336話
するとそこにいたのは、先ほどまでアニーと会話していたはずの女性。抜群のスタイルが間接照明に照らされ、そこに存在している。
「驚かせてしまったようだね。すまない。シシー・リーフェンシュタールだ。カッチャ・トラントフさん、と言ったかな?」
「なんで名前」
警戒しながらカッチャは問い返す。たしかに、近くで見ると女の自身から見てもなるほど。とてつもない美人。怖いほどに。ユリアーネのような柔らかな可愛らしさ、とは真逆。冷たい美の結晶。そんな印象。
「アニエルカさんから聞いてね。この店の実質的な支配者だとか」
ふふっ、と可笑しくてシシーは声に出してしまった。支配。いい言葉だね。
なんとなくだけど。こいつには敵わないんじゃないか。そんな恐怖心がカッチャの胸を締め付けつつも。
「あいつらが店長とオーナーなんだけど。ついでに実質的な店長業務を行なっている人も他にいるし。私はただのヒラ。なーんの権力もないわ」
それらを見せつけないよう、明るく振る舞う。余裕。そう、余裕余裕。私は。余裕。
そのあくまで自然体なところ。シシーは羨ましがる。
「なら権力ではなく人柄に引き寄せられているのだろう。素敵なことだ」
あんたも似たようなもんでしょうが、とカッチャは心の中で呟きながら。
「……で? なんの用?」
そう、それが本題。この女王様が。私に。私如きに。少なくとも初対面なはず。こんな美人、会ったことがあれば覚えてる。
笑みを崩さずシシーが逆に問い返す。
「なんの用? あなたのほうから俺に話があったみたいだからね。違うかい?」
言葉に上手くできないが、そういったものを感じ取った。以前には見えなかったのだが、ヒリつく場面が多かったから。そこで研ぎ澄まされたのかもしれない。人が無意識に発する気配。そんなようなものが。
いきなり訳のわからないことを言われ、惑うカッチャ。私が話がある? いやいや、なにを言っているんだ全く。
「……違う」




