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人語を喋る獣は、赤銅色の毛並みを持ち、四本足で歩く。
仔牛ほどの大きさだが、長い尻尾と、立った三角形の耳、白い牙と、榛色の目をしていた。
狼が近いだろう。脚は太く、身体にはひきしまった筋肉がついている。
長いひげがあり、黒い鼻がある。
毛並みは長く豊かだった。
犬の口では、人語を喋りにくそうで、不明瞭な短い単語でしか発語できなかった。
乱暴でも、野蛮でもなかった。
不思議なことに、絶望の森と言われる深い森の中には、快適な館があった。
ダイヤモンドが見たことのない形の館だった。どこか、別の、国の。
獣、ジオはそこに住んでいた。
館は、まるで高貴な人間が暮らすように設えられていた。
暖炉があり、井戸があり、竈もあり、箪笥には男性用の衣服もあった。
その全てが獣には不要なものだった。
庭から入る扉から獣は出入りして、その広間の絨毯で寝起きしていた。毛布や布団を別の部屋から引きずってきて、寝床を作っていた。
絨毯はどうしようもなく、土と水、泥と獣の毛や脂で汚れきっていた。
ダイヤモンドは、布団を日に干して、獣の側に寝ようとしたら、ジオはその日帰ってこなかった。
「……別のベッドで寝ますから……」
とダイヤモンドが、朝、戻ってきたジオに言うと、ジオは頷いた。
ダイヤモンドの食物は、ジオが森から獲ってきた。
木の実、芋、豆、鳥、魚、獣。
ダイヤモンドは最初は慣れない手つきで調理し、鳥獣は失敗しながら解体を学んだ。
火をつけるための鉄と石の箱は持ってきていた。
最初は枝を集めて火を焚いていたが、やがて、館にあった斧で、薪を割ることも覚えた。
食べ残しは、丁寧に土に埋めて鼠や虫の害を防いだ。
「どこで、覚えた」
「本で。どなたにも、私は口をきいていただけなかったもので」
ダイヤモンドは幸せそうに微笑んでジオに答えた。
「なぜ」
「美しすぎて気味が悪いと」
ダイヤモンドは金色の髪を、邪魔にならないように結い上げ、泥にも血にも汚れて、洗っても落ちなくなった服を着て、手の平にまめを作り、手指を水仕事や、生活に荒らして、いつでも幸福そうにしていた。
「いたい、か」
「痛いです。軟膏があるといいですのに。いい香りで、傷によく効くお薬が。髪や身体の石けんと同じ香りのがよいですわ。香りが違うと、混ざってしまって、嫌な気分になることがありますのよ。でも、ここにはありませんから、薬草を採りに行かないといけません。ふふ、ジオ様、お手伝い下さいませね」
「ひめ、は、たのし、そうだ」
「はい。ジオ様と一緒にいられますので」
「わたし、は、みにくい、けもの、だ」
「とんでもないことでございます。私にとっては、最高に美しいお姿です」
ダイヤモンドとジオは共に暮らし、日々が過ぎていった。
本書は、1997年に集英社コバルト文庫から出版された『ちょー美女と野獣』の、著者本人による改訂版です。カクヨムにも同時連載しています。
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