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185話

「でね、その時お姉ちゃんが——」


 カフェにて。外のテラス席で気持ちのいい風に吹かれながら。混み合うベルリンの街を観察しつつ、妹が楽しそうに自身の姉がいかにカッコよくて、いかに優しいかを力説している。


 姉のほうから『妹が会いたがっている』という連絡を受けた。あれだけ嫌がっていそうだったのに。なにかまた変なことを思いついたのか、とサーシャはほんの少しだけ心がザワつく。


 妹本人はもっと、色々なところを一緒に見てまわりたいそうだが、歩行が困難であることや、視力が非常に弱い上に、体力的にも辛いと予想したためカフェへ。ちょっと歩いただけでも苦しそうな呼吸。連れまわそう、など考えられるわけもなく。それにカフェも楽しい。


「それで、お姉ちゃん、その人に向かって、なんて言ったと思う?」


 止まらない姉への愛。きっと本当の姿を知らせてはいけない。サーシャは心に誓い、会話を楽しむ。自分には兄弟も姉妹もいないから。いたとしても知らない。会ったことないから。だから少し羨ましい。


「サーシャ?」


 妹が顔を覗き込んでくる。なにか心配させるようなことをしてしまっただろうか。わからないが、どうしたの? と優しく返す。


「……本当は学校、行ってみたいな、って。でも、杖、揶揄われたり、それに運動とか全然、できないし……」


 目も、あまり見えないし。行けない理由はいくらでもある。実際、行ってもなにもできないかもしれない。だが、通いたいという子の意志を親は尊重しなければならない。学校も、それでも通わせることができないと、勧告に行かなければならない。


 誰が悪いわけでもないし、誰もなにもできない。でも。通わせる気がないのなら。なぜ僕はここに呼び出されている?


「あぁ、だってあの子。もうすぐ死んじゃうから」


 妹と会ってから数日後。自分の妹のことだというのに、地球の真反対の、名前も知らない誰かのことのように姉はあっさりと言い切った。呼び出されたホテルで。


 今はまだ仕事前。頭は正常に働いている。それでもサーシャはそれを咀嚼し切るまで、ベッドの上で数秒要した。


「だから最後に記念に……というのかな。同じぐらいの歳の子と。遊ばせてあげよう、ってことになったの。両親と相談して。不登校改善のため、みたいなこと言ったかもだけど、それ嘘」


 ぷかーっと姉はタバコで輪を作る。少しずつ薄くなって。そして部屋と一体化。

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