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11週目.居酒屋定番セット

俺は先週コータからの要望をきっちりこなすために、昨日のうちに仕事は片づけておいた。

朝からスーパーに行って材料を買い込み、取り寄せた商品とお酒を受取り、調理もすべて終わらせた。

「コータ、かかってこい!お前の無茶ブリをこなしてやるからな」


俺はここ数か月で1番頑張ったかもしれない。

スーパーでは枝豆に野菜を買い、枝豆とサラダは完成。

家にある卵を使い、だし巻き卵を大量に作る。

取り寄せでは焼き鳥と宇都宮餃子を購入し、わざわざ買った焼き器を使い細かく分けて焼き鳥を150本近く焼き、餃子は200個焼いた。

他に取り寄せたのは、漬物にたこわさにキムチ。それも皿に盛り付けた。

米も念のため大量に炊いた。

ユイのためにシュークリームも買っておいた。

酒は新潟の地酒を一升瓶で5種といろんな種類のクラフトビールを50本ほど用意した。


テーブルに乗り切らないから転送できるが不安だが、いつでも来いコータ。


▽ ▽ ▽


夕方にはすべての用意が終わっていたが、時間はもう21時を回っていた。


「おい。俺の気合いを返せ」

俺は気合を入れ過ぎたのか、待っているだけで疲れて切っていた。


トゥントゥルルン♪トゥントゥルルン♪


タブレットが鳴った。

「やっと来た!」

俺は緑の受話器マークを押してビデオ通話にした。


ディスプレイに映っていたのはコータだった。

「ごめん、待たせたか?」

「だいぶ待ったぞ。朝からいつ来てもいいようにいろいろ準備していたんだからな」

「悪い悪い」

「大量に用意したけど、転送していいのか?」

「おう、頼む!」


俺はテーブルとテーブル周りにある料理を見た。

「転送!」


テーブルの上のものと周りのものが光ってなくなった。

カウントダウンが始まった。

俺はその様子を見て安心した。


「全部送ったぞ」

「おーこれはやばいな!酒も多いし。さすがユーサク」

「シュークリームはユイのだからな」

「わかった!」


俺はディスプレイを見ていると、いつものテントじゃないことに気付いた。

「あれ?なんかいつもと違うところ居る?」

「あー今日はラドニークと冒険者パーティ2組と合同で遠征してるんだ」

「ラドニークって貴族だっけ?」

「そうそう」

「何で遠征を?」

「ラドニークが納めてる領地のいたるところで人攫いが起きてるみたいで、だから遠征で盗賊討伐」

「は?ラドニークって領主なのか?」

「らしい。何とか領の領主」

「お前さ、不敬罪とかで捕まるなよ」

「大丈夫だよ。ラドニークいい奴だし、俺達よりちょっと歳上ぐらいだし」

「歳は関係ねーから」

「みんなに料理を運ばないといけないから、ちょっと行くぞ?」

「は?コータ、来週の金曜日、何食べたい?」

「うーん。あとで答えるから寝るなよ」

「は?」


ディスプレイは真っ暗になった。


「なんだあいつは、テレビ電話が2回出来るようになったのか?」

とりあえず俺はコータを信じて起きておくことにした。


▽ ▽ ▽


タッタラー♪ダン!ダン!タッタラ―♪ダン!ダン!


タブレットから謎の音が流れ始めた。

それを聞いた俺は夢の世界から帰ってきた。

「危ない寝てた!てかなんだこの音」


俺は急いでタブレットを見ると、新しいアプリが入ってるみたいだ。

「ゲーム?なにゲームのアプリ?」

俺はゲームのアプリをタップすると、ダサいフォントで[シューティング]と書いてあった。

「なんだ?ガラケーのゲームのオープニングみたいだな」

[シューティング]をタップすると、カメラ画面に切り替わった。

カメラ画面には[使用する武器をスキャンしてください]と書いてあった。

「どういうこと?」

俺はとりあえずキッチンから包丁を持ってきて、カメラで写した。

[そちらは使用できません]

包丁はだめだったようだ。俺はそのあといろんな武器になりそうなものを試したが全部だめだった。


「えーもうないよ武器なんか。あれ?そういえばシューティングって書いてあったっけ?」

俺は部屋を見渡して、銃のようなものを探したがさすがにあるわけない。

検索してみようと思いパソコンに向かうと、前の仕事で使っていた超兵器戦隊アームズの資料が目に入った。

試しに資料に描いてあった、銃をカメラで写してみた。

[こちらで登録いたしました。10秒後プレイ画面に移行します。プレイ時間は1時間。それでは良いバトルを]とディスプレイに表示された。

カウントが進んで0になると、スマホのバトロワゲームのような画面に切り替わった。


「は?」

ディスプレイには半透明な操作ボタンがあり、映っている景色の中にコータが居た。

「おーい、コータ。聞こえるか?」

「聞こえるよ!うまくいったみたい!」

「うまくいったみたいじゃなくて、どういうことか説明してくれよ」

「なんか新しいアプリで、ユーサクが銃を操ってこっちの世界で戦ったりできるらしい」

「え?まじ?」

俺はディスプレイをいじってみると、俺の操作した通りに視界が動いて行った。

銃弾のマークは攻撃っぽいので触らなかった。


「それでなんで呼んだんだよ」

「一応ユーサクにも見てもらおうと思ってね」

「何を?」

「それは見てからのお楽しみだ」

コータはそういうと銃を掴んで移動したようだ。

操作できないし視界がグワングワンしてるからたぶんそうだろう。


▽ ▽ ▽


コータは銃を飲み会をしている場所に持って行ったようだ。

まだ視界がグワングワンしてるから、予想でしかないが。

「ユーサク。面白いもの見せてやるから、静かにしておいて。さすがにお前の存在を他の奴らに知られたくない」

「わ、わかった」

俺はコータの指示通り、黙ることにした。

銃はコータに運ばれてるため、操作をする必要もなかった。


「おー!コータ。どこに行ってたんだ?まだまだ飲むよな?」

「おい、呑み過ぎんなよラドニーク。部下の奴らを困らせるなよ」

「わかっておるわ!」

コータが付いた席は、領主のラドニークがいるテーブルのようだった。


「ラドニーク、飯はうまいか?」

「うまいぞ。特にこの餃子は格別だ。この前作り方を聞いてから、家で何回か挑戦してるがなかなかうまくいかん」

「お前が作ってんの?」

「悪いか?」

「いや、お前のそういうところ、嫌いじゃない」

「生意気な自称勇者だな」

「まだ俺が勇者って信じてないのかよ」

「コータがいい奴で強い奴とは認めているが、勇者は特別な称号だ。そう簡単になれるもんじゃない」

「はあ、そうかよ」

「まあこの料理と酒を用意できるスキルと遠征メンバーの士気をあげようと食事会を開く考えを持っているのは、ある意味勇者ぐらいの価値があるがな。がはははは」

「違うぞ」

「ん?」

「この食事会を開くように俺に提案してきたのはヤリネだぞ」

俺は二人の話を聞いていたが、いろいろ混乱した。

この食事会を考えたのがヤリネ?

先週料理を要望された時点でそんな話があったとは思えない。

俺はそのまま会話に聞き耳を立てた。


「ヤリネというのは奴隷商で働かされてた?」

「そうそう」

「ほう。なかなかいい考え方を持っているな。今回の遠征にもついて来ているようだしな」

「まあ戦闘は全くできないから、率先して雑務やらをやってるけどな」

ラドニークは他の冒険者パーティと話しているヤリネに目を向けた。

「他の冒険者とも仲良くやっているようだな」

「雑務をやっていると、いろんな人と関わるんだろ」

「なるほどな。今はお前のパーティと行動していたよな」

「そうそう。あいつは元奴隷だし、自分のスキルで奴隷を増やしたことに責任感じているからな。やれることを出来るだけやりたいみたいだ」

「お前が珍しく頼みごとがあると言って連れてきた犯罪奴隷や元奴隷達もヤリネ絡みか」

「まあそうだな」

先週ヤリネが言っていたコータに頼るっていうのは、ラドニークも関係していたのか。

元奴隷のアフターケアや犯罪奴隷の対処は領主に頼むのが一番良さそうだもんな。


ラドニークはビールを1口飲んだ。

「うまい!コータはこれからもこの領で活動するのか?」

「うーん。わかんないな。でも今後どうするかは、今日いろいろ決まると思うぞ」

「今日?」

ラドニークはコータの発言を理解していないようだ。

「うん、今日。てか今」

「ん?どういうことだ?」

「面白い事考えたから、ラドニークに援助してもらいたい」

「それを断れば、違う領に行くかもしれないと?」

「うーん。まあそうなるか。でも脅しでもなんでもないぞ。呑めない話ならちゃんと断ってくれ」

「まてまて、良くわからんぞ?断ってもいいが、断ったらこの領から出る?脅しじゃないか。それにコータの援助なら、無理難題じゃない限りは呑むぞ」

「あーまあそれはありがたいんだけど、俺への援助じゃないんだよね」

「は?」

ラドニークはキョトンとしている。

「とりあえず話だけ聞いてくれ、駄目ならちゃんと断ってくれよ。ヤリネ!ちょっと来い!」

「はい!!」

ヤリネが走ってやってきた。

「ヤリネ、準備は出来てるか?」

「はい」

「ラドニーク。今からヤリネが面白い提案をする。詰めが甘かったり面白みに欠ける様なら、しっかり断ってくれ」

「何が何だかわからないが、話だけは聞こう」

ヤリネはラドニークの正面に座った。


「ラドニーク様。今回私が話させていただく内容は、私の将来の事でございます」

「ほう」

「私が始める予定の奴隷商の様々な支援をしていただき、領主公認の奴隷商にしていただけないでしょうか」

「なるほど。ヤリネ、お前が奴隷商を始めると?」

「はい」

ラドニークは厳しい表情になった。

「様々な支援とは金銭面は当然の事、他にも求めるものがあるみたいだな」

「その通りです。私は元奴隷ですので、当然金銭面をご支援していただきたく思っております。ですが、ラドニーク様に一番支援いただきたいのはお金ではなく人脈でございます。」

「人脈?」

「はい。私はコータさんと旅をして様々な奴隷に出会いました。私みたいに奴隷から解放されたいと思っている者、奴隷をやめてしまうと生活が出来なくなってしまう者、奴隷から解放されたいが仕事をする能力がない者、自分の罪を反省しないといけない者」

ヤリネはラドニーク相手に物怖じせずに話し続けた。

「私はそんな奴隷達を幸せにできるような奴隷商を作りたいと考えております」

「奴隷達が幸せに?」

「はい。奴隷をやめてしまうと生活が出来なくなってしまう者には礼儀作法などの指導を行い、良い主人のところに行けるように教育をし、解放されても能力がなくて働けない者には、様々な仕事場に格安で派遣をすることで手に職をつけれるような環境を作ろうと思っております」

「なるほど。そのための人脈か」

「はい」

「まあ少しは面白そうな話だな。だが私に利益がないと思うのだが?」

「利益はございます。まずは奴隷の中でも娼婦や男娼になりたい者や身体を売ることでしか働くことができない者がおります。その者達を管理して花街を作ります」

「そこに何の利益があるのだ?」

「花街を作ることで、そういう目的で攫われる人を領内で減少させることが出来ると思います」

「ほう」

ラドニークは顎に触れながら話を聞いていた。

「そして手に職を付けたい奴隷達をいろんなところに派遣することで、領内の様々な生産が活発になります。手に職がついて、奴隷解放を求めたとしてもこの領で仕事を始めれば領の利益につながると思います」

「なるほどな、案は面白い」

「すぐに利益が出る話ではないですが、将来的にこの領の発展につながると思います」

「だがひとつ問題があるぞ」

「問題ですか?」

「私はヤリネを信用していない」

ラドニークは厳しい言葉を浴びせた。


「はい。わかっております。ですので私のエクストラスキルをお見せしようと思います」

「エクストラスキル?奴隷契約が結べるスキルをか?」

「いえ、少し違います」

ヤリネは枝を5本取り出した。

「ラドニーク様、1度私と簡単な勝負をしていただけないですか?スキルをお見せするうえで必要なことなのです」

「いいぞ」

「私が持っている5本の枝の内、1本をお選びください。先に先端が赤く染まっている枝を取ったものが勝利です」

「簡単な勝負だな」

「はい。ではラドニーク様、1本お取りください」

「良いのか先で」

「はい」

ラドニークが枝を1本取った。

その枝の先端は赤く染まっていた。


「お?私の勝ちってことか?」

「はい。私が負けました」

ヤリネがそういうと、ヤリネの身体が一瞬光った。


「何が起きた?」

「私のスキルは、相手に強制的に誓約を結ばせることができるのです。そしてこのスキルが使える条件は誓約を結ばせたい相手と勝負し、負けたという事実を与えることです」

ヤリネは持ってた残り4本の枝をテーブルに置いた。

その4本すべての先端が赤く染まっていた。

「は?どういうことだ?」

「私のスキルは勝負に負けてしまうと、相手に結ばせようとした誓約が自分に返ってくるのです。5本の枝から先に先端が赤く染まった枝を取った方が勝ちですので、事実上私の負けになりました」

「ということは、私に結ばせようとした誓約がお前に返って来たのか?」

「はい。私がラドニーク様に誓約させようとした内容は、『死ぬまで、誓約相手を裏切るような行為をしない』です。いかがですか?これで私を信用していただくことはできますか?」

「お前…」

「ちなみにですが、裏切ろうとするとこうなります」

ヤリネはラドニークにテーブルの上に合った皿を投げつけようとした。

「ぐっ!」

ヤリネは悲鳴を上げて膝から崩れ落ちた。

「い、いかがですか、ラドニーク様」


それを見たラドニークは怒鳴った。

「おい!コータ!お前がこんなことをやらせたのか?」

「うーん。花街の計画とか、どういうことをした方がいいかとかの案は出した。だけどここまでしたのはヤリネの意思だ。本気だし、自分の夢をかなえるためにはラドニークを利用するのが1番って判断したからやったんだよ」

「だとしてもだ!俺が悪徳領主だったらどうするんだ?」

「悪徳なのか?違うだろ?俺もヤリネもお前を認めてるから提案したんだ」

「はい。私の夢のためにラドニーク様の力を貸してください」

ヤリネは深く頭を下げた。


ラドニークは黙った。

食事会場はラドニークが怒鳴ったことで静まり返っていた。

「わかった。ヤリネ、明日からうちに来い!」

「はい!ありがとうございます」

ヤリネは頭を下げた。


「じゃあ話もまとまったし、食事を再開しようか!」

コータがそういうとみんながまた騒ぎ始めた。


▽ ▽ ▽


食事会場から少し離れたところに俺(銃)とコータは移動していた。

「どうだった?面白かったろ?」

コータがニヤニヤしながら話しかけてくる。

「面白いって言うか、ヤリネには頑張ってほしいと思ったよ。でも本当にあのラドニークってやつは大丈夫なのか?」

「心配するな。多分あいつはいい人間だし、もしヤリネにひどいことをするようなら俺が1発殴ってやるよ」

「やめてほしい気持ちと殴ってほしい気持ちが半々だわ」


コータと話しているとユイがやってきた。

「コータ、ユーサクの声がする」

「これがユーサクだぞ」

コータは銃をユイに見せる。

「あっ!レッドホーミングが持ってるやつだ!」

そういえば、ユイにあげたレッドホーミングの人形が持ってる銃と同じ物だった。


「今これを動かしてるのが、ユーサクなんだぞ」

「そうなの?ユーサクなの?」

「そうだよ。ちゃんとユイの姿も見えるし声も聞こえるよ」

「今度からユーサクもこれで一緒に戦ってくれるぞ」

「え?」

コータの発言に俺は驚いた。

「うれしい!ユーサクと旅できるの?」

「いや、金曜日の1時間だけなんだけどね」

「そうなんだ…」

ユイは少し落ち込んでいた。


「コータ。やばい!そろそろ1時間経つ」

「まじか、この銃の性能とか見たかったんだけどな」

「2人共、来週の金曜日、何食べたい?」

俺がそう聞くと、画面が切り替わった。

[ゲームが終了しました。キル数0]と表示された。


「なんだよ、次回は俺任せかよ。今日はさすがに疲れたぞ」

俺はコータとユイと一緒に戦えるかもしれないのが少しうれしかった。




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