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 兵士と共に牢番が牢に入ると、常とは雰囲気が違っていた。

 いつもであれば、不機嫌な沈黙が牢に充ちている。今は違う。

 秩序と活気のあるやりとりが行われ、熱を帯びた議論が展開されていた。

 牢の中は声がよく響く作りだったので、言葉も聞き取りやすかった。

 今は、老人のはっきりしない言葉を、同じ房の若者が代弁していた。

「それで、この人は孫の家に行くところだったんだって! だけど手形を無くしちゃって困ってて」

 真ん中に置かれた檻の中にいる、赤銅色の髪の若者がベッドに座って言う。椅子は据えられていなかった。

「それは困りましたね。国境ではどういう対応でした?」

「一応名前と住所を聞いて、そっちに問い合わせるって言われたんだけど、じいちゃん、食堂で飯食べたときに、うっかり金足りなかったんだって。それでここにいるって」

「問い合わせの返事には、少し時間がかかりそうですね。ご家族がお金を持ってきてくれたら、解放されるのかな」

「これはじいちゃんじゃなくて俺の感想だけど、どうかなぁ。金返したからって、ちょっと罰はくらうんじゃねぇかなあ。ラボトロームの法ってモンがあんだろ。ひどいもんじゃねぇといいんだけど」

 赤銅色の髪の若者、ジオラルドは穏やかに言う。

「この牢も、そんなにひどいほうではないのですよね?」

 周りの男たちが言う。

「そうだよ、もっとひどいとこいくらでもあるぞ」

「飯もうめぇしなあ」

「便所もちゃんとしてる」

「今立て込んでるだけで、人も出るやつはちゃんと出てくしな」

「寒くもねぇし暑くもねぇし」

 丸眼鏡の男、ライーが鉄格子を拳で軽く叩く。

「ハイハイ、発言はひとりずつね。今はリトン君とマズさんの時間だよ」

 男たちはしまったとか言いつつ、静まる。誰かが牢番と兵士を見つけて言う。

「あっお疲れ様でーす」

 周りの男たちもお疲れ様ですとか言った。

 牢番と兵士は面食らう。挨拶をされたことなどなかった。

「えっあっどうも……」

 と牢番がもやもやとそう言って、兵士に、威厳を持たんかと窘められる。

「なんだ、なにをしている?」

 兵士の問いにライーが言う。

「聞き取りですよ。真偽の程はともかく、出身と行き先、ここにいる経緯」

「ペンも紙もないのにか?」

 兵士が鼻で笑ったが、ライーは普通の調子で言った。

「僕全部覚えてますから」

「デタラメを言うな!」

 兵士が言い、男たちがざわざわと言う。 

「いやほんと、ライーさんすげぇんだよ」

「ほんとなんだぜ、全部覚えてるんだ」

 ライーが言う。

「学者ですから。学者ですから。ハハハ」

 他の男たちも言う。

「俺の知ってる学者そんなじゃなかったぞ」

「だよなあ。すげぇよなあ」

 ジオラルドが穏やかに、ゆっくりとした調子で言う。

「みんな、静かに」

 男たちが静まる。

 ジオラルドは牢番に言う。

「御用事はなんですか」

 滑らかな石の上を流れる清流の様な声音と、光る榛色の瞳に、牢番は息を呑んで、頬を赤くした。

 兵士が背筋を正して言う。

「ジオラルド殿下におかれましては、アラン王子殿下がお呼びでございます」

「アラン王子殿下」

 ジオラルドの声が、ぴり、と緊張を孕んだ。

「お目にかかれるのは嬉しいが、この身なりでは御前に出るのは少々はばかられる。服と靴をお借りしたいのだが、よろしいだろうか」

「はい、ご用意致します」

「足の怪我を、どなたか手当てして下さいましたね。感謝を伝えて下さい」

「はい、伝えます」

 牢番は進み出てジオラルドの檻に近づく。兵士たちも、はっとしてそのあとを追った。

 ジオラルドは包帯を巻いた足に、ベッドの下に用意されていた、簡素で、柔らかい布靴を履いてベッドから立ち上がる。

 牢番は鍵を開けて、檻の扉を開く。

 ジオラルドは堂々と檻から出た。

「ところで、従者として、ライーさんを伴いたいのですが、かまいませんね」

 突然言われて、牢番も兵士もうろたえたが、ジオラルドは構わず続けた。

「ラボトロームでは、王子は従者を伴わずに部屋を出るものなのですか?」

 そういうものなのかと気圧されて、慌てて牢番と兵士は、ライーを外に出した。

 牢の男たちは、じゃあねー、とか行ってらっしゃい、と言いながら手を振った。

 ライーとジオラルドも手を振って牢を出た。

 


 

本書は、1997年に集英社コバルト文庫から出版された『ちょー美女と野獣』の、著者本人による改訂版です。カクヨムにも同時連載しています。


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