119話
共犯者となるアリカとは、休日以外にも会うようになった。彼女のタガの外れた性欲は、定期的に発散しないと、なにをしでかすかわからないほど。毒さえ製造してもらえればよかったのだが、手伝ってくれることとの引き換えが、少し重くなってきた。
仕事は準備が九割。それは道具であったり心構えであったり様々だが、余裕を持って望むことが一番大事。ただでさえ臆病な自分。準備し過ぎるというものはない。順調に見えても、最悪のケースを想定しなければ。
「大丈夫。抜かりはない。楽しみにしておいてよ」
ポンっとアリカの頭を撫で、安心させる。いや、アリカは不安や不満があるというわけではない。『本当にシシー・リーフェンシュタールを殺せるのか』『もしくは悶え苦しむ美しい様を見物できるのか』という焦燥感のみだろう。
いつもアリカの家やカフェなどで落ち合うわけだが、あまりお互いに作戦の中身を話し合うわけでもない。アリカからしたらどうでもいいのだろうし、ジルフィアとしても、指定した通りにアリカが毒を作製してくれれば、なんの問題もない。完成を待つだけ。
今回は新しく、ドウモイ酸という毒を使用するらしい。詳しくはわからないが、かなり強力かつ、解毒剤がないと確実に死ぬとのこと。貝の毒らしいのだが、その中でも『記憶喪失性貝毒』。最近は記憶に関する資料を読み漁っているそうだ。
「記憶喪失になるかどうかの実験は、できれば人間で試したい。こっちは死ぬようなことはない。安心して」
こんなことをアリカに言われたが、なにを安心すればいいのかわからない。ターゲットにされた子は可哀想に。記憶以外にはなにも害がないよう、細心の注意を払っているそうだが、毒にも色々種類があって、聞いていたら楽しくなってきた。
さて、勝負の算段を再確認しよう。
《服毒チェス》
もちろん、そんなもの普通は存在しない。毒とチェス。ミスター・チルドレンくらい、上の語と下の語が噛み合わない。だが、私の中では存在する。毒を飲みながらチェスをする。似ているが違う。同じだが違う。コーヒーや酒の代わりに飲むのとは違う。
「あんたの言われた通りにやってるけど、アリカのコミュ力じゃ全然仲良くなれないよ。取り巻きもいるし」
最初からアリカはいないものとして考えている。ただ、私ではなく彼女のほうに性欲が向いてくれたら、程度。私の邪魔さえしなければ。あと、毒さえ用意してもらえれば。そして、その時はやってくる。
シシー・リーフェンシュタールはメールで呼び出した。道具もバッチリ。場所も押さえた。あとは実行するのみ。
「さて、そろそろ行くか。その前に」
今日で最後になるだろう。ならば記念。その日、初めて自分からアリカを誘った。




