想いなんて夏の空に溶けていったらいいのに 8
わ~~~と思う。
これから二人で仲良くかき氷食べる所に私がいたら…二人がそうは思わなくても私が自分の事を邪魔だと思う。
「ユキちゃん、私もちょっとお店見て来るからロッカーのカギ貸してもらえる?」
「ごめん」と申し訳なさそうなユキちゃん。「ユズちゃんのはタダ君のと一緒に入ってるよ。タダ君が鍵持ってる。お金、私の使っとく?」
あ~~タダがなんか手首に付けてたの、それか。
「ユズ?オレの食うか?」とヒロちゃん。
もう…この人は何だろうな…
ユキちゃんも慌てて言ってくれる。「私の、あげるよ!」
でもこれってヒロちゃんのを食べさせたくないから?
「ううん。私、今海から上がって来たとこだから冷たいのは止めとく。タダがもう戻って来ると思うから」
「結構ご飯系も売ってたよ」とユキちゃん。「じゃあ後で一緒に行こうね、ユズちゃん」
「うん。ありがと」
二人がかき氷を食べ始め、私はまたパーカーを着て海に向かいタダに念を送る。…あれ?タダいないじゃん…どこ行ったんだ?肝心な時にいないんだからもう。早く戻って来いタダ!
「オレ、そっちにすりゃ良かったな」と言い出すヒロちゃん。
かき氷の話?私は海をひたすら見ながら聞こえない振りをする。
「じゃあ味見してみる?」とユキちゃん。
そりゃそう来るよね。好きな男の子がそんな振りして来たら、そう乗るに決まってるよ私だって言う。
「じゃあオレのも食う?」とヒロちゃん。
うおおおおおおおおお!
しかもちょっと照れた感のある声出しやがって。バカじゃん…私の前でそんな事するな!私にもうちょっと気を使ってよ!さっきは照れてたくせに…
どうしよう。そっとここから離れたい。でも邪魔したい。
「大島!」
タダ!
良かったタダが帰って来た!でもなんで海じゃない方から?
「なんか追いかけられた」とタダが言う。「大島が先に行くから」
聞けば22、3歳くらいかなっていう女の人二人組にすごい勢いで誘われたらしい。
「どれどれどれどれ」とヒロちゃん。「どのお姉さん?」
タダがそっと指差す先には豹柄超ビキニと真っ白な超ビキニの髪の長い巨乳のお姉さんが二人。
「おお~~~」とヒロちゃん。「すげえ…」
タダと二人だったら一緒にお姉さんについて行ってたんじゃないのヒロちゃん。
「ヒロトはああいうお姉さん達好きだよね」とユキちゃんが言う。
それは嫌味なニュアンスの言い方ではなく、普通にアイス好きだよね?みたいな感じの言い方だ。
「いやあ…」とちょっと困った感じのヒロちゃん。「別にそんな事ねえよ」
…なにこのヒロちゃん…私の知ってるヒロちゃんとは別人格出て来てる…
「大島、」とタダが、心に黒いモノが浮かびかかった私を呼ぶ。「ロッカー行こ。そいでなんか食うもん買いに行こ」
「ユズちゃん」とユキちゃんが言う。「一緒に行こ?」
「あ~いい、いい」とタダが答える。「大島と二人で行ってくるから。お前らのも適当に買ってくる」
ほら、と私を促すタダ。
いちゃつくかもしれない二人と一緒にいるのは苦痛だが、やっぱりちゃんと見張っておきたい気持ちも大きい。
「ユズ」とヒロちゃん。「イズミがお姉さんたちに連れてかれないように一緒に行ってやってくれ」
おいおいおいおい、と心の中で突っ込む私だ。私を虫よけみたいな感じで言うの止めてくれないかな。
結局タダとロッカーへ行って荷物を取り海の家に行く。海の家と言っても商品も結構置いていてコンビニみたいな感じだ。
ロッカーでも海の家でも、女子にチラ見、ガン見されるタダ。そしてその後、必ずそばにいる私の事もチラ見、ガン見する女子たち。
少し離れておこうかな。
あ、かき氷。さっきヒロちゃん達が食べてたの美味しそうだった。私は抹茶がいいな。練乳がたくさんかかってるやつ。私もヒロちゃんと食べ合いっこしたいな。ヒロちゃん抹茶嫌いだけど。
「なあ、」とタダが離れた私に近付いてきて言う。「かき氷食う?」
「…うん。食べたいけどでもご飯と飲み物買ったら持って歩けないよね」
「あ~~、じゃあメシ食ってからまた買いに来よ」
またタダから少し離れて飲み物を選ぶ。…まあでもなんだかんだ言って、タダがいて良かったとは思う。…って違うか。タダが3人は困るからって私を誘ったんだった。私が参加しなかったら、やっぱりタダも困ってたかな。
そう思っていたらまたタダが近付いて来て言った。「やっぱ今日大島が一緒で良かった。3人とかだったらとんでもねえ感じになってたわ」
「…うん」
「でもやっぱ嫌よな?ヒロトがあの子に結構照れた感じが」
こいつ…やっぱヒロちゃんに振られてもまだ好きでいる私をちょっとバカにしてるよね?
やけくそで、「うん、まあ、嫌だよねそりゃ!」と答えると、ハハハ、とタダは笑った。
「そうだよな!」
「ちょっ…デカい声で笑うな。あんたそれでなくても何気に目立ってるからね。浮き輪から落としたのだって、私まだ根に持ってるからね。せっかく人が浸ってるとこへ」
「浸ってたから落としたんだろ」
「…」
タダが飲み物を選び始めたので、またそっと離れる。あ、3人組のお姉さんに声かけられてる。タダの苦手そうな、キャラキャラうるさい感じの3人組だ。そのタダが店内の私の姿を探してこっちを指差しているので、知らんふりしてまた距離をとる。
困れ。浮き輪から落としたのと、さっき笑ったお返しだよね。ふふっとこっそり笑う私。
が、店内に「「兄ちゃん!!」」と大きな太い声が響き渡り、見ると、タダが肩をガシッ!と掴まれている。そしてもう片方の肩もガシッ!
え…
タダの両肩をそれぞれ掴んだのは双子。それも身長2メートルは超えてるかもと思えるような双子。春からまた身長の伸びたタダより頭一つ分大きい。顔は二十歳より少し上かなと思えるような感じだが、その体は女子プロレスラーのようにがっしりと逞しく、小麦色の肌にオレンジ色の超ビキニを着たツインテールの女の双子だった。ツインテールにした髪は少し茶色っぽい。
見た目的に全く同じ、双子と言うよりもクローンのような、インパクトあり過ぎる双子。
「「兄ちゃん、すげえイイ体してんじゃん」」とタダの両肩を掴んだその双子が言うのが聞こえる。「「すげえちょうどいいわちょうどいい」」
こちらから見るとタダは後ろ姿でどんな顔をしているのかわからないが、双子はタダの両肩、二の腕を揉みしだきながら顔を見合わせて嬉しそうに言った。「「な?ちょうどいい。うちらと遊ぼう!」」
ヤバい…早く逃げればいいのに。…『ちょうどいい』って何がなんだろう…
双子はさらにタダの体を称賛し続け、今度は胸や背中をパンパン叩きながら顔を見合わせうなずいてから言った。
「「兄ちゃん、一緒に行こ!」」




