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139話

「ねぇ、聞いてる? シシー・リーフェンシュタール」


 そう反応を確かめてくるのは、無断で向かいの席に座り、勝手にエスプレッソを飲むサーシャ・リュディガー。一回戦でシシーと当たり、敗れた少年、もしくは少女。中性的な出で立ちをしており、傍目にはわからない。シシーはとある事情で知っているが。


「……なにか用か」


 明らかにシシーの表情は不機嫌。静かに考え事をしたいというのに。騒がしくされるなら、ここに来た意味はない。


 まぁまぁ、とサーシャは足を組む。今日は女性の気分なのか、ショートパンツにブラウスにカーディガン。寒さはあまり感じない人。

 

「そんな邪険に扱わないでよ。あ、お姉さん、僕もエスプレッソ。ラテアートはチューリップでよろしく」


 まるで待ち合わせの友人が到着したかのように、自然に振る舞う。トントンとテーブルを指先で叩き、待ちきれない様子。


「もう会う予定はなかったんだがな。どうやってここが?」


 エスプレッソを取り返し、シシーは仕方なく会話を紡ぐ。無視するかと考えたが、どうせ関係なしに話しかけてくるだろう。ならば、さっさと追い払ったほうがいい。


 知りたい? 知りたい? と、満足気なサーシャは勿体ぶる。焦らすことで興味をこちらに引きたい。


「教えてあげてもいいけど、一局指そうよ」


 どうする? どうする? と、顔を近づける。


 目を閉じたままシシーは座席を変更する。荷物とエスプレッソを移動。


「ちょっとちょっと。気にならないの?」


 当然サーシャも追尾してくる。そのためにここに来たのだから。


 少し苛立ちながらもシシーは、平静を装う。


「ならない。どうせ学院から追いかけてきたとかだろう。迷惑だ」


 あまり自分の裏の顔を知っている人間は、学院に近づけたくない。アリカなどは生徒だから仕方ないとして、無駄に危険な因子は排除する。


 しかしニンマリと笑みを浮かべてサーシャは、身を乗り出してシシーの髪に触れる。


「正解。有名だったんだね。まぁ、そんな気はしていたけど」


「学院のことはどこで知った?」


 今、ここにいるのはそれがまず原因。どこで自分が生徒だと知ったのだろう。シシーは問い詰める。場合によっては口を封じるべきか?


 到着したエスプレッソの味を楽しむサーシャ。まぁ、アートが違うだけなので味は一緒。


「当ててみなよ? 得意でしょ? 推理」


 どこまでも挑発する。かまってほしい。今、目の前にいる僕という子猫に。無視されると爪で引っ掻くかもよ?


 ふぅ、とシシーはため息をつく。


「お前の家で寝込んでいる間に、俺の財布でも見たか」


「てか、それしかないよね」


 以前、毒を盛られ、サーシャの自宅アパートで昏睡状態になった。その際に見られた、以外にはシシーは思いつかなかったが、当人の反応から見ると正解らしい。

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