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277話

 一通メッセージを送るだけでなんでこんなに覚悟がいるんだ。恋や愛というものはよくわからないな、とドゥ・ファンは温度差を実感している。


「なんて送ったんだ?」


「今、しつこく口説かれて、力づくでお持ち帰りされそう。助けて。って」


 これが私の考えた『必要性』。申し訳ないけど、この場にいる人達にはもう少し協力してもらう。ララ・ロイヴェリクという人間は状況に応じてなんでも利用できる胆力を持っている。


 酒が原因ではない頭痛にドゥ・ファンはクラっと眩暈がする。


「……私はその芝居に最後まで付き合った方がいいのか?」


「ふっ」


 普段、あまり感情を出さないマスターだが、思わず後ろを向く。まだやる予定のなかったボトルを磨き出した。


 なにか一線を超えた気がするララは、明日のことなど今は考えられない。今日。出会えた奇跡を祝うほうが大事。お金に糸目はつけない。


「奢るから。好きなだけ飲んで」


 自分はまだ充分に飲んでいないという思惑。今まで飲んでいたのは水。砂糖水。だからまだいける。店にあるボトル全部開ける勢い。


「……」


 なにをやっているんだ私は。ひとまず一件落着したらしい雰囲気。らしくない自分を今一度ドゥ・ファンは戒める。人と関わりは極力持たない。そう生きてきたのに。変な夢と。変な人物。時間。場所。それらが複雑に絡み合って結果こうなった。


 いつもと酒の味が違う気がするのも、そういったメンタルによるものなのか。たしか、ストレスを感じた状態だと苦味を感じにくくなるという結果が出ていたはず。逆に運動後の体が疲れている状態だと、酸味が弱くなるんだったか。それも人それぞれだとは思うが。


 こうやっていつもと違う環境に身を置いて酒を飲む。実験結果の通り、いつもより苦味が少ない。ということはストレスである。静かに飲みたい。はずなのに、なんだかこの騒がしさが悪くない、と思える自分がいて。それは一体なんなんだろう。


 相変わらず、隣からは相談事のようなことをされている。適当に聞き流す。それでも彼女は喋る。まるで泳いでいないと死んでしまう魚のように。本来の彼女はどうなのだろう。酒の入っていない彼女は。これほどの美人。なにか人前に出る仕事でもしているのかもしれない。


 自分はそういう情報に疎いから。美容とか、そういうの気にしていないし。タバコも吸っているし。奢る、と言われても、そんなにガブガブと飲むような飲み方はしない。二杯程度引っ掛けて帰るつもりだった。


 バーとは雰囲気を楽しむもの。お金はそこと酒に払う。のに。

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