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転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です ~楽園目指して狩猟、開拓ときどきサウナ♨~  作者: ふーろう/風楼
第三章

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極寒の地での畑計画


「ジュイ、ジュイ~~、ジュ~イ」


 と、語る花モグラ恵獣によると、今回産まれた精霊は植物に関わる精霊らしい。


 沼地の更に南、魔法を使う人々の中にはもちろん現状を憂う人達もいて、そういう人達は魔法とは別のアプローチ……錬金術でもって現状をなんとかしようとしているらしい。


 錬金術といっても金を作ろうとしているとか、そういうアレではなく、恐らくは学問……科学に近いもののようで、日々実験やら観察やら、様々な方法で世界と向き合っているんだそうだ。


 そんな中、顕微鏡……のようなものが開発され、植物などが詳しく調べられるようになり、水と光からエネルギーを作り出せる葉緑素のようなものが植物にあるのではないか? という論が提唱され、そういった認識が広がりつつあることから、植物への敬意……のような感情が人々の中で強まっているらしい。


 また憂う人々にとって変異していない、普通の植物は特別な存在でもあって……そういった経緯で植物への認識が変化した結果、新たな精霊が誕生するに至ったそうだ。


「……精霊ってそんな理由で産まれるものなの?」


 花モグラ恵獣の言葉を翻訳してくれたシェフィに俺がそう言うと、シェフィはコクリと頷き、言葉を返してくる。


『それだけ人の想いの力は強いってことだね。

 今までも木の精霊とか花の精霊は存在していて、それとはまた別種になるみたいで……花モグラくんは植物の精霊って言っているけど、経緯を聞くに恐らく葉っぱの精霊とか、葉緑素の精霊ってことになるんじゃないかな?

 まぁ、その辺りのことは精霊の自我がしっかりしてきたら分かるから、今は気にしなくて良いよ』


「なる……ほど?

 それでその、葉っぱの精霊は今どこにいるの? ……あの花の中とか?」


『あっはっは、ヴィトーは面白いこと言うねぇ!

 当然精霊の世界だよ、産まれたばかりの子に一人でお出かけなんてさせる訳ないじゃんか。

 今は向こうから、このモグラくんを通じてこちらに干渉しながら、こちらのことを学んでいる……って感じかな。

 まぁ、自我を持つまでそう時間もかからないと思うよ』


 ……精霊の世界、あの工房がある世界。


 多分あっちの世界やあっちの神々? とも繋がっている世界で……一体どんな世界になっているのやら。


 まぁ、その辺りの、俺達にはどうにもならないことを深く気にしても仕方ないかと軽く頭を振った俺は、花モグラ恵獣との会話に戻り、その力についてを聞いていく。


「ジュイ、ジュイ~~ィ、ジュイ、ジュイ」


『モグラくんの力があればこの辺りでも畑を作れるけど、作物までは難しいみたいだね。

 ハーブと小さな花とか、その辺りが限度で……ああでも、あったかい春の間だけなら何か作れるかもってさ』


「なるほど……春なら……って、うん?

 その言い方だと冬でもハーブを育てられるってことにならない? いや、流石にこの辺りの冬にそれは無理でしょ? 

 気温がマイナス10℃からスタートとか、そんな感じだよ?」


 と、俺が返すと花モグラ恵獣はその鼻を左右に揺らしてから「ジュイ!」と鳴いて、地面へと潜ってしまう。


『待ってろ、だってさ』


 そしてシェフィ。


 一体何を待っていろと言うのか……色々と疑問が残ってしまったが、急ぐ用事がある訳でもなし、呆然としていたアーリヒに声をかけ、シェフィから聞いた話をアーリヒに分かるように……葉緑素の仕組みなどを説明しながら話し、それが終わったならグスタフ達のブラッシングをしながら花モグラ恵獣が戻ってくるのを待つ。


 そうしてどのくらいの時間が経ったか……多分1時間かかったか、かかっていないかというタイミングで、花モグラ恵獣が地面を割って顔を出し……そして顔を出した穴の周囲を掘って穴を広げていき……人がどうにか、かがんだ状態なら入れるような大きさにしてから、チョイチョイッと手招きをしてくる。

 

 まさか? と、思いながらそこへと足を進めると、階段のようなものが下へ下へと向かって伸びていて……その先を進むと、まぁまぁ広い空間があり、そこには畑……と言えなくもない、小さなスペースが作り上げられていた。


「ジュイジュイ、ジュイ、ジュイ~~」


『えっと、地下なら地熱であったかいから、真冬でもある程度までは平気だってさ。

 ……実際、ここも結構あったかいもんねぇ……いやぁ、地下って発想はなかったなぁ』


 と、花モグラ恵獣とシェフィ。


「いや、そりゃそうでしょ、地下で畑って……。

 確かに気温は高い感じだけど、畑に何よりも必要な日光がないんじゃ話にならないと思うんだけど……」


 俺がそう返すと花モグラ恵獣は、鼻を左右に振って分かってないなぁという顔をし、それからジュイジュイと声を上げて、何かを得意げに語る。


『あ、そっか。

 モグラくんを産んだ精霊は植物の……葉っぱの精霊、葉緑素のちからの化身みたいなもので、その辺りをなんとかできちゃうのか。

 ……わずかな光でも光合成出来るとか、人工的な光でも良いとか、なんとでもなっちゃうんだねぇ。

 流石に光が一切ないとかは無理みたいだけど、ライト設置したり、なんか工夫して日光をここまで持って来られたりしたらそれで良いみたいだねぇ。

 そこら辺のことはヴィトーが上手くやってくれるだろうから、うん、何にも問題なしだね!

 ちなみにこの空間は急いで作った仮のものらしいから、実際の畑はもう少し広くて使いやすい、快適な空間になる……らしいよ!』


「……な、なるほど? 地下でハーブ栽培かぁ。

 ……まぁ、それが出来るのなら確かに、悪くはないのかな?

 光とか色々ハードルはあるけど……まぁ、地下に日光引き込むくらいなら、鏡とかでなんとか……?

 あとは春の間に保存の効きそうな野菜をたくさん作って冬までに溜め込んだなら、村の食糧事情も良くなるかもしれないね。

 そのための野菜をリストアップして、冬の間に作るハーブも今のうちから決めておいて……あとはヴァークの人達との交易で揃えたら、うん、栄養事情も一気に改善しそうだなぁ」


 と、俺がそう言うと花モグラ恵獣は自慢げにうんうんと頷き、シェフィもまたそれに続く。


 グラディスとグスタフは我関せずといった様子でそこらの雪の下の苔を食んでいて……そしてアーリヒはこちらを見ながら、とても嬉しそうに微笑んでいた。


 話の全てが分かった訳ではないが、良い方向に進んでいることは間違いなく、それに俺が関わっているということも嬉しそうで……そうして俺達は散歩をそれで終えることにし、花モグラ恵獣と一緒に村へと帰還するのだった。




お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、村でのあれこれとなります。


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