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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第四章

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試合本番


 

 さて、ようやく俺の試合となった。


 相手は好戦派のリーダーで、俺より1歳下。


 身長は俺よりも高く、体格も良い……筋肉も向こうの方がついているかもしれない。


 茶色よりの赤髪を油で固めているのかオールバックにしていて……赤いはずの瞳は妙に黒ずんでいるように見える。


 そんな男が俺の目の前で仁王立ちになっているが……表情がなんとも言えない具合に歪んでいる。


 さっきのこともあって俺を恐れているように見えるのだけど、変に興奮しているようにも見える。

 

 シェフィにもやらかしがバレてしまって、俺の上空にいるシェフィにも怯えているようなんだけど、怯むこと前のめりで……こんなに感情が矛盾している人を見るのは初めてかもしれないなぁ。


 俺の頭上のシェフィは相変わらずプリプリと怒っていて……村の皆はそれに気付いて訝しがっていて、そう遠くないうちに村の皆にやらかしがバレてしまうという恐怖もあるようだけど、闘争意欲は全然萎えていないらしい。


『……さぁー、組み合って。

 正々堂々だよ、ズルは絶対に許さないよ、正々堂々以外ダメだよ、絶対にダメだからね、ダメなんだからね―――』


 そんなことを考えているとシェフィからそんな声が上がり……シェフィの態度を訝しがっていた周囲の村人達は、対戦相手が……リーダーが何かやらかしたであろうことを察し始める。


 何かがなければさっきまで笑顔で大会を楽しんでいたシェフィが、あんな顔をするはずがないのだから当然のことで……そうして皆の視線がリーダーに突き刺さるが、彼はそれに気付くことなく、鼻息荒く俺を睨みつけている。


 ……これは既になんかやらかしているよなぁ。


 そんな確信がありつつも、具体的にどうとも言えないし、ここで逃げるのも違うよなぁと組み合うことにし、相手の肩へと手を回した瞬間、漂ってきた匂いで相手が何をしたのか大体のことを察する。


 酒臭い。


 かなりの量の酒を飲んでいるようだ……蒸留酒でも一気飲みしたか?


 それで恐怖心を消した? いやでも、傍目には酔っ払っているようには見えないし、他にも何かやっているようだ。


 なんだろう? 嗅いだことのない匂い……薬草の類だろうか?


 興奮剤? それとも……?


 なんてことを考えていると、


『―――試合開始ぃ!』


 とのシェフィの声が響き、俺の肩に置かれた相手の腕に一気に力が込められる。


 こちらも負けじと力を込めて押してやり……とりあえずは拮抗しているようだ。


 全力で押し合い、相手の目を睨み……しかし相手の目はこちらを見ていない。


 虚空を見つめているというか、何というか……そんな状態のまま興奮して、ただただ無心でこちらを押してきているようだ。


 そんな異常な相手の様子は、周囲も気付いているようで……今までのような盛り上がりではなく、困惑を含んだざわつきが広がっている。


 ……こんな相手に負けられないな。

 

 そう考えてしっかりと踏ん張り、相手を押し込んでいく。


 様子見を止めて全力で押して押して……相撲と違って土俵際に縄はなく、円まで押し込めばそのまま勝てるはずで……と、あと少しという所まで押し込んだ瞬間、相手の膝が勢いよく迫ってくる。


 膝蹴りかと思うほどの勢い、思わず怯みそうになるがグッと堪えて踏ん張っていると、膝は俺に当たることはなく、相手の足は地面につき……どうやら大きく踏み込んだだけ、らしい。


 いや、アレは明らかに足の上げすぎというか、あわよくば蹴り飛ばしてやろうという悪意が感じられるものだったけども、結果としては当たらず、大きく踏み込んだだけ……。


 しかしどう見ても膝蹴りで、それは周囲にも伝わっていて、周囲からは、


「ふざけんな!」


「何考えてんだお前!!」


「精霊様が見ているんだぞ!!」


 なんて声が次々に上がる。


 だけども相手には聞こえていないようだ、相変わらず虚空を見つめている。

  

 見ているんだけども歯噛みして青筋を浮かべ、両腕に込められる力はどんどん増していて……これは確実に酒以外の何かを摂取しているな。


 薬草とか漢方とか、そういったレベルではない何か……麻薬に近い何かを摂取していそうな気配がする。


 ……魔獣の内蔵にそんな効能があると聞いたことがあるから、それか?


 それとも沼地で流行っていたというやばいらしい代物か?


 これは早く決着させなければやばそうだと更に押し込もうとしていると、今後は俺の肩を掴んだ手でもって、肩を叩いてくる。


 見ようによっては腕を組み直そうとしているようにも見えるけど、明らかに拳を握って振り上げ振り下ろしていて……そこにまた膝が飛んでくる。


 今度はしっかりとではないけども腹に当たる、そんな明らかな攻撃に周囲からはブーイングが飛び、シェフィからも『それは反則!! 反則負けだよ!!』との声が上がり、そして相手からは、


「がぁぁぁぁぁぁ!!」


 との声が上がる。


 今までは一切口を開かなかったというのに、急に開いて獣のような声。


 あまりの声にブーイングをしていた人達も黙り込んでしまい、シェフィが慌てて止めに来る……が、このまま相手の反則で勝つなんてのはスッキリしないと、俺は組み合ったまま相手を押していく。


 今更叩かれた蹴られたで怯むはずもなし、むしろ攻撃をしたせいで崩れている相手の体勢を更に崩して、疎かになっている押し合いに全力を込めて、グイグイグイグイ相手を押しやっていく。


 体格でも力でも負けている、だけども根性では負けないぞとどんどん押していって……そんな俺の様子に気付いたのだろう、試合を止めようとしていたシェフィは試合を止めるよりもと、


『のこったのこったぁ!!』


 と、本職の行司顔負けの声を張り上げる。


 そんな中相手は、いよいよキマってきたというか、試合直前に飲みでもしたのか、全身に回っていなかった何かが完全に回り始めたようで……テレビ番組だったらモザイクをかけられるかなという表情でもって暴れ始める。


 手足を振り回し、凶暴にこちらを攻撃しようとし……凄まじい力と勢いでもって暴れてくる。


 ……が、それはこの試合においては悪手というか、今やっているのは力と力の押し合い……暴れるよりもその力でもってこちらを押してくるべきなのだけど、正気を失っているせいか、それが出来ず……暴れて暴れて攻撃しながらどんどん押されていって……そしてシェフィの、


『それまで! 勝負あり!!

 ヴィトーが押し出しで勝ちだよ!!』


 との声が上がる。


 見れば相手の足が完全に円の外へと出ていて、それを確認した俺はこれ以上組み合っている必要もないかと、相手をぶん投げる。


 すると相手は暴れたまま投げられ、派手に転び……床に寝転んで駄々をこねる子供のような、ひどい醜態を晒すことになるのだった。



お読みいただきありがとうございました。


次回はお説教というか何やらの予定です



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