264話
かのアインシュタインが『蜜蜂が絶滅したら、四年で人類は滅びる』という説を唱えたことは有名であり、野菜や果物、その他多種多様な農作物の七割以上は蜂の受粉によって生産ができている。そのため、養蜂家は蜂蜜を作るだけではなく、農家に蜂を貸し出すことも仕事になる。
蜜蜂、というと食料のために人間の役に立っているというイメージがあるが、針を使った『蜂針療法』というものも存在する。その針を通して蜂毒を人間の体内に注入する療法なのだが、中国では病院に『蜂針科』や、専門の医院もあるほど。
蜂毒には、病気への抵抗力を上げる成分が含まれており、針の根本の『毒嚢』という部分の液体から採取する。古代ギリシアの医師であったヒポクラテスも紀元前から用いていたとされており、慢性的な痛みなどに効き、血行促進などの効果も。
四千万年以上も姿を変えずに活動を続けて来ているとされている蜜蜂。まさに『毒にも薬にもなる』とはこのことで、コーランの一六章七一節にもそのことについて記されているほど。
「で? 私になにをしろと?」
ベッドに寝そべるアジア系の顔立ちをした少女。自室なのでシャツと下着のみでリラックス。
彼女が暮らす学生寮。非常に狭く、ドアを開けると数歩ぶんのスペース。ベッド。窓から見える街並みは少し自慢できるもの。眩しいので今現在はカーテンで日光を遮っているため、室内は薄暗い。
傍に腰掛けるヴァージニーは力無く。
「私を清廉潔白な性格にできる?」
誰に相談すればいいのかわからなくて。なので近すぎるわけでもなく、だからといって遠すぎるわけでもない友人、というより知り合い程度の同級生に話を持ちかけてみた。
「無理だ」
なにを言い出すのかと思えば。寝返りを打ちながら少女は目を閉じた。魔法使いじゃないんだから、私は。
しかしヴァージニーからすればその返事のタイミングが不満。
「早いわよ。少しは悩んでよ。シーウェンの国じゃ針治療すごいんでしょ? 頭にブッ刺せばなんとかならない?」
中国四千年の歴史ってやつ? 知らないけど。医学部に入ろうとか思わないし。
シーウェンと呼ばれた少女。朱詩雯。シュ・シーウェン。中国からの留学生。
「拳くらい太いのを刺せばなんとかなるかもな」
唐突に部屋にやってきて。そして訳のわからないことを、事情もわからない自分に話し出す。通常の方法では治しようもない。となると頭蓋骨をゴリゴリと削って脳を刺激するしかない。医学知識などないけど、そんな気がする。




