コミカライズ3巻 発売記念SS
ある日のこと。
村の外れに人だかりが出来ているのを見かけてそちらに向かうと……木材やら鉄剤やらを積み上げた一画で、大人達が首をひねって頭を悩ませていた。
「何かあったんです?」
あまり見ないそんな光景に、そう問いかけると大人の一人が言葉を返してくる。
「ああ、恵獣様のためのサウナを作ろうとしているんだが、どうしたら良いか分からなくてな」
「……恵獣様の? えっと、毛皮もあるし人間のように熱するのは危険のような……」
「もちろん分かっている、だからこそどうすべきか悩んでいるんだ。
低温で蒸す感じが良いのか……しかしそれでは気持ちよさが減る気もするし、だけども毛並みは美しくなるに違いないし、どうしたものだろうかなぁ」
「う、うーん……。
弱めのサウナか……前世ではミストサウナっていうのがありましたけど、こちらで再現するのは難しいでしょうし……」
と、俺がそう返しているとシェフィとウィニアが飛んできて声をかけてくる。
『出来るよ! ミストサウナ!』
『……まかせて……』
「出来るの!?」
思わずそう声を上げた俺に二人はコクコクと頷いてくる。
どうやら風の精霊の力でどうにかしてしまうらしい。
ミストサウナなら低温でも楽しめるだろうし、毛の汚れを落とすのにも向いているだろう。
後は恵獣が入りやすく、くつろぎやすい構造にしてやれば問題ないはずで……すぐさま大人達がそこら辺の話し合いを始める。
……そうして数週間後。
湖の近くに大きな厩舎を思わせるサウナが出来上がり……その中にはウィニア印のサウナストーブが置かれ、そこに火を入れて水を入れておけばミストサウナにしてくれるという代物。
それを作るのに結構なポイントを持っていかれることになったが……順番待ちが出来るくらいには恵獣に気に入ってもらえたようで、大好評となっていた。
ただミストと熱気を浴びるだけでなく、世話係も中に入ってのブラッシングなども行われて……じっくり体を温めたなら水風呂、その後普通の厩舎に移動しての休憩タイムも味わうことが出来る。
それは本当に大好評で、我が家のグラディスとグスタフも気に入ることになり……それからはほぼ毎日サウナに通うようになった。
……結果、元々ふわふわだった毛が更にふわふわになるようになり……鼻とか蹄、角など毛以外の部分もツヤツヤになり……村と全く関係のない野生の恵獣までやってくるようになって、順番待ちが加速。
最終的にはもう一軒サウナを建てて解決するという荒業が行われることになり……そこでの人、または番との出会いなども活発化、恵獣の数そのものの増加にも寄与しそうで、恵獣用サウナはまさかの大成功となる。
「……思いつきで言ったミストサウナがまさかこうなるとはなぁ……」
そんな光景を見やりながらそう言うとシェフィとウィニアは、
『まさにヴィトーに期待していたことだね!』
『うんうん、こういうのも大事なことだよ……』
と、そう返してきて……それからご褒美ということでまさかの5000ptをもらうことになる。
……これでももらえるんだ、なんてことを考えながら俺はそのポイントで、アーリヒに何かプレゼントでもするかと頭を悩ませるのだった。
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