252話
翌日。父親から借りてきたチェスボードと駒。一緒にやろうと言われたが、まずはルールから覚えなきゃ。学校で習った気もするけど、細かいところは忘れたから。今なら携帯で世界の人間と勝負もできる。気軽に始められる。つまらなかったらやめよう。
しかし、それは案外ヴァージニーの性に合っていて。初心者同士でやったり、そして負けたら勝ち方を検索してみたり。知識を無理に詰め込むより、必要になったら調べるほうが合っているらしい。無料で何度も何度も遊べる。お金がない自分にはありがたいこと。
どうやらこれもルービックキューブと同じで、最初はシステム化している。幾つ存在するのかもわからないオープニング。名前だけは聞いたことがあった『ギャンビット』は、自分の駒を取られる代わりに優位な展開に持っていく戦術だそうだ。
ふむふむ、とわかったようなわからないような様々な戦略。とりあえず先手なら最初はポーンd4かe4と指しておけばだいたい間違いはない。初心者なんだからわかりやすいやつから覚えてみよう。こっちはルービックキューブより稼ぐ手段が豊富そうだし。プロになれば、の話ね。
ルービックキューブとは違い、チェスは二人でやるもの。ある程度形になってきたら、ヴァージニーは父親と指してみる。とは言ってもお互い初心者のようなもの。父親もルールは知っている程度で、詳しいわけではない。ボードだけはなんとなく買っていた模様。
「ねぇ、今から始めてプロになれると思う?」
ビショップを動かしながらヴァージニーが意見を求める。プロを目指す人はどのくらいからやっているのだろうか。というかプロを目指していいのだろうか。なにを持ってプロとするのか。そういったものも含めて。
なんだかコロコロと目標を変えてしまって申し訳なさ、のようなものがあった。自分の人生とはいっても、一応聞いてみることにした。今後また変わるかもしれないけど、その度に聞くようにはする。決定。
むむっ、と良い手を打たれて父親は唸る。集中は盤面に残しつつも会話にも参加。
「わからん。なれるかもしれないしなれないかもしれないし。だけどプロになる人は『なりたい』って思った人だと思うから、とりあえずは第一関門は突破したんじゃないか。なるの?」
とりあえずクイーンを逃そう。これを取られたら勝ち目はない、と思う。もしかしなくても、子供達って少なくとも自分よりは遊戯の才能がある。最後の壁になるには自分には少し難しい話だ。




