5 頼もしい同行者
ところがしばらく待っても、アラン王子の元にジオラルドが来ない。
「いくらなんでも遅すぎやしねぇか」
スマート・ゴルディオンが言って、グーナーが出した紅茶に、懐から出した酒の小瓶から、一滴蒸留酒を入れて飲んだ。
「そういえばそうだ。おかしいな。誰か、確認しに行ってくれ。何があったのかもしれない」
アラン王子はベッドに横たわって氷嚢を当てたまま指示を出した。
従者たちは素早く部屋を出た。
少ししてから戻ってきたがその顔には焦りがあった。
「アラン王子、ダイヤモンド姫がお部屋におられません」
アラン王子は氷嚢を額に当てたまま言った。
「見張りがいただろう。案内役も。報告は?」
「はい、トードリアの王子と、その即席の従者として牢にいた学者を牢からお連れ致しましたところ、なぜか、こちらに来る前に、ダイヤモンド姫のお部屋に寄ることになって、それから三人でこちらに向かっていたはずなのですが、なんだかんだと学者に言われて、いつのまにか城外へ見送ってしまったということです」
アラン王子は少し黙ってから、長く息を吐いた。
「スマート」
「あん?」
「お前、ほら、自称、なんだっけ」
「ああ、流浪の美貌の大賢者だけど」
スマートは言いながら、手の甲で長い鉄色の髪をかき上げてさらりと落とした。
その様子になんも言わずにアラン王子は言う。
「大賢者様に於いては今の話どう思う?」
「ああ! 違う違う、大賢者ッていうのはな、魔法使いに於いてェ」
長くなりそうな話を、軽く手を振ることでアラン王子は遮った。
「僕より長く生きてて市井も知ってるって意味での賢者だよ。今の話をどう思う?」
「その学者が詐欺師なんだろ?」
「詐欺師?」
「口先八丁で外に出しちまったんだろ? 俺がここに来ても思うが、この王宮の警備はまるでザルだぜ」
「なんだと?」
「いい、いい、気にすんな。案外あるんだ、ちゃんとしてそうなとこが全然ちゃんとしてねぇとか」
「あとで、警備体制の計画について相談させてくれ」
「俺はお前に仕えてるわけじゃねぇから、それは別料金な」
「今は便宜上父上に仕えてるんだから、融通をきかせろよ」
スマートは少し考える。
「ま、いいぜ。お前が面白いのには変わりがねぇしな」
ダイヤモンドとジオラルドも、自分たちに何が起きたか分からなかった。
牢から出されたジオラルドが、ダイヤモンドがいた部屋に連れてこられてた時には衛兵が二人いたはずだった。
だが、ダイヤモンドに、
「はじめまして、ライーと申します」
とひらひらと手を振ったうさん臭い笑顔の丸眼鏡の男が、こっそり二人に、
「何も考えなくていいから、右行って左行って真っ直ぐ歩いて。走らないで、普通にね。僕真っ直ぐ歩いてる途中で追いつくから」
と囁くので、二人はその通りにした。
歩きながら言葉を交わす。廊下には驚く程人がいなかったし、気配を感じてもその前に角を曲がった。
「ジオ、あの人なに」
「牢の中で知り合ったんだ。頭のいい人だよ」
「信用できるの?」
「わからないけど、そこは仕方がないかな」
「そっか。そうだね」
緊張を孕んだダイヤモンドの言葉に、ジオラルドは微笑む。
「大丈夫だよ。僕らはあの崖を越えてここにいるんだ。幸運を信じよう」
「そうだね。あんまり考えてもしかたないもんね」
右に行って左に曲がって真っ直ぐ。人のいない静かな、細い廊下だ。
後ろから足音などしなかったのに、突然近くから声をかけられた。
「ごめんごめんお待たせ」
ライーだった。
全く気配がしなかったと、ジオラルドはぞっとした。
ライーはすたすたと二人の前を歩く。
「じゃあ、ここからは、僕についてきてもらって大丈夫だから」
うさんくさいわ、とダイヤモンドは思ったが、気がついたら城を出て、賑やかな城下町の路地に出ていた。
わけがわからず呆然としていると、ライーが露天のテントに頭を突っ込んで何か交渉していた。
少ししてから粗末なマントを手にして戻り、一人に一枚渡す。
「その格好じゃ目立つからこれ被って。あと、ダイヤちゃんは顔の下にこれつけて」
と、粗い目の長い麻の布をダイヤモンドに渡した。
「ダイヤちゃん……?」
呼び方に驚くジオラルドに反して、ダイヤモンドは何も気にした様子はない。
せっせと身ごしらえをして、顔を隠し、ライーに訊いた。
「どお、これでいいかな」
「ウーン、もうちょっと、身体に布詰めたりしてバランス崩した方がいいな」
「オッケ、改善がんばる。指導して」
「まかせて」
「ダイヤちゃん……?」
ジオラルドはまだ飲み込めていないが、ライーとダイヤはどんどん話を進めてしまう。
「脱出させてくれてありがとう。追っ手がかかるかな」
「ま、そうだろうね」
「逃げ切れる? 私たちトードリアに行かなきゃならないんだよ」
「そうだってね。ジオさんから聞いてる」
「ダイヤちゃん……?」
ジオラルドはまだ飲み込めていない。
「どっちにせよ、今日の宿は決めてあるんだ。知り合いがやってるんだけど、ここから半日ぐらい歩くよ」
「日暮れまでに着ける?」
「君たちの頑張り次第」
「まかせて」
ダイヤは布の下で笑った。
「じゃあ行こう」
「はぁい。着いてきて」
ダイヤはまだボンヤリしているジオラルドの背中を軽く叩いて言った。
「ほら行くわよ」
ダイヤモンドの微笑みに、ジオラルドはただ頷き、二人はライーのあとを着いて歩きはじめた。




