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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第四章

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VSサープ


 サープと組み合い、力を入れ始めはしたものの、全力を出すことが出来ない。


 先ほどの一瞬の決着が印象深く、何か仕掛けてくるんじゃないかと思うと、迂闊に力を込められなかった。


 それすらもサープの作戦なのかもしれない、あえてあの勝ち方を見せつけてきたのかもしれない。


 組み合ったサープの顔には常に笑顔が浮かんでいて、多少の汗をかいてはいるものの疲労の色も見えず、かなりの余裕がありそうだ。


 そりゃぁそうだよなぁ、さっきの試合、一瞬で終わったもんなぁ……ユーラとやり合った俺とは違うよなぁと、そんなことを考えながら俺は少しずつ慎重に力を強めていく。


 何かを狙っているんだろうが、いつまでも攻めないでは勝ち目がない……と、その瞬間ユーラがまるでそこにいないかのように、いきなり空気に変わってしまったかのように抵抗がなくなる。


 それを受けて俺はその場に踏みとどまり、それ以上押さずに姿勢を崩さないようぐっと耐えようとする―――と、俺の両肩を掴んでいたサープの両腕が俺を引っ張ろうとしてきて、そんな俺の動きが予想外だったのかバランスを崩してたたらを踏む。


 それを隙と見て俺は一気に押し込むが、サープはそれを受け流すように横に動き、ぐるんと回転する形となって立ち位置が真逆となり、それでも構わず押し込み続ける。


 サープにしては受け流し方が雑な気がする、受け流すついでにこちらを転ばそうとしてくるだろうにそれをしてこない、立て直す機会を与えるべきではないと押して押して、あと少しで円の外という所まで押し込むが、そこでまたサープは受け流しからの回転を狙ってくる。


 ならばと全身に力を込める、そして踏ん張り位置替えを拒否する。


 サープが全力を出してきたなら、小柄な俺の方が不利というか振り回されてしまうのだろうけど、ここでサープが全力を出してくるとは思えず、ここが意地の張りどころだと懸命に踏ん張る。


 すると汗が吹き出してくる、体力の限界が近いのだろう息も荒くなってくる。


 それでも踏ん張って踏ん張って……そうしているとサープからも汗が吹き出してくる。


 体力に余裕があるのはどちらなのだろうか? 両方同じくらいなのだろうか? それとも俺が不利?


 ここで踏ん張り負けるときっと負けてしまうよなぁ、土俵際で踏ん張れる程の体力は残っていないし、このまま有利の立ち位置のままで戦い続けたい。


 というかここで位置を逆転されたらもう元には戻せないだろう、それだけの体力はもう残っていない。


「……ッ」


 厳しい顔をしているサープに何かを言おうとしても言葉が出てこない。


「……」

 

 サープもまた口を開くけども、声を出すような余裕はないみたいだ。


 その代わり周囲からの歓声がどんどん大きくなっていって……大盛りあがり。


『もっともっと踏ん張って、楽しませてー』

『良いぞ! もっと魂を燃やせ! まだまだ燃やせ! もっといけるはずだ!』

『頑張って、ふたりとも』


 精霊達もそんな声を上げて煽ってくるが、正直体力は限界で、これ以上踏ん張ることも頑張ることも出来そうにない。


 やっぱりユーラ戦での無理がたたったらしいなぁ、サープの体力はあとどれくらいなのか……このまま負けもあるかもしれない。


 ……と、覚悟を決めていると、サープが勝負に出たのか両腕に力を込めてくる。


 それと同時にユーラがやったように足を絡めようとしてきて、どうやらあの時の技を再現しようとしているらしい。


 腕で押して足で払って、そうやって俺を倒そうとしているようで、その手際の良さはユーラ以上だった。


 一目見ただけで習得してしまったらしいその技を、俺は懸命に足を抜くことで避けようとする。


 正直足を上げるだけでもしんどいのだけど、それでもここでしっかり抜かないと転んでしまうと必死に上げて……足を抜いたならすぐさま地面について踏ん張るが、体力が尽きて踏ん張りが効かなくなっているのか、俺もサープもバランスを崩しかけてしまう。


 そこからはもう必死の無意識だった、何も考えずに体を動かしていた。


 サープの腕を左手でぐっと掴み、右手をサープの背後というか腰に回し、腕を引き腰を持ち上げ、なんとかこう一本背負い的なことが出来ないかと無我夢中で体を動かす。


 だけどもそんな技術もなければ体力もなく、半端な形でサープの体を持ち上げる形になり……奇跡的になんかの柔道技、多分大腰? のような形となってサープの体が浮き上がって回転して、地面に叩きつけられる。


 サープは驚愕の表情をこちらに向けながらも器用に受け身を取って衝撃を殺しながら地面に横たわり……俺も精根尽き果てサープの腕を掴んだまま地面に膝を突く。


「勝負あり! ヴィトーの勝ち!!」


 そしてアーリヒの声。


 そして村の皆の大歓声が上がる中、俺もサープも息を荒げて汗を流し、何も言えずにただただ体を休める。


 するとそれを察してくれたのだろう、シェフィ達がタオルを持ってきてくれて、更にアーリヒが水が入った壺とカップを持ってきてくれる。


 工房で作ってくれたらしいタオルでもって汗を拭き取りながら、カップではなく壺自体を受け取ってそこから直接水を飲む。


 サープもビスカが持ってきてくれた壺で同じことをしていて……お互いに本当に本当の限界だったようだ。


「優勝、おめでとうございます、よく頑張りましたね」


 水を飲み干したのを見計らってアーリヒが微笑みながら声をかけてくれる。


「おう! やったじゃねぇか! オレ様に勝ったんだからそうじゃねぇとな!」


 いつの間にか側にやってきていたユーラと、


「……ま、負けたッス、次は勝つッスよ……」


 息も絶え絶えといった様子のサープも声をかけてくれる。


『おめでとー! 

 優勝者のヴィトーは何か望むものあるかな? ある程度なら叶えてあげるよ!』


『おう、おめでとさん、根性見せたな』


『おめでとう、すごかったよ!』


 シェフィ、ドラー、ウィニアの三精霊も声をかけてくれる。


 そしてニヤニヤ笑顔のシェフィを見た俺は……今心の底から望むものを言葉にする。


「……サウナ入りたいかな、もう汗がひどくて一度さっぱりしないと何も考えられないや……」


 すると皆は笑いだして……それからアーリヒが村の皆に声をかけて、サウナの準備をと指示を出してくれるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回は癒やしのサウナです!

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