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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第五章

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やったか!?


「やったか!?」


 あえてそんなことを言ってみる。


 ネタが通じたシェフィが半目での抗議をしてくるが……特に何事もなく封印はそのまま続行されて、精霊モドキは小さなサイコロのような塊となる。


 そしてシェフィがそれを持ち上げて、ぽつりと言葉を漏らす。


『最後には完全に精霊になっちゃってたね、馬鹿だなぁ。

 精霊ならどうとでも出来ちゃうんだよ、精霊じゃない方が厄介だったのに。

 精霊は世界の理の中の存在、こいつは世界の理を上書き出来るような存在、全然高次元にいたのになぁ……結局自分がなんで負けたかも分かっていないんだろうねぇ』


 その言葉に応えるかのようにサイコロが白く光り、そこから一気に光が広がって……広がった光がまたサイコロに集まり、光の中にある何か……恐らく瘴気と共にサイコロの中に封じ込まれる。


 と、同時に地震のような何かが起きる。


 地震のように地面が揺れているのだけど、前世で散々味わった地震とは何かが違う……地面が揺れていると言うよりはもっと大胆に地面が横滑りしているような……空港にあった動く歩道のような何かを感じる。


「うぉぉぉぉ!?」


 グラディスの背の上でもその動きは強く感じて、俺が慌ててグラディスに抱きついていると、段々と動きが収まって……世界がしんと静かになる。


 すると封印のために集まってくれた精霊達がニコニコ笑顔を浮かべながらどこかへと去っていって……それと入れ替わりになる形でユーラとサープ、ロレンス達が駆けつけてくる。


「どうなった!?」

「どうなったッスか!?」


 と、ユーラとサープ。


「こっちは戦ってた魔獣が砂になって消えたぞ!?」


 と、ロレンス。


 俺はどう説明しようか迷った上で、もっとも簡単かつ明確に今の状況を説明出来るだろうアイデアを思いつき、口にする。


「ロレンス、魔法を使ってみてくれないか?」


 その言葉にユーラとサープは衝撃を受けた顔をするが、シェフィは素知らぬ顔で俺の頭に張り付いていて、それを受けて問題ないと判断したのかロレンスが、よく分からない言葉で呪文を唱えて魔法を使おうとする。


 ……が、何も起きない。


 それを見て慌てたロレンスの仲間達も使おうとするが誰も魔法を使うことが出来ない。


 完全に魔法がなくなった。


 そのことに気付いてユーラとサープはハイタッチで大喜びをし始め……ロレンスは覚悟していたのか何もリアクションをしないが、周囲の仲間達は動揺と混乱の中にあり、酷い有様だ。


 ……まぁ、火起こし一つも魔法に頼っていたみたいだからなぁ、それが全世界から同時になくなったとなればパニックになるのも仕方ないのだろう。


 ではあのままアレを放置していたら良かったのか? というと世界が歪んで滅んでいた訳で……どういう被害が出るにせよ、受け入れてもらうしかない。


 前世社会のインフラ崩壊程の混乱にはならない……はずで、こちらからも知識は提供出来るので、それで頑張ってもらうしかない。


『あー、とりあえず帰ろうか。

 生活立て直しの支援とかはまた今度……村の大人達にも頑張ってもらえば良いよ。

 戦った皆と恵獣達はまずは休まないとね、体壊したら元も子もないよ』


 と、シェフィがそう声を上げたことでこの場は解散となる。


 またゲートを通って村に戻って、戻り次第グラディスや恵獣達の世話をして、丁寧にしまくって蹄の手入れもしっかりしてやって……それからサウナに入って休憩。


 魔王の中の魔王を倒したという成果があるが、もうこれ以上戦う相手はいないということからこれ以上の加護はなし。


 一応、混乱が起きるだろう今後の世界の治安維持のために今ある加護はしばらくの間、残してくれるらしいが、それも直に弱くなっていく……らしい。


 そしてポイントは……、


『どーんと82億ポイントあげちゃう!

 ここはケチらないよ! こっちの世界を救ってくれたんだからね! 少なくても三代は困らない程度はあげないとね。

 ただし、武器とかはあんまり作ってあげないよ、何かヤバい事態が起きた時には特別作ってあげるかもだけどね。

 そのつもりで使い方を考えておいてね』


 という言葉と共に82億ポイントももらうことになった。


 ……いや、どうしろと?? 82億って、今まで1000ポイントとかをどうにか工面していたんだけどなぁ。


 ……三代どころか十代先まで飢えることがなさそうな量だけども……まぁ、もらえるものに文句を言うのもおかしいか。


 一緒にサウナに入っていたユーラとサープもあまりの数字に唖然としてしまって、何も言えないでいる。


 水風呂もその後の休憩も唖然としたまま……何もコメント出来ない。


 村に戻って大宴会の開始、世界を救った英雄である俺達を讃える宴会でも二人は唖然としたまま。


 あんまりにも唖然としているので事情を村の皆に説明すると……村の皆も同じように唖然とすることになる。


 最初は82億という数字のことが理解しきれていないみたいだった。


 まぁ、普通に生活していて使う桁ではないからなぁ。


 だから丁寧にどのくらいの量かを説明すると……唖然さが更に悪化して、結局その日の宴会はあまり盛り上がらなかった。


 皆食べたし飲んだし、それなりに楽しんだけどもそれよりも82億ポイントが気になって仕方ないようだった。


 それからしばらくは村の誰もがふわふわとした気持ちで日々を過ごすことになる。


 もう魔獣がいない、瘴気がない、世界が滅ぶ心配をしなくて良い、その上で82億ポイントという後ろ盾が当面の生活を支えてくれる。


 そんなふわふわの日々が終わったのは、世界の変化を皆が感じ取ったからだった。


 たとえば漁でとれる魚の量が明らかに増えたらしい、海が一気に豊かになったかのような変化だそうだ。


 そして空を飛ぶ鳥の数が一気に増えた。


 急に成鳥の状態で現れたってことはないだろうから、今まで瘴気や魔獣を恐れて隠れていた動物達がそうやって動き出したということの証拠なのかもしれない。


 そのうち動物も増えるのだろう、虫なんかも増えるのだろう。


 自然の回復力で一気に動植物が大地にあふれかえるのだろう。


 それが皆が望んでいた未来の光景で……それを目の当たりにしてようやく皆は強い実感を得ることになって、それから改めて全員笑顔で大騒ぎをしての、大宴会が行われることになるのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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