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想いなんて夏の空に溶けていったらいいのに 1

 明日から夏休みだという7月21日金曜日。終業式の後の大掃除も終わってザワついている教室で、「なあなあなあなあ」とタダに声をかけられた。

 同時に周りにいた女子たちが、チラッと私たちの方を見る。

「明日、」とタダ。「海行こうってヒロトが言ってるけど大島も一緒に行くよな?」

 周りにいた子たちがザワザワっとした。




 ヒロトというのは伊東裕人。イトウヒロトは小、中、一緒の学区だっただけではなくて、地区も一緒、小学の登校班もずっと一緒だった、私の好きな男の子だ。過去に2回、1回は軽く、1回は重く振られているけれど、今でもまだ大好きな男の子。

 先月タダと一緒に顔を合わせた、ヒロちゃんとヒロちゃんを好きだと言って来たヒロちゃんと同校同クラのミカちゃんは、結局付き合うことなく終わったらしく、私はそれもタダから聞いたのだった。

 タダは多田和泉。タダイズミは小6の時にこちらに越してきてからのヒロちゃんの一番の友達だ。

 ヒロちゃんとは今度高校が別々になってしまったが、タダとは同じ高校、そしてクラスまで一緒になった。

 タダはあの後もちょこちょこヒロちゃんと会っているみたいだが、私はほんの2回、学校帰りに顔を合わせただけだ。

 「ユズ!」と声をかけてくれたヒロちゃんに嬉しくてぶんぶんと手を振った私だった。


 私の名前は大島ユズル。小1の時からずっと、高校生になった今でもヒロちゃんは、私の事を『ユズ』と呼んでくれている。ただ、『ユズ!』と名前を呼ばれただけなのに、やっぱり変わらず声をかけてくれた事がものすごく嬉しくて、ヒロちゃんと会った日は家に帰ってもニヤニヤしてしまった。ミカちゃんとも結局付き合わなかったし、良かった良かった。


 


 クラスまで一緒になったタダは、ミカちゃんと顔を合わせるのに同席したのを境に、前より私に話しかけてくるようになった。

「仲良いね」と、それを見かけた女子の皆さんに言われるのが面倒くさい。タダは見た目の良さだけで女子に人気があるのだ。

「タダの一番仲良い友達と幼馴染だから。それで」と、いちいち淡々と答える私。

本当は面倒だと思っているのだけれど、そこは毎回淡々とでも答えておかないと余計面倒な事になる。そして『幼馴染』という表現の特別さ。彼女だったらもちろんもっと特別だけど、彼女にだって負けない特別さある。…まあ幼馴染止まりは残念は残念だけど。 

「え?その子男子だよね!?え?女子!?やだ~~~」と皆さん。

「男子だよ」

「そっか~~良かった~~。え?じゃあもしかして!ユズちゃんの彼氏?」

「え…いや…違うけど…。でも幼馴染」

「きゃ~~~~!」騒ぐ皆さん。「その子カッコいい?ねえカッコいい?カッコいいんじゃないの?イズミ君の友達ならすんごいカッコいいんじゃないの?ねえ?」

「カッコいいけど」

「きゃ~~~~!もしかして?イズミ君より?イズミ君よりカッコいいの?」

そりゃもちろんヒロちゃんの方が断然カッコいいですけど、とは思いながらも答える。「カッコいいけど坊主だし、タダみたいな感じじゃないよ?」

「え?ワイルド系?」

ん~~~。やっぱりめんどくさいので最終的に言ってしまう。「タダに聞いてみて?」

「きゃ~~~~」




 「どう?」とタダ。「大島も行くよな?」

 …どうして最初から行く寄りの感じで言い出してんだろ?

「どういう事?」と聞いてみる。「ヒロちゃんが行こうって言い出してんの?タダと?」

もしかして!ヒロちゃんが私も誘えって言ってくれてんじゃ…

「ヒロトがまた告られたらしい」

「マジでっ!」

「マジマジ」


 …ヤダな…「…またミカちゃんみたいな感じかな…」

「いや、オレは写真を見せてもらったけど、今度はそんな派手な感じの子じゃなかった」

「写真見たの!?」

「見た見た。すぐ送ってきた」

て事はヒロちゃんはその子の写真をスマホにすでに入れてて、しかもタダにも見せたって事はもう気に入ってるって事じゃん!ヤバい大変…

 大変過ぎる!ヒロちゃんがモテ期に入った!だから海か、それで海か!告られて速攻海に連れて行くとかふざけてんな…ていう事はやっぱおっぱい大きな子かな…大きいんだろうな…くそ…

 ヒロちゃんは巨乳好きだ。私がヒロちゃんに振られた軽い方の1回は『ユズはおっぱいが小さいから』だった。




 「じゃあ明日8時集合。ヒロトんちに」

ヒロちゃんちか…小3の始めの頃までは他の子たちも一緒に遊びに行ってたな…

「迎えに行ってやろうか?」

タダがそう言うと近くにいた子たちがまたザワっとする。

「なんでわざわざ?」

「いや、」とちょっと笑うタダ。「ヒロトは女子といるのに大島一人じゃ来にくいかなと思って」

コイツは私が振られた1回目も2回目も現場にいて、その時も笑っていた。

「いやまず私行くって言ってないから。ヒロちゃんが私もって言ってくれてるわけじゃないんでしょ?」

「なんでおかしいじゃん。ヒロトとオレと女子一人って」

「あんたも行かなきゃいいじゃん!あんた邪魔なんだって。ヒロちゃんと彼女、二人きりにしてあげなよ」

そんな事絶対にさせたくないけど。

「いや、」とタダが言う。「それはないって言ってた」

それはない?「だれが?」

 彼女がまだ二人きりは嫌だと言ってんのか?


 「ヒロト」とタダが答える。「二人きりで水着とか興奮して来てマズい事になったらいけないから絶対オレにも来いって」

 はあ~~~、と吐き捨てるようにため息をついてしまう。

 バカだなぁもう!ヒロちゃんバカだ。…私ともし二人きりで行く事があったとしても、まず興奮とか絶対してくれないんだろうな…そんな感じで言われたもん、2回目の重く振られた時には『だってユズとは小1から一緒じゃん。チュウする時にも、他のなんかもっとする時にも、小さい頃のお前の事いちいち思い出して、何も出来なさそうじゃん』て。


 ていうか、ヒロちゃんの前で水着着るとか罰ゲームかっつうの。おっぱいちっちゃいからって1回目振られてんのに。絶対ないわ。海なんか一緒に行かない。

「あ~そうだ!」とタダ。「大島、水着は?」

「持ってない。てか行かないつってんじゃん」

貧乳だから中学の時の水泳の授業もすごく嫌だったし、プールとか海には行ってないからスクール水着しかない。

「オレも合う海パンねえわ。持ってんの、もうちっちぇから」

タダ、また背が伸びたもんねぇ。

タダが言う。「なあ、これから一緒に買いに行こ。飯食ってから」

「いや、だから行かないつってんじゃん」しつこいな。

 ザワザワザワザワ…



 なんだろう…なんだろうタダのこの、普通の友達に話すように私に話してくる感じ。最近特に感じるけど。

 そりゃクラスでは同中出身者は二人きりだし、仲の良いヒロちゃんに彼女が出来そうで寂しいのが私への連帯感、みたいに感じてるんだろうか。

 寂しいっていうより、私は腹立つけど。

 私の好きなヒロちゃんが、私じゃない他の女の子を見てるのは凄く腹立つ。

 私でいいのに、って思う。今すぐ思い直して、私の事を好きになってくれたらいいのにって。





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