて俺もアーリヒを見つめていると……俺の頭上から声が響いてくる。


『コホン! 二人の時間とか言っちゃってくれてるけどさ! ここにはボクやグラディスとグスタフもいるんだからね!!』


 それはシェフィの声で、グラディスとグスタフも、


「ぐぅーう」

「ぐー」


 と続いてくる。


 そんなことを言われても、俺達はこういう関係なんだしなぁ、なんてことを考えていると空中に浮かびながらアーリヒ手製のスープを飲んでいたシェフィはなんとも苦々しい顔をしはじめて……そんなシェフィを見て俺とアーリヒは同時に吹き出す。


 そうして俺達が笑っているとシェフィは、なんとも不満そうに頬を膨らませる……が、俺達はシェフィが俺達のことを応援してくれていることをよく知っていたので、そんな様子さえもが面白く、更に笑ってしまって……そうして俺とアーリヒはしばらくの間、そこまで笑うことでもないだろうと思いつつも、幸せやら楽しいやらで笑い続けることになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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