新しい武器
とりあえず使いの人にはそのまま帰ってもらうことにした。
これから厄介事がやってくるという中で、この辺りにいると巻き込まれてしまう可能性があるし、侵入者と同類を見なされて村の誰かに攻撃される可能性もあったからだ。
その際に、ロレンスには状況が落ち着くまで絶対に近寄らないようにとの伝言を頼んでおき……ついでに今は冬眠明けの獣がウロウロしているから、絶対に道から外れないようにとも警告をしておいた。
罠のことを伝えるという手もあったのだけど、これから侵入者がやってくるというタイミングで、重要な情報を漏らすのは躊躇われて、獣のせいにすることにした。
そして花モグラ恵獣のグオラにも、侵入者に気をつけるように伝えてから村に戻り、皆にそのことを話すと……村の皆の血の気は一気に燃え上がり、武器を用意しての迎撃準備が始まった。
「殺す、絶対に殺す」
「誰一人として帰すものか」
「肉片のかけら一つまで森の中にばら撒いて、獣の餌にしてやるぞ」
なんてことを言いながら目を血走らせていて……好戦派とは何だったのか? というような有様だ。
まぁ、今回はあくまで迎撃……こちらから攻め込むのではないので話は全然違うが、それにしてもと思ってしまうなぁ。
『……なんてことを考えているヴィトーも、大概だと思うよ? いや、責めてるんじゃないよ、誇らしく思っているさ』
そういう訳で数日後、村から南というか、沼地からすぐ北の地点にある山の上にある崖のようになっている場所で、侵入者対策として色々と準備を進めていた俺に、シェフィがそんな声をかけてくる。
「……まぁ、今回ばかりは俺も覚悟を決めたからね。
殺したくはないと思っているけど、村を守るために皆が覚悟を決めているのに、俺だけ逃げる訳にはいかないだろう?
それに……ただでさえ魔法で世界を汚染しているってのに、麻薬を流したり過剰な戦力で攻め込んできたり、ラインを踏み越えてきているのは向こうの方だし、容赦はいらないでしょ」
と、俺がそう返すとシェフィは、俺が用意した道具……槍やら弓矢やらの上でふわふわ浮かびながらにんまりと笑って弾む声を上げる。
『そんなこと言いながらあの銃は使わないんだね? やっぱり猟銃だから?』
「……まぁ、そうだね。
あれはあくまで猟銃で、魔獣と戦うためのもので……人に向けたくはないかな。
それにほら、猟銃の射程内まで近付くとなると危険も増えるからね……余程のことがない限りは使うつもりはないよ」
『そっか……じゃぁ、うん、これを皆で作っておいたから、使っちゃってよ』
と、そう言ってからシェフィは、いつもの白いモヤから細長い何かを引っ張り出してくる。
「……スナイパーライフル?」
大きなスコープ、これまた大きなサイレンサー、伏せて構えた際に支えになるバイポッド、大きなマガジンもついている。
『そ、ライフル。
これは猟のための銃じゃないから良いでしょ? それにほら、大会に優勝したら新しい武器が作れるくらいのポイントあげるって言ってたじゃん?
だからそれでライフルを作ってあげたんだ……精霊印の魔法銀製、オールシルバーで格好良いでしょ? ちゃんとストックにはボクのマークもつけてあるし、サイレンサーは精霊の力で完全無音で耐久性も抜群、弾もちゃんと用意してあるよ。
……鉄の鎧くらいなら余裕で、石壁も結構なとこまで貫通出来るんじゃないかな』
なんてことを言いながらシェフィは、モヤから出したそれを渡してきて……それを受け取った俺は、
「あ、ありがとう」
と、言いながらしっかり構えてみたり、各種レバーを操作してみたりとしていく。
安全装置はどれなのか、マガジン関連のレバーはどれなのか、スコープを覗いた感じはどんなものなのか、バイポッドはどうやって開くのか……などなど。
何度かの操作を経て大体のことが分かったなら、今度は撃つつもりでの構えを取ってみる。
まずは膝立ちで肩に当てて、次にバイポッドを立てて寝そべって構えて……。
うぅん、とりあえず寝そべって撃った方が良さそうだ、肩に当てて撃てないこともないが、猟銃より重く長いせいか銃口が安定せず、ちゃんと命中させられるか不安が残る。
「このスコープの調整って、どうなってるの? なんかこう、位置とか倍率とかを操作するためのネジとかが無い気がするんだけど……」
寝そべって構えてスコープを覗き込みながらそう言うと帰ってきた答えは、
『ボク達が工房で調整してるからヴィトーは気にしなくて良いよ、倍率もボクが適宜調整してあげる』
というものだった。
うーむ、至れり尽くせり……そういうことならと、とりあえずスコープに慣れるために崖の上からあちこちを見渡していると……なんとも目立つ旗がスコープの中に映り込む。
3メートルかそれ以上か、随分長い棒の先から逆さ五角形の……動物か何かをモチーフとした絵の描かれた旗で、そんなものが何本もあって、こちら……というか北に向かって進んで行っている。
「……もしかしてアレ、連中が掲げているのか?
侵略しておいて、あんな目立つもん掲げているの? 嘘でしょ? どんな軍事行動であれ、居場所がバレるのはリスクでしかないはずなのに……」
なんて声を上げていると、俺の頭の上にぽすんと座ったシェフィは、
『大した文明もなければ魔法も使えない、辺境蛮族相手と舐めてるんだろうね。
下手すると弓矢すら持ってないと思ってるんじゃない?』
なんて言葉を返してくる。
「……弓矢がなかったとして投槍器を使われたらどうする気だったんだろう……。
どちらも原始レベルの武器だと思うんだけど……。
……さて、どうしたものかな……皆に知らせるために一旦ここを離れるか、それとも攻撃するか……」
と、そんなことを言いながら俺が悩んでいると……いつのまにか背後にやってきていたグラディスが、俺の背中を口で突きながら声を上げてくる。
「グゥ~グゥグゥー」
『グスタフを村に行かせたから大丈夫だってさ、そしてグラディスが周囲を見張っててくれるから、存分にやりなさいってさ。
村にはドラー達がいるし、ドラー達ならグスタフからの報告をみんなに伝えてくれるはずだよ』
直後シェフィがそう通訳してくれて……グスタフを安全な場所に逃がすと同時に伝令をさせるとは、流石だなぁと感心しながら、しっかりとライフルを構え直す。
そして……旗の下へと銃口を向けて、なんとも呑気に行進している一団へと狙いをつける。
騎乗している全身鎧がいて、その周囲に歩兵というか、旗を持ったり武器を持ったり、様々な形で騎士をカバーするための面々がいて……最後尾は荷車を引く何人か。
騎兵の運用ってあんな感じにするものなんだっけ? なんて疑問を抱くが……流石に騎士の運用どうこうまでは詳しくないからなぁ、なんとも言えない。
特に連中は魔法を使う訳だから、それ前提の行動の可能性もあるし……その辺りにも気をつけながら叩く必要がありそうだと、そんなことを考えたなら深呼吸をし……覚悟を決める。
そうしてスナイパーライフルの引き金を引いたことで、侵略者との戦いが開始となるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回開戦






