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慣れない森での暮らしに、ダイヤモンドが体調を崩したこともあった。
ジオは、森から食べ物を捕ってきて、ダイヤモンドのベッドの横にずっとついていた。
ジオが怪我をしたこともあった。
ダイヤモンドは、かわいそうに、痛いでしょうにと泣きながら手当をした。
共に星を見て、朝日を待ち、眠って、目覚めて、視線を交わした。
一人と一頭は、毎日の小さなことを、大切に育てた。
お互いだけのやり方を、丁寧に作り上げた。
衝突もあったが、怒りはそこになく、ただ、どういうつもりでそれをしたかと、どういうつもりだと受け取ったかを、獣の拙い言葉と、ダイヤモンドの時間と体力を使って、確かめ合って、わかりあって、育てていった。
一人と一頭で、一緒に暮らすにはどうしたらいいか。
世界の誰も知らないそのやりかたを、一人と一頭で、丁寧に丁寧に育てた。
湿気のない晴れの日が続いていた。
好機だと思って、ダイヤモンドは汚れた絨毯を庭に引きずり出す。
庭と言っても植え込みや薔薇があるわけではなく、ただ、森を遠ざけるために広い空間を作っているだけの場所だ。
背の低い草が、芝のような顔で生えている。
大まかな汚れを熊手とほうきで外すと、水と石けんとモップで絨毯を洗う。
ジオは、水桶を銜えて手伝おうとしたが、ダイヤモンドが止めた。
「ジオ様の口はその様に出来てはおりませんわ。私がやります。ジオ様は狩りに行かれて下さい。乾くのに結構かかりますから、他の寝床を用意しましょう」
一日掛けて絨毯を洗うと、ダイヤモンドは丸めて上から乗り、水を少しでも絞ろうとする。ジオもそれは手伝えた。二人は同じ作業を協力してやった。
庭に、ダイヤモンドが動かせる程度の家具を並べ、絨毯を置く。
「雨など、降らないと、いいですわね」
「うむ」
「私、ひとつ決めていることがありますの」
「わたしもだ」
「あら」
ふふ、と笑って、ダイヤモンドは室内に入った。
もう、夜に近かった。
服が濡れたので、火を起こし湯を沸かして身体を拭く。
ダイヤモンドは館にあった男物の服を借りて着ている。大きいので袖も裾もまくりあげている。労働に向かない、シルクとウールの服。
ジオが中に入ったので、ダイヤモンドは庭への扉を閉める。
「しばらく晴れるといいですわね」
「うん」
ジオは暖炉から少し離れたところにうずくまった。
ダイヤモンドは、と、と、と爪先立ちで近づいて、ジオに訊く。
「よろしい、ですか?」
ジオは少しの間の後で言った。
「うん」
ダイヤモンドは、ジオと、暖炉の間に、クッションをしいて座った。
緊張して、嬉しくてただ座っていただけだったが、ジオの尻尾が、ふわりと身体を包み、自分の身体の方に、ダイヤモンドを寄せた。
ダイヤモンドは、力を抜いて、ジオラルドの身体に寄りかかった。
毛皮越しに熱が伝わる。
呼吸している。
心臓が動いている。
なんでもいい。何でもよかった。
だからだ。
なんでもいいから、カーペットが乾いたら、にしたのだ。
偶然にまかせよう。
そう思った。
本書は、1997年に集英社コバルト文庫から出版された『ちょー美女と野獣』の、著者本人による改訂版です。カクヨムにも同時連載しています。
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