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311話

「必ず最善手で返してくれると信じていた。そしてあなたの遊びをなくすため、あえて少し悪い手を指した。それが◇a3さ。あとは残りを最短最速で終わらせようとするからね。あなたにしか通用しない。あなたのためだけの対策だ」


 もう二度と使うことはないであろう。使えないであろう。この場のためだけに。全力で準備してきた。


 それでもドゥ・ファンの表情は晴れない。あまりにも綱渡りすぎて簡単に破綻する作戦。そんなもの、いくらでも穴はある。


「……先手番を取れなかったらどうするつもりだったんだ」


 そうなれば全てが水の泡。五割の確率。充分に高いかもしれないが、頼りなくもある。


 一か八か。そう思えるかもしれないが、これにはシシーは信じて疑わなかった。バーで最初に会った時に感じ取り、そして今日。ロビーでの会話で確信した。


「いや、あなたは俺を下に見ていることはわかっていた。俺に選ばせてくれる。プライドの高さが仇になったね。全て。予定通りだ」


 普通であれば、左右の手にそれぞれ白と黒の駒を握り、相手に選んでもらうという『トス』決め方が一般的だが、これは大会ではない。圧倒的な実力差を押し付けてくる、そのために有利な展開を全て相手に与えてくる、と悟っていた。


 ここまでの話。一応の辻褄は合っている。そこは認める。全て相手の手のひらで踊っていた。自分のミス。だが、計算などできない部分がひとつある、とドゥ・ファンは追求していく。


「……配置、このランダムな配置はどう説明する? どうなるかわからないのであれば、お前にも手の研究などできないはずだ」


 ルールを決めるところまではできても、そこまでは決めることはできないだろうし、やったのであればそれは不正でしかない。この対局にルールなどないかもしれないが、それをやってしまうとこの競技が成り立たないし、プロフェッサーも流石にそれは自分の楽しみを奪うことになる。こいつも望んでいなかった。


 そこが一番のポイント。むしろ、それこそがシシーにしかできない、唯一の勝利の鍵となっている。


「もしこの配置が完全ランダムであれば、たしかに骨が折れる作業だ。だが、その配置の数は決まっている。たったの九六〇通りだ」


 八個の駒。もし区別がないのであれば四万三二〇通り。しかし、ルーク・ナイト・ビショップに区別はなく、キングもルークとルークの間のどこかに存在しなければならない点などを計算すると、このゲームの名前にもなっている九六〇通りしかなくなる。

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