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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第四章

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 たっぷりと美味しい食事をし、歯磨きをして就寝し……翌日。


 ロレンスさんは朝からアーリヒや家長達との話し合いをしているようだ。


 自分達のためにどのくらいこちらを利用しても良いのか、ラインを見極めるためなんだろう。


 精霊の力や魔獣と瘴気の脅威を喧伝することで議席を増やし、流れを変える……そのためにはシャミ・ノーマを味方にする必要があり、合意形成というか約定締結というか、そんなことをする必要があるのだろう。


 昨夜のうちにロレンスさんの意図や議会についての説明はしておいたし、味方にしても問題なさそうだということも話しておいたし……あとのことはアーリヒと家長達に任せておけば問題はないだろう。


 政治に関しては俺に出る幕はなし、とりあえずはグラディス達の世話が優先だと、グラディスとグスタフと、それといつものように頭の上に乗っているシェフィと共に、春の餌場へと足を向ける。


 雪が溶けた餌場は今まで雪の下に眠っていたコケが顔を出していて、雪解け水を吸って煌めき、太陽の光をいっぱいに吸って大きく育っての、緑一面となっている。


 草原のような爽やかな緑というよりも、色濃く力強いその緑は岩に生えていたり地面に生えていたりと、様々な生え方をしていて、種類も多様だけどどれもこれもが真緑だった。


 これが秋とかになるとまた色変わりしてくるのだけど、春になったばかりの今はとにかく緑だ。


 そしてグラディス達にとってその緑色は美味しさの証明でもある訳で、一面の緑を見た瞬間グラディス達は元気いっぱい、弾んだ足取りでちょうど良い……美味しそうなコケが濃く生えている一帯へと進んだなら、早速とばかりに食事を始める。


 冬の時の、雪を掘り返してその下のコケを食む食事とは全く違って、とても美味しそう……というか楽しそうだ。


 義務の食事ではなく、楽しむ食事が出来ているというか、味と食感とそこに含まれる滋養を楽しめているというか……目も口元も緩んで本当に嬉しそうだ。


 まぁ、気持ちは分かる。


 昨夜、熊肉のスープには採れたてのハーブや山菜が入っていて、それがたまらなく美味しかった。


 苦くて青臭くて、だけどもそれがありがたくて……春の味というやつを存分に味わうことが出来た。


 美味しくて嬉しくて活力が湧いてきて……冬が長かったからこそ、その喜びも大きくなる。


 それを今グラディス達は存分に味わっているのだろう、尻尾までが激しく動いてそれを伝えてくる。


 適当な岩に腰を掛けた俺は、そんな光景を見守ることを楽しむことにし……銃を肩に置き、春の陽気に負けてウトウトとし始め……と、そこで気配を感じて銃に手をやる。


 目を見開いて気配の方へと視線をやって……そこに何故かグラディスがいることに首を傾げ、そしてすぐにそれがグラディスではなく野生の恵獣であることに気付く。


 野生であることを選んだ恵獣、こちらを警戒していることを見るに仲間になりに来た訳ではなく、ただ餌を食べに来ただけのようで……俺は何も言わずに銃から手を離し、警戒を解く。


 するとその恵獣は小さく「グゥ」と声を上げ、それを受けて何匹かの恵獣が木々の間から姿を見せる。


 その中には子供の恵獣の姿もあり……子連れの恵獣の群れは、辺りに散って食事を始めて……そして子供達は食事もそこそこに、グスタフに興味を示して近付いていく。


 群れが現れたことに気付いていたグスタフもまた興味を示し……鼻を寄せ合ってお互いの匂いを嗅ぎ合った子供達は、楽しげに「ぐぅ~」と鳴いてから駆け出して、追いかけっこのような遊びをし始める。


 グラディスは特にそれを止めることはなく好きにさせてやり、野生の群れもまたそれを止めることはない。


 まぁ、食事より遊びを優先するというのも、子供らしさの一つな訳だし、よくあることか……と、納得しかけた所で、俺は野生の群れの子供全てが遊びに参加している訳ではないということに気が付く。


 半々といった所か……よく見てみると、遊んでいない子供はオスばかりのように見える。


 まだ恵獣の子供のオスメスが完全に見分けられる訳ではないが……態度や表情やらがオスっぽいし、多分間違ってないと思う。


 そうするとこれは……お見合いなのかもしれないな。


 よその群れと子供を交流させて気が合えば番に……みたいな。


 恵獣ほど賢ければ遺伝的多様性の重要さとかを理解していそうだし、意図して他所の遺伝子を取り入れようとしていてもおかしくはない……はずだ。


 そうするとあの子供の中の誰かがグスタフのお嫁さんになったりするのかな……?


 なんてことを考えていると、遊んでいた子供達が一頭一頭、順番に戻ってきて……どうやらグスタフがお気に召さなかった子達が帰ってきているようだ。


 一頭また一頭……確か6頭か7頭が遊びにいったはずだから……と、数えていると6頭までが戻ってきてしまい、駄目なのかなぁとがっかりしていると……グスタフが一頭のメスと共に連れ立って戻ってくる。


 グスタフは満面の笑みを浮かべて、嬉しそうに左右に跳びはねてのスキップのようなことをしていて、メスもそれを真似して軽快に跳びはねている。


 なんとも楽しそうに、大したことはしていないけども、ただただ一緒にいるのが楽しいといった感じで跳ねながらこちらにやってきて……そして二頭で体を寄せ合っての食事を始める。


「おぉ……子供だと思っていたけどやるもんだなぁ」


 思わずそんな言葉が口から漏れる。


「グゥ」


 俺の側で食事をしていたグラディスがどこか自慢げな声を上げて……そして、


『ヴィトーよりもすんなりだったね、グスタフのが上手かなぁ~』


 と、シェフィ。


 余計なことを言うなよと頭を振るとシェフィは、俺の頭をポスポス叩いての抗議をしてくる。


 俺達がそんなことをする間もグスタフは仲良くなった女の子との食事を続けていて……そしてその様子は、群れの皆の食事と休憩が終わるまでのかなりの長時間、続けられることになるのだった。


 



お読みいただきありがとうございました。


次回はロレンスのあれこれの予定です

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