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想いなんか夏の空に溶けていったらいいのに 7

 タダのいる所へ戻り「わかってるから」と、タダが何か言う前に言う。

「私が邪魔になってたのはわかってるから」

「ほら」とタダが脇に置いていた浮き輪を私の頭からズボッと被せてきた。「借りてきてやったから」

「ちょっ…」

慌ててそれを取って押し返すと、そのままタダが脇に抱えて言う。「じゃ行こ」

 けげんな顔の私に「海!」と言う。「荷物はロッカーに預けてきたから」

「え、でも…」

「でもじゃねえよ、せっかく海に来てんのに。カニとか探してんな」

「だってヒロちゃんが…」

「そこは断れよ」

「…そうだけど」

ぐずぐず言っている私の腕をタダが引っ張りながら言う。「パーカー脱いでホラ」

「え…ヤダな」

「ヤダなじゃねえよ」

そう言いながらパーカーの袖をピピッと引っ張る。

 恥ずかしいよね、相手がタダでも。この胸の小ささを見られるのは。



 「なあ」とタダがちょっと目を反らして言う。「お前が思うほど、オレは気にしねえから」

「…なにを?」

「…胸!気にし過ぎ!」

 パパっと赤くなってしまう。…私がおっぱいちっちゃくてヒロちゃんに振られた事知ってるくせに。

 でもここで嫌がったらカッコ悪い。それにタダがまた私のパーカーをさっきよりも強く引っ張る。

「脱いでから行くから先行ってて」

「いや、」とタダ。「一緒に行く」

 仕方ない。バッと脱いでタダから浮き輪を奪い取り、それで少し体を隠すようにして海へ向かったせこい私だ。


 

 まだ11時にもならないが砂が熱い。途中でタダが私を追い越して行く。

 パシャパシャと先に海に入るタダ。デカくなったなタダ。私よりも小さかったのに。結構たくましくなったよね…ヒロちゃんほどじゃないけど。

 私も後を追ってそのまま海へ、足が着く場所だけどさっそく浮き輪に乗る。お尻を浮き輪の輪の中に置いて、そのまま仰向けに寝転んでプカプカ浮かぶ。


 あ~~~空が青いな~~~。キラキラキラキラ、キラキラキラキラ…高くなってきた太陽が空中にキラキラをまき散らしてる。

 はぁぁぁ~~。

 …ユキちゃん、良い子だよね。普通にクラスにいたら話易そうな子。

 なんでかな…なんでヒロちゃん、ユキちゃんだとあんなに意識したのかな。ユキちゃんで意識するなら私にだってちょっとくらいは心揺らしてくれても良さそうなものなのに…

 でも昨日言ってくれた。私とこれからもずっと仲良くしていきたいって言ってくれた。それだけでもすごい事だと思うけど、それはずっと仲良いだけの友達って事だよね?もう絶対彼女にはなれないって事だよね?

 …あ~…もうそれでもいいかな…ずっと仲良くしてもらえるなら…

 ユキちゃん良い子だよね。だから嫌だよね…


 と、その時、ゆらん!、と浮き輪が大きく揺れた。

 タダが揺らしたのだ。

「ちょっ…」

 ゆらん!、とまたタダは重みをかけて浮き輪を揺らす。そしてそのまま両手で浮き輪を掴んだタダが、ぐるん、と浮き輪を回したのでもちろん私も回る。

「ちょっと!止めてよ!」

慌てて体を起こすと不安定でユラユラする。

「いいじゃんホラ!」と言いながらタダがまだ回す。ぐるん!

「ちょっとって!もう…回さないで。ゆっくり浮かびたい」

ゆっくり浮かんでヒロちゃんの事を考えたい。そしてヒロちゃんとユキちゃん二人の事も…

「海に来てまでため息つくな」とタダが言った。

「…」そうだよね…。



 向こうに小さくなったユキちゃんとヒロちゃんをそっと見ると、くそ…まだカニ捕りしてやがる。バカじゃん高1の男女がやたらムキになってカニ捕りしてるけど…お互い意識するのを反らすためかなムカつく。

 「なんか、まともな感じじゃん」とタダが言う。「今度の子」

お前が偉そうに言うな、と思う。

「ヒロトも普通に恥じらってる感出して気持ちわりぃし」

タダがちょっと笑いながら言った。

「ねえ」とタダに言う。「私、一人で浮かんどくから泳いで来なよ」

浮き輪にゆらんと揺れながら空を見て、一人でゆっくり空を見て、このぐずぐずの想いをどうにかしたい。…ていうかこの際心行くまでぐずぐずしたい。

 

 「私、ここでプカプカ浮いときたい」

「そのまま沖の方に流されて行くんじゃね?」

「それはないように気を付けるけど…」

「じゃあ近くで見といてやろうか?」

どうしたんだろ?なんか優しい。私がユキちゃんの事気にしているからちょっと気を使ってくれてんのかな…

「いいの?」と聞いてみるとうなずいてくれた。


 またプカ~~~と浮く。さっきはヒロちゃんへの想いとユキちゃんへの嫉妬の気持ちが海の底に沈んでいけばいいって思ったけど、やっぱりそれではさらに暗くなりそうだから、このキラキラした青い夏の広い空にすううっと吸い込まれて消えていったらいいのにな…

 と、オトメな感じで自分に酔っていたら、急に浮き輪がまたぐらん、と揺れた。

「わっ!」と声を上げると、さらに大きく揺れた。「ぎゃああっ!」


 「ちょっと!タダ!ちょっ…なんでまた揺らすの?」

「暇だから?」

「もう!びっくりするじゃん!」

「せっかく海来てんのにお前一人でうだうだ思ってっから」

「うだうだは思ってない」

届かない想いを胸に、感傷にぐずぐず浸っていただけで。

 

 浮き輪を掴んだタダがまた、ぐるん、と私を浮き輪ごと回す。ぐるんぐるんぐるんぐるんぐるん!

「ちょっとって!酔う!気持ち悪くなる!」

「じゃあもうちょい沖行く?オレがちゃんと掴んどいてやるから」

「行かない。今揺らしたし回したし、そんなの信用できない」

睨んでそういうとゲラゲラとタダは笑って、思い切り浮き輪に体重をかけて来た。

「ぎゃああっ!!」

叫びながら浮き輪からザブン、と落ちる私。ゲラゲラ笑うタダの声が響く。

「すげぇ可愛くねえ声!」

「うるさい!何すんのもう!」



 簡単に足は着いた。でも浮き輪は離さず掴んでいたい。が、私が掴もうとした浮き輪をタダが掴んで思い切り放り投げた。

 バカだコイツ。

 もう知らん。泳いで先に帰るとヒロちゃんもユキちゃんも岩場の方にも休憩所にも見当たらない。どこ行ったんだろう。カニ探すのはさすがに止めたのかな。飲み物でも買いに行こうかな。ロッカー借りたって言ってたけど、鍵はタダかユキちゃんが持ってるんだろうか…

 そう思いながら借りた休憩所で休んでいたら、ヒロちゃんとユキちゃんが帰って来た。二人、それぞれの手にかき氷が入ったカップを持って。ヒロちゃんがメロンで、ユキちゃんがイチゴ。





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