288話
これで最後。あいつと関わることなどないと、綺麗さっぱり終わるはずだったのに。シーウェンのことを姉だと主張して離さないケティ。実年齢よりも精神が少し幼くなってしまったみたいで。だから。少しだけ。施設のチビ達のことを思い出して。
「……今日は一緒に寝ようか」
とシーウェンはつい、言ってしまった。心の中では「帰ろうと思ったのに」という気持ちが同時に生まれたが、なんだか雰囲気のままに行動を任せるとそういうことになってしまうのだから、仕方ない。明日起きたら「誰?」とか言われたら、ちょっとだけ寂しいが、そうあるべきだと願って。
母親は最初は素性のわからない、ヴァージニーの同級生を名乗る少女を注意深く観察していたが、よく考えたら別にもう失うものはないと開き直った。
「また、いつでも来てね」
翌日、家から出ていくシーウェンに母親はそう声をかけた。温かみの中に疲労感も見える。どこか申し訳なさも漂っているようで。
その予定はなかったのだが。唇を噛んで少し躊躇うシーウェン。想像していたよりも心地よくて。でも自分がそれを受け入れてしまっていいのかわからなくて。
「どっか行くの?」
そう、無垢なケティの瞳が訴えてくる。やっと帰ってきたばかりなのに。もっと一緒に遊ばないの?
自分の価値ってなんだろう、と考えたこともあったシーウェン。今でも自分にできることなんてそんなにないと思うけれど。今だけは。
「いや。またすぐ帰ってくる」
と言い残して帰路に着く。時折訪れては家族団欒に混ぜてもらう、という流れになった。まるでその家族の一員として受け入れられたかのように。施設のことを思い出して、温かさに恋しくなったのかもしれない。
冬の朝のパリ。風は冷たくて。まだ暗いためよく見えないが、残念ながら今日も天気は晴れ間の見えない曇り空らしい。午後からは雨の予報。午前九時くらいまではまるで夜のように暗く、そして午後四時くらいには日が沈む。
陽の光が当たらない生活というのは、精神的にマイナスに傾きやすい。逆に、夏は夜の十時くらいまで日が沈まない。極端すぎて情緒が不安定。北欧の白夜とか、どうなってしまうのだろう。そんなことをパリに来たばかりのシーウェンは憂いていた。
そんな闇が支配する中、通学する子供達は色々と大変。ストライキでよく公共交通機関が動いていないので、学校まで車で送ってもらうのだが、混みすぎててかなり遠くで降ろされたり。一時間目がスポーツなのか、バドミントンの道具らしきものを持って学校外の運動施設へ向かう子も。




