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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第四章

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琥珀の確認


 浄化を終えて俺達は、山程の琥珀を村に持って帰った。


 琥珀が精霊の結晶のようなものだと知っている村の皆は多いに喜んでくれて……そして手が空いていた村人全員での効果の確認が行われた。


 琥珀の力はその中に眠る精霊の力によって変わるらしいのだけど、精霊の性格なんかにも影響されるようで……たとえば遊び好き、子供好きの精霊の琥珀は、子供向けの力になりやすいようだ。


 子供向けの力の琥珀とは具体的にどんな物なのか? その答えが目の前にあり……村の子供達が琥珀を手に元気に駆け回り、そうしながらある物を作り出していた。


「……まさかシャボン玉を作る琥珀とはなぁ。

 中にいる精霊は……水の精霊? 泡の精霊? 石鹸の精霊ってことはないだろうし……油の精霊、とか?」


 その光景を見やりながら俺がそんな声を上げると、頭の上のシェフィは『ふっふ~』なんてことを言って返事をごまかす。


 どうやら答えを知ってはいるようだが、答える気はないらしい。


「あ~、あれってシャボン玉って言うのか、石鹸使ってるとたまに出来るよな?」


「石鹸で作るのより大きいのと、頑丈みたいッスねぇ、子供のオモチャには良さそうッスけど、他に使い道はなさそうッスね」


 と、ユーラとサープ。


「あのシャボン玉が石鹸由来のものならたくさん作って石鹸代わりに使う……なんてことも出来そうだけど、精霊由来のものだからなんとも言えないねぇ。

 まぁ、子供達が遊べば遊ぶ程精霊が解放される訳だから、子供達に使わせてあげようか」


 俺がそう返すと二人は頷いてくれて……そしてそれぞれ目の前のテーブルに積まれた琥珀へと手を伸ばす。


 それから一つ手にとって力を込めて、琥珀の力を調べていく。


「……これは水の琥珀かな、水がちょろちょろ出てくる……。

 遠征の時の水筒代わりには良いかもしれないねぇ」


「……こっちは湯気だな、湯気が出てくる。

 高温ならサウナに使えるんだが……この温度じゃ今ひとつだなぁ」


「お、こっちは油ッスよ、油、結構な勢いで吹き出てくるッス……匂い的に木の実の油ッスかね?」


 俺が持った琥珀が水、ユーラが持った琥珀が湯気、サープが持った琥珀が油。


 今日はなんだか偏った属性ばかりだなぁ……偶然なのか何なのか。


「有用性としては油が一番で、次が水、最後に湯気……かな?

 ……とりあえず効果をメモした布に包んでおいて、次の確認にいこうか」


 俺がそう言いながら布にペンで効果を書いていると……サープが油を出しながら問いを投げかけてくる。


「確かに油は貴重なものッスけど、水より有用ッスかね?

 生きていく上に欠かせないって点では水のが有用だと思うッスけど」


「油を料理とかに使うのならそうなんだけど……油が大量に出せるなら、それを相手にかけるとか、相手の進行先に撒くとかすることで相手の足を滑らせたり出来るじゃん?

 相手を油まみれにしたなら相当な嫌がらせになるしねぇ……発火しやすい油ならそのまま攻撃にも出来るし、使い方次第ではかなり便利だと思うよ」


 と、ゲームなどで見た知識をそのまま言葉にすると、ユーラとサープは顔でなるほど~と語ってから次の琥珀へと手を伸ばす。


 そういった確認作業は村のあちこちで行われていて……あちこちで歓声が上がったり笑い声が上がったり、なんとも賑やかな様子だけども……そんな皆の様子を見るに、特にこれと言って魔獣狩りに役立つ琥珀は見つかっていないようだ。


 もし見つかったなら、もっと大きな声が上がるはずだし、報告に来るはずだし……地味な効果ばかりなんだろうなぁ。


 少し離れた所ではアーリヒと女性陣が琥珀のチェックをしていて……そちらでも特にこれといった発見はないらしく、ただただ盛り上がっている。


「あ、これ凄いです、楽器の音がします、複雑な楽器な音……とっても綺麗ですねぇ」

「……これは……香り? 良い香りがします、香草ですかね? この香り」

「ほんのり暖かい……熱の琥珀ですかね? 冬に寝床に置けば良いかもしれないです」


 なんてことを言いながらワイワイと。


 まぁ、こうやって皆で楽しく騒げるのも悪くないかもな……と、確認作業を続けていき、その中で役に立つかもしれない琥珀も何個か見つかる。


 熱風を出すだとか、蜘蛛の糸のような粘着質な糸を出すだとか、周囲のものを磁石のように吸着させるだとか……色々だ。


 熱風はドライヤー、糸は束ねればなにかに使えそうで、吸着は掃除とかに使える……かもしれない。


 そうやって確認を進めていき……残りの琥珀も少なくなったという所で、女性陣の中から悲鳴に近い声が上がる。


「え!? 族長!?」


 その声を受けて俺達は即座に視線をそちらにやる。


 アーリヒに何かあったのか? 悲鳴を上げるようなことがあったのか? 血の気が引く思いで女性陣を見やると……そこにいたはずのアーリヒがそこにいない。


 いや、よく見てみると離れた場所に琥珀を手にしながら立っていて……アーリヒ自身何が起きたか分からないといった表情で困惑している。


「アーリヒ?」


 と、俺が声をかけた瞬間、アーリヒが姿を消した―――と、思った瞬間、すぐ側に現れ、小首を傾げながら声をかけてくる。


「ヴィトー、呼びましたか?」


「しゅ、瞬間移動!?」


 思わずそんな声を上げてしまう中、アーリヒは自分が移動してしまっていることに気付いてから、琥珀に視線を下ろし……そしてまた姿を消す。


「……なるほど、瞬間移動ではなく……えぇっと、どう表現したら良いのか、私だけ動きが速くなっているみたいです。

 私から見ると皆が遅くなっているようでもあるのですけど……皆の反応を見るとそうではないようですね?」


 と、アーリヒ。

 

 な、なるほど? アーリヒだけ加速しての瞬間移動という感じなのかな?


「加速とは随分また……凄い琥珀が来たもんだねぇ。

 どんな精霊の力なんだろう? 時の精霊? それとも肉体とか筋力? いや、それでどうにかなるような速さじゃなかったし……」

  

 後は物理学とか相対性理論とか? いや、そんな精霊いるはずがないか……時の精霊もかなりぶっ飛んでいるとは思うけど、その辺りが一番可能性ありそうだなぁ。


 なんてことを考えてから俺は、目の前で小首を傾げているアーリヒに声をかける。


「自分だけ速くなれる琥珀って感じかな? 随分と強力な琥珀みたいだね。

 ……その琥珀がアーリヒの下に来たことにはきっと意味があるはずだから、それはアーリヒが使うと良いよ。

 村を守る時とか色々使えるはずだからさ」


 するとアーリヒはしばらく不思議そうな表情で考え込んでからこくんと頷き……そうしてにっこりとした笑みを浮かべて、どういう意図なのか、琥珀を持っていないほうの手で俺の頭を撫でてくるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回は村でのあれこれの予定です。


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