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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第四章

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見送って……



――――南へと出立しながら ロレンス



 村を出て南へと出立することになり……多くの村人達に見送られることになったロレンスは、なんとも言えない気分で振り返る。


 交渉は上手くいったはず、十分な結果を得られたはず……だけども不安は大きく、本当にこれで良かったのかという疑念が消えることはない。


 だけども振り返ってそこにあった光景を見ると、そんな疑念よりもここと敵対しないことだけを考えろと、そんな考えが心の奥底から浮かんできて……思わずため息を吐き出したくなるが、ロレンスはそれをぐっと堪えて微笑みを浮かべる。


 ずらりと並んだ男衆達、その手にはあの武器が握られている。


 強烈な火力を有した武器、魔獣さえも貫く威力、それらが自分達に向けられたらどれだけの被害が出るのか、想像することも出来ない。


(一つだけではなかったのか……)


 そんなことを考え恐れに体が震えそうになるが、それでもロレンスはそういった感情を押し殺し……正面へと向き直り進むべき南へと足を進めていく。


 実の所それらの武器……猟銃は、ヴィトーが工房で作ってもらった模造品だった。


 外観だけは銃っぽく仕上げてはいるが、木の模造品にそれっぽく仕上げた鉄板を張り付けただけのもので……最後の一手ということで皆に配り、これだけの武力があるのだぞとロレンス達に見せつけていたのだった。


 全ては村のため浄化のため、ロレンス達を上手く使ってやろうとの思惑からのことで……それが模造品だとは夢にも思わないロレンス達は、十分過ぎる程の恐れを抱くことになる。


 ロレンス達の国の軍事力は、数で言えば圧倒的に上で、それだけの数の猟銃が相手でも勝つことは出来るはずだ。


 出来るはずだが……かなりの被害が出てしまうはずで、相手に上手く立ち回られたなら、その武器の威力と被害を見せつけるような形での立ち回りをされたなら、士気が崩壊する可能性も十分ある。


 それだけのリスクを被り、勝ったとして得るものは極寒の領土くらいのもので……リスクに見合うものだとは言えないだろう。


 木材を得るための伐採も、毛皮を得るための狩猟も、極地での生活も危険でしかなく……そこに住み慣れた者達に任せられるのならその方が良いに決まっている。


 であるならば自分の生活の場所はやはり議会なのだろうとロレンスは思う。


 議員として議会で弁舌を振るい、外交的手段でもってこの地と住まう人々を利用するのが最善……この地を見て、その結界次第ではあるいは……なんて考えもあったにはあったが、結局はそれは悪手、自分に合ったやり方ではないのだろうと思い知る。


 それでも足を運んだことは無駄ではなかったと思う、議会で使えるだろうカードもいくつか手に入った。


 浄化に関する知識共有に、取引の再開も大手柄だったと言える。


 多くの議員の資金源となっている商人達に貸しを作れたのは大きいはずだ。


 そう考えてロレンスは少しだけ気力を取り戻し、その気力でもって足を前へ前へと進めていく。


 それに続く護衛達は完全に意気消沈し足が重くなっているが、それに気付くことなくロレンスは足を進め続け……そうしてシャミ・ノーマの領域から去っていくのだった。



――――ロレンス達を見送りながら ヴィトー


 

「あー、終わった終わった、よそ者がいると肩が張ってしょうがないなぁ」


 付き合ってくれた大人の一人の、そんな声で一気の場の空気が緩む。


 そして手にしていた猟銃の模造品を軽く持ち上げて見やり……もういらないかなとこちらに預けて村へと戻っていく。


 皆がそうやって預けてきた模造品は全てシェフィに回収してもらい……そして最後にユーラとサープがやってくる。


「しっかし、こんな雑な作りのおもちゃに気付かねぇとはな……連中は目が悪いのか?」


「遠目でも分かるくらいに別モンなんスけどねぇ」


 と、そう言いながら預けてきた模造品をシェフィに預けて……それから、それはそうだろうなぁと頷きながら言葉を返す。


「皆は普段から狩りで目を鍛えているからね……視力があっちの人とは全然違うんだよ。

 前の世界では目の良さを数値化していたんだけどさ、普通に暮らしている人で2だと良い視力だって言われる中、狩猟で生計立てている人は14とかそれ以上の視力だったらしいからねぇ……。

 生きるために必死に獲物を探しているとそれだけ視力が鍛えられていくらしいよ」


「へぇ? 目の良さって鍛えられるもんなんか? なーるほどなぁ……。

 まぁ、確かに狩りで食っていくとなると、遠くで動く獲物を見つけられないと話にならねぇからなぁ。

 飢え死にするかもってなったら目だって必死に良くなるってもんだな」


 と、ユーラ。


「なるほどッスねぇ……そうかと言って目の悪い人に無理に狩猟させるのも酷ッスから、治療法にはならないッスかねぇ。

 ……多分必死にやらないと駄目なんスよね? 成功しないと飢えるくらいの必死さとなると、中々難しいッスねぇ」


 と、サープ。


「まぁうん、工房でメガネを作るって手もあるから、その人に合った方法を試せばそれで良いのかもねぇ。

 ……それと沼地の人全員の目が悪いとは思い込まないようにね、沼地の人でも狩りを生業にしている人はいるはずで、どこかに攻め込む時にはそういう人を案内役に雇ったりするからさ」


「はぁ~~、なるほどよく考えるもんだ、目がよくて地形にも詳しい、獣を避けたり狩ったり都合良いもんなぁ、オレ様でもそうするだろうなぁ」


「確かに……自分やジュド爺が案内したなら、最高の道順で目的地に案内出来るッスからねぇ」


 と、そう言ってユーラ達は、他の皆と違って村に向かうのではなく、ロレンス達を追う形で南へと足を進めていく。


 ロレンス達が自分達の街に帰ったなら今回の交渉のことを商人達に話すだろう。


 そうなったらすぐにでも商人達がやってくるはずで……その時のための道作りが俺達の次の仕事だった。


 と、言ってもそこまでしっかりした道を作る訳じゃない……木を切り倒して邪魔そうな石を除けて、軽く木の葉を払って地面を踏み固めて、道らしい何かを作り上げるだけだ。


 そうすれば商人達の行き来が楽になって便利……とかではなく、商人達にそこ以外を通るなと命令するためだ。


 この辺りは俺達の土地で、勝手に歩き回って良い場所ではなくて、それに違反したなら罰を与えるとはっきりと伝えることになっている。


 ……議員まで出てきたということは今後、沼地との交流の機会は増えていくだろう、様々な品をやり取りするようになるだろう。


 そこでなぁなぁな態度を取ってしまって勝手なことをされたり、領土を占拠されたらたまったもんじゃない。


 そうならないよう出入りも通行も厳しく管理するつもりで……そのための道作りだ。


 関所までは作ることは出来ないが、せめてそれくらいはしておきたいという感じで……そういう訳で俺達はロレンス達が道代わりにしている場所をしっかりと把握するための追跡を始めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回からは沼地の商人対策です



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