決断
ユーラ達と合流したなら、一旦村に帰ることにした。
何しろ特殊弾全部を使ってしまったからなぁ……しかもワニの討伐は仮面の精霊がやったことで、俺ではなく恐らくポイント的にも大赤字。
色々と立て直す必要があるだろうということでゲートを通って村に帰る……と、地球儀の周囲に人だかりが出来ていた。
ざわつく皆の視線は地球儀の一点に集まっていて……恐らくさっき俺達が戦っていた場所なのだろう、そこが真っ青に染まっていた。
「お、おお、ヴィトー、帰ったか。
あそこな、少し前まで真っ赤だったんだが、突然青くなったんだよ。
あの中央から広がるように青くなって、青い円が出来上がった。
……あれって浄化、なんだよな?」
すると村の大人の一人がそう声をかけてきて、俺はとりあえず頷く。
封印や杭のことを言って良いのか分からないので何も言わず、浄化されたことは本当なので肯定だけする。
しかしそれで十分だったようで、ざわついていた皆はこれが精霊様の力かと、そんなことを言って感謝や祈りの言葉を口にしていく。
……うぅむ、しかし一発の封印でこの広さか、杭を打ったのがあの円のように青くなっている場所の中心として、そこから大体……前世知識で言う2~3個分の国を飲み込む円が出来上がっている。
その大陸の5割かそれ以上か……凄まじい一撃だったようだ。
『元々浄化が進んでいたし、魔王級討伐も同時に出来たからねぇ。
いきなり同じことをやってもああはならない……けど、それでも十分な効果が出るに違いないよ。
それだけあの杭は凄い発見、全く新しい浄化戦略と言えるね』
頭の上のシェフィからそんなこと言われて、なるほどなぁと頷いていると、アーリヒが姿を見せて小声での耳打ちをしてくる。
(サウナに入ったら私のコタに来てください、あの現象について話し合いたいので)
そう言われて頷いた俺は、とにもかくにも穢れを落とさないといけないなとサウナに向かう。
今日のサウナはショウガサウナ……すっかりとブームになっていて、定期的に行われているそれを堪能したなら、アーリヒのコタへ。
ユーラとサープは恵獣の世話をするそうで、グラディスの世話もお願いと頼んでから向かう。
族長アーリヒのコタにはアーリヒとビスカさん、ベアーテさん、それと長老衆の何人かが待っていて……クッションの上に腰を下ろした俺は、向こうで何があったかの説明をしていく。
「―――と、そんな浄化方法が開発されたようで、それを上手くやれば世界中の浄化が一気に進むそうです。
……逆を言うと同じくらいの勢いで魔法が使えなくなるので、相応に混乱も広がりそうですが……」
「……そこまでのものか? 我々は魔法がなくとも暮らしていけているぞ?」
俺の説明が一段落した所で、長老衆の1人がそう問いかけてきて……俺はどう説明したものかと頭を悩ませ、これなら分かってくれるかな? という例え話を組み立ててから口を開く。
「えっと……俺達で言うならある日突然、火起こしが出来なくなった、みたいな状況になってしまうんですよ。
当たり前に出来ていた、生活に欠かせないことが突然出来なくなる。
他に方法があるのは知っているけど、やったことはなくて、本当に出来るか分からなくて、それをやっているうちにどんどん時間や燃料、道具なんかがなくなっていって……生活が破綻していってしまう、という感じです」
「……確かに何も知らない子供に、いきなり火起こしをやれと言っても難しいだろうが……そうか。
沼地には相当な数の人間がいるという、その全員が突然そうなったら、混乱もする……か」
まだ完全には納得していないのだろうが、それでも大枠は掴んでくれたようで長老衆達はあれこれと話し合い、自分達の中で情報を整理していく。
そして流れを見守っていたビスカさんが声を上げる。
「……火起こしだけの話ではないですね。
洗い物に使う水、織り機などを動かす仕掛けの原動力、傷の浄化に治療など、生活のありとあらゆる面で魔法が使われています。
それが突然使えなくなったら……パニックが起きるのは当然として、反乱や暴動に繋がって、そのまま国がなくなってもおかしくないですね」
それは……あり得るだろうなぁ。
治安維持をする側も魔法に依存しているのだろうし、統治やら事務作業やら国の運営にも深く関わっているのだろう。
それが突然なくなったなら……何十年レベルの混乱が広がるかもしれない。
……だからと言って浄化をやめる訳にはいかないし、いつかはそうなる、汚染でもっと酷くなると警告はしていた訳で……その時のための備えや対策を全くしていないとなったら、それはもうあちら側の責任で、こっちが気にする話でもないように思える。
……そう言い訳しても良心はきっと痛むのだろうけど、だからとって今更どうしろって話でもある訳で……。
『んー、ちゃんと反省して学んで、自立を約束してくれるのなら、当分の間、工房の品でなんとかはしてあげるけどね。
ただしそれも期間限定……ちゃんと自立しようと努力している間に限ったことだけどね。
また魔法みたいに依存されちゃたまらないし、そこを約束できるなら浄化後に必要最低限の生活物資をあげても良いよ』
突然のシェフィの言葉に、その場にいた全員が硬直する。
え? 良いの? 誰もがそんな顔をしていたのだろう、それを見てシェフィが言葉を続けてくる。
『そりゃ良いよ、ボク達の目的はあくまで浄化、彼らを罰することじゃないからねぇ。
それにさ、忘れてるだろうけどそれだけの浄化が出来たら、それはもう凄いポイントが手に入るんだよ?
向こうの住民って何十万とか何百万人とかだっけ? それがこっちに押し寄せてきても困るしさ、相応の物資をあげちゃった方が楽で良いよ。
向こうの……なんだっけ? 商人とか貴族だっけ? あれに連絡取ってさ、準備してもらいながら杭を作って、杭を打つべき場所と相手を見つけて……さっさとやっちゃおう。
……あ、それとこの辺りにも一応杭を打っておくよ。
もう瘴気なんて微塵もないんだけど、魔法を使えないようにするのは大事だからね。
……場所は、前に魔王が落ちたあの池が良いかな。
杭が出来上がったら皆であそこに行って、封印しちゃおっか』
どこまでも軽く、何事でもないようにそう言うシェフィ。
俺達はそんなシェフィに対し、ただただ頷くことしか出来ず……とりあえずそんな感じで、今後の方針が決定となるのだった。
お読み頂きありがとうございました。






