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229話

 次の日。パリ六区のサン=ジェルマン=デ=プレ地区。夏場は夜の二二時頃まで明るいパリは、冬に近づくと一六時にはかなり暗くなってくる。すっかり葉を散らした木々にくくりつけられた電灯。路上に駐車された膨大な車の数。パリの日常。


 大通りに面したそのカフェは、サルトルやカミュなどの知識人が多く集ったことで有名で。特にそのテラス席はパリで一番、と言っていいほどに様々な雑誌やメディアで紹介される。行き交う人々と車を眺めながら、天気のいい日は日向ぼっこする。それこそが贅沢な時間。


「グウェンドリンさん。また会ったね」


 日除け、雨除けの役割をする店舗テント。その下でイスに座りながら読書をするシシー・リーフェンシュタールは、偶然にもその隣の席に腰掛けた少女に声をかけた。


 たまたまカフェに来たら、たまたま隣に優等生で有名な少女が座っていたグウェンドリン・グラシエットは、注文もそこそこにまずは挨拶。


「いやはやどうも。本日もお美しい」


 店の電灯に照らされ、絵になる横顔、と彼女を率直に褒め称えつつ、少し崩れてきた空模様を心配した。


 パタン、と本を閉じてテーブルに置くシシー。内容も一字一句記憶している。が、目で読み返すことでまた新たな発見がある。いい作品は環境を変えて何度も読むべき。


「ここはいいところだね。街も刺激的で楽しい。人も親切。来てよかったよ」


 来る前は悩んでいたが、杞憂だった。お土産はどうしよう、と道路向こうの店を見ながらふと考える。


 自身の出身地を褒められ、グウェンドリンは喜びを見せる。


「それはよかったです。自分のことのように嬉しい」


 なんとなく。彼女のお気に召していただけたのなら幸い。


 軽い世間話を挟みつつ、シシーは突然切り出す。


「それで単刀直入に聞くけど」


「はい?」


 学校のことかな? それともパリの美味しい店? 頭に浮かべつつグウェンドリンは耳を傾ける。しかし。


「中盤から突然のクイーン・サクリファイス。キミはどう思う?」


 俺は研究しがいがあると思うんだけど。そんな溌剌とした声で。


 数秒。全くの意識の外からの問い。グウェンドリンはポカン、と口を開けたままフリーズ。


「……クイーン? クイーンて、トランプかなにか——」


「とぼけなくていい。キミは俺の正体を知っている。そして、チェスの実力者だ。そのキミに意見を聞きたいだけ」


 他意はないよ、とシシーは会話を楽しもうとする。自分なりの解を持ちつつ、他人の色を加えてみたいだけ。


 テーブルの上に置かれたコーヒー。無意識に静かに啜るグウェンドリン。


「……なんでそう思うんですか?」


 なにかした覚えはない。紅茶を飲んでショコラを食べただけ。のはず。

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