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318話

 モンフェルナ学園、学生寮。上のベッドでジタバタと暴れ回る人物、サーシャ・リュディガー。わけあって、シシー以外の人物には『リディア・リュディガー』という女生徒として通っている。


「暇。ひまヒマ暇」


 明るく照らしてくれるライトを見つめながら、くしゃっと顔を歪めている。


「だからってこっちの部屋に来られましても。シシーさんはどちらへ?」


 壁側の備え付けの机。そのイスに座りながら、同じくドイツからの留学生であるユリアーネ・クロイツァーは、少し眠そうな目で対応する。


 その名前が呼ばれると、天井にシシー・リーフェンシュタールの顔がサーシャには滲んできた。今、この瞬間、楽しいことをしているのだろう。


「……お友達と遊びに行っちゃった。全然優等生じゃないよね、もう深夜だってのに」


 こっちはムラムラしてるってのに。連れてってくれてもよくない? 帰ってきたら説教だね。どんなに真夜中に帰ってこようと、そんな予定を立てた。


 下のベッドに寝転びながら、こちらも留学生アニエルカ・スピラ、通称アニーは思いを馳せる。


「まぁ、そういうところもミステリアスで素敵っスよね。憧れます」


 全員、もう寝る準備はできているので寝巻きに着替えている。なんだかせっかくのパリということもあり、眠るのがもったいないようで。


 アニーとユリアーネの部屋。ひとりでいるのもつまらないので、サーシャはこちらに来てみた。喋っていれば色々発散できる気がして。


「いやいや、アニエルカはあーなってほしくないね。こうやっていつも朗らかでいてほしいよ。紅茶淹れるのも上手いし」


 あー、とはシシーのこと。常に気を張って、完璧に振る舞おうとする。抜けているところがない。まわりがそんな人ばっかりというのは疲れる。ひとりくらいがちょうどいい。


 褒められているのかよくわからないアニー。しかしすごいのはそちらもそう。


「リディアさんこそ。色々博識ですごいっス。是非ともベルリンに戻ったら〈ヴァルト〉で働いてほしいくらいっスよ」


 トーク力もあって明るくて。色々と細かいところに気づく配慮。トーク力がカフェ店員に必要かは置いておいて。


 彼女達はベルリンでカフェを経営している仲間。なので戦力とみなせば即スカウト。これ、人類の知恵。


 しかしユリアーネも口を挟む。自分の店。なにかあったら取り返しがつかない。


「年齢的に流石にまずいです。あと二年くらいしたらお待ちしております」


 とはいえ、そのポテンシャルには納得せざるをえない。知識や言語力、誰とでもすぐに仲良くなれるところ。きっと〈ヴァルト〉でも戦力。無理にとは言えないが、もしそうなってくれたら個人的にも嬉しい。


 評価してくれるのは単純にサーシャも喜ぶ。戻ったらすぐにでもやってみたい。面白そうだし。


「シシーも一緒にやってくれたらいいんだけどね。年齢詐称くらいお店でなんとかなるでしょ?」


 無茶を言う。やった場合には未成年者労働保護法違反となって、処罰を受ける可能性も。だが。


「なんとかします」


「ダメです」


 なんとかしようとするアニーと、ダメだとはっきり言い切るユリアーネ。働けるのは一六歳を超えたら。それまでは我慢。


 そんな真逆の二人を見ていると、荒んでいたサーシャの心も徐々に癒やされていく。と同時に、自分達とは生きている世界が違い過ぎて、なんだかここにいる実感が湧いてこない。窓の外を見る。


(そろそろ勝負がついている頃かな。果たして。どうなっていることやら)


 ま。シシーが負けることなんて考えられないし、そんな姿は想像できない。帰ってきたら、とりあえず「お疲れ様」ってコーヒーでも淹れてあげようか。

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