表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/337

63話

 その後、お店を出た後は、近くの公園へ。かなり開放的な場所で、遊具はあまりなく、見晴らしがいい。木々はライトアップされ、神秘的な世界、と本来なら楽しめるはずなのに。それも『あの方』と二人きりで。ベンチに座り、私は俯く。寒空と、静けさ。落ち着きは取り戻せた。


 結局、あの後チェスでも完膚なきまでに『あの方』は、おじさんを叩きのめしたらしい。ルールはあまりよくわからなかったが、見る見るおじさんの顔色が悪くなって、あっさりと負けを認めた。本当に、なんでもできる方。自分とは違う。


「勝負で火照った体には心地いいね」


 そう、私のことを『あの方』は気にかけてくれる。どこまでも優しい。こんなことが前にあった気がする。前? 二人きりで会ったことあるっけ?


「……ごめんなさい」


 それでもまず、最初に出た言葉は謝罪だった。自然と口した。


「それはなにに対して?」


 ごもっとも。謝ることが癖になっているのかもしれない。なにに対してなのだろう。なにが原因なのだろう。


「……わかりません。いや……色んな、人達に……」


 途切れ途切れに会話を続ける。落ち着きはしたが、整理はできない。思いついたことを話すだけ。言ってから内容を考える。だから少し言葉が変だ。


「具体的には?」


 『あの方』は、イエスかノーじゃなくて、私に話しやすいように語りかけてくれる。


「まず、お母さん。うん……それと、さっきのおじさんとか。私のせいであんなに……それに——様にも」


 ……あれ? 私、今なんて言った? 名前、なんて? というか、なんであんなにお金を持っているのか、聞いてみたい。どうやって稼いでいるんだろう。


「……そうだね。俺は別にかまわないよ。ただ、楽して稼ぎたいのはみんな一緒。リスクがあるのも一緒。自己責任だからね」


 私の肩を抱き寄せ、頭をポンポンと優しく撫でてくれた。突然のことで驚くが、嬉しい。以前にもこうやって私を……気のせいだろう。初めての優しい、ライチと柑橘系の香り。


「……はい。ごめんなさい……」


 もし、今ふと唇を差し出せば、キスしてくれるのだろうか。いや、なにを考えているのだ私は。そんなのダメだ。落ち込んでいることを餌に、近づこうだなんて。心の隙間を埋めてもらおうだなんて。


「でもなんで賭博なんかしようと思った?」


 『あの方』は本題に切り込んできた。だから、全て白状することにした。ずっと前から見ていたこと。綺麗に、可愛くなればもっと近づけるんじゃないかと思ったこと。途中、お母さんのこととかも話したが、『あの方』は、頷きながら話を聞いてくれた。


「だって、私、——様のために……なにしたらいいかって、わからなくて……でも、とりあえず、お金が必要なんじゃないかって……」


 好きな人のはずなのに、名前が曖昧にしか出せない。なんでだろう、失礼なことだ。でも、好きだ。好きなんです。


「俺? 俺のため?」


 驚いたみたいだけど、「ありがとう」と『あの方』は言ってくれた。よかった、少しだけど、報われた。


「そしたら、なんにも考えられなくなって……働くのも限界があるし、どうしたらいいかわかんなくなって……」


「で、賭博に手を出した?」


「……」


 こくん、と頷く。

ブックマーク、星などいつもありがとうございます!またぜひ読みに来ていただけると幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ