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ドラゴンは幸せが分からない  作者: ほのぼのる500
旅立ちと家出獣人
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「よしっ。この魔道具はバズが好きにしていい」

「えっ?」

 獣人が持っていた魔道具だけど、まぁバズが嬉しそうだからいいか。

「実際に魔道具を分解した事は?」

「えっと、ないです。分解する知識はあると自信ありげに言いましたが、本で知った知識だけです」

「それなら、これを使って実際に分解したらいい」

「えっ?」

「実際に分解をしてみたら、勉強だけではわからなかった事も学べるだろう。バズにとって、凄くいい経験になると思うぞ」

「いいんですか? プロに任せれば、この魔道具が何をする物かわかるのに。この魔道具の役目がわかれば、敵の動きもわかるんでしょう?」

「いいの、いいの。そんなのは、あいつ等を締め上げればわかる事だから。だから、これはバズの知識を深めるために使ってくれ」

「ありがとうございます」

 嬉しそうに笑うバズの頭を少し乱暴に撫でるガルガ。そんな二人を見ていると、頬がぴくぴくする。

「んっ?」

 その不思議な感覚は、特に嫌な感じはしない。それどころか、気分が良い。

「魔道具はバズに任せて、こいつ等をどうやって運ぶかが問題だな」

「運ぶ? どこに?」

 ガルガが我を見て笑う。

「アグーの下に、こいつ等を連れて行かないと駄目だろう?」

 あれ? ガルガの今の言葉に、起きている獣人が反応した? あと、眠っているはずの獣人二人も。

 ガルガも気付いたのか、反応した獣人に近づく。そして、拳で殴った。

「ぐえっ」

「うっ」

「ひっ」

 熊の獣人が、恐ろし気にガルガを見る。

「何を怖がっているんだ? お前たちはもっと酷い事をしてきたんだろう?」

 首を横に振る熊獣人。ガルガは少し不思議そうな表情をすると、熊獣人に近づく。

「お前はこいつ等の中でどういう役割だったんだ?」

「俺は荷物を運ぶ役目だ」

「それだけか?」

 頷く熊獣人。

「何をどこに運んだ?」

 ガルガの言葉に、さっと青くなる熊獣人。それを見て、ニヤッとガルガが笑う。

「全て吐け。とっとと吐け」

 首を横に何度も振る熊獣人。

「ん~? 吐かせるためには、どうすればいいかな?」

 ガルガがバズを見る。

「腕でも引き千切るか?」

「ひぃ……」

 我の言葉に悲鳴をあげる熊獣人。まだ何もしていないのに。

 あれ? ガルガが呆れた様子で我を見ている?

「なんだ?」

「最初は『折る』からだろう」

 折る?

「そういうものか?」

 頷くガルガに、バズは苦笑する。熊獣人は、我々から距離を取ろうともがいている。

「だが我は力加減が苦手だからな。折るつもりが、吹っ飛ぶかもしれない」

「「あぁ」」

「やめ、やめてくれ。話す! 全て話す!」

 ガルガとバズが納得した様子を見せると、熊獣人が叫ぶ。

「全て話すのか?」

 ガルガが聞くと、何度も頷く熊獣人。

「良かったです。さすがに目の前で腕が吹っ飛ぶのはちょっとあれなので」

「残念だ」

 バズと我の言葉を聞きガルガが笑う。

「名前は?」

「クルビズ。熊獣人と犬獣人のハーフだ」

「「ハーフ?」」

 ガルガとバズが首を傾げる。

「どうしたんだ?」

 ハーフの何が気になるんだ?

 熊獣人クルビズが目を大きくし、我を見る。

 あれ? ガルガたちの態度が正しいのか? だが、ハーフなだけだろう?

「獣人は同じ種でパートナーを組む事が当然なんだ」

「なぜ? 違う種とパートナーを組んだらなにか問題が起こるのか?」

 そんな事は聞いた事がない。それに当然とは? ガルガの説明ではよくわからない。だいたいハーフなど、探せば何人でも見つかるはずだ。特にこの森では。

「問題はないが、種によって習慣が違うだろう? だからだと思う」

「習慣? そんなのは、生き方や過ごした場所で変わるものだろう? 人間だって住む場所で習慣が違うのだから」

「まぁ、そうなんだが」

「あの、種としてのプライドだと思います。自分の一族に、異なる種の血が混ざるのを嫌うのだと思います」

 種のプライド?

「くだらないな」

「「「……」」」

 我の言葉に、無言になる三人。

「そうですか?」

「あぁ」

「ドラゴンはどうなんだ?」

 ドラゴン?

 ガルガを見ると、興味深げに我を見ている。

「どうかな?」

 我が覚えているドラゴンは……。

「種の違いを気にした者はいなかったような気がするな」

「ルクスさんは、種の違いが気になりませんか?」

 我か?

「好きになった者がいないからなんとも言えないが、種は気にしないと思うな。そんな些細な事を気にするのは面倒だ」

「些細な事? ドラゴンから見ればそうなのか」

 ガルガが不思議そうに我を見る。クルビズは、泣きそうな表情で顔を伏せた。

「どうした?」

「両親は愛し合っていたんです。でも種が異なったから、居場所を失ってしまって。俺も皆から……。だから」

 チラッと倒れている獣人たちを見る。

「利用されているとわかっていたけど、彼らの傍は息が出来た」

「そうだったのか」

 ガルガがクルビズの肩を叩く。

「出会う相手が悪かったな。とっとと森に来たら居場所はあったのに」

 我の言葉に、ガルガもバズもクルビズも驚いた表情をする。

「なぜだ?」

「アグーにはドラゴンの血が混ざっている。かなり薄まってはいるが、かつてこの世界にいたドラゴンの子孫だ。つまり混ざっていると言えるんだろう?」

「彼にドラゴンの血?」

「あぁ、それにリーガスは訳ありの獣人を良く集めていた。ハーフにクオーター、どの種が不明の子供たちなんかをな。アグーの傍には、種の混ざった者が多くいたぞ。気付かなかったか?」

 ガルガを見ると驚いていた。

 気付いていなかったのか。

「犬耳に首には鱗とか、羽と尻尾がある子供とか」

 我の言葉に首を傾げ考え込むガルガ。

「駄目だ。あの時はルクスの対応で精いっぱいだったからな」

 我の?

「ガルガに何かした覚えはないが」

「いや。存在自体が、俺の常識を覆していたから」

 ガルガの言葉に、バズとクルビズが頷く。クルビズは、少し落ち着いたようだ。泣き顔だが、少しだけ安堵した表情になっている。

「話が逸れたな。クルビズ。何をどこに運んだのか、教えてくれるか?」

「はい。森にそんな方たちがいる事を知りませんでした。彼らの居場所を奪いたくないです。だから、知っている事は全て話します」

 クルビズの言葉に、バズが嬉しそうに笑う。ガルガも小さく笑うと頷いた。

「洞窟に、彼らの仲間が持って来た魔道具を置いています」

「洞窟はどの辺りですか?」

 バズの質問に、洞窟とは反対側を指す。

「ここからすぐ近くの洞窟です。そこに仲間が持って来た荷物の半分があります。残りの半分は、別の場所です。俺は別の場所については知りません。俺のような訳ありが、荷物を持って行きました」

 クルビズが指した方を見る。洞窟という事は、岩場か崖があるはずだな。

 あぁ、見つけた。ここからだと歩いて三分ぐらいか?

「見張りがいるな」

 クルビズが我の言葉に目を見開く。

「はい。見張り役は三人いて、順番に洞窟を見張っていま――」

「この裏切り者が!」

 クルビズの言葉を遮った獣人に視線を向ける。ガルガに倒されたのに、威勢がいいな。まぁ、紐で縛られているので地面に転がっているが。

「くそっ。この紐を外せ!」

 いや、無理だろう。

「うるさい」

 ガルガが獣人の背を足で踏む。

「くそっ。やっぱりお前なんて使うんじゃなかった。ハーフなど生きる――」

 獣人がさっと顔を右に避ける。そのすぐ傍の我の足が通る。

「があぁあ」

「えっ?」

 叫んでいた獣人の隣にいた獣人の頭が吹っ飛ぶ。

 やはり加減は難しい。だが、いろいろと知っていそうな獣人に当たらなくて良かった。他の者が死んだとしても問題ないだろう。

 仲間の血で染まった獣人が、首から上が亡くなった死体を見て顔を青くする。

「ルクス」

 ガルガを見るとバズの目を手で隠していた。

「ガルガさん、大丈夫です」

「でも血が苦手だと言っていただろう? 慣れたとは言っていたが、気分は悪いだろう」

 そうだ。バズは慣れたと言っていたが、血が苦手だった。

 首から血が溢れている死体を見る。

「失敗したな」

 バズには悪い事をしてしまった。

「今は、何も感じません」

 ガルガの手を目の上から移動させ笑うバズ。

「感じない?」

 バズの言葉にガルガが不審そうな表情をする。

「はい。怪我をして慣れたと言いましたが、実は父に、戦場に連れて行かれた事があるんです。その時から、何も感じなくなって。だから慣れたんだと思います」

 血が苦手な子供を戦場に? 我でもそれがおかしいと思うのだが、バズの父親は狂っているのか?

「それは慣れたというより……いや、そうか。まぁでも、気持ちのいい光景ではないからな」

「悪いバズ」

「大丈夫です、本当に。でも腕ではなく首が飛びましたね。あれ? 彼には凄く怖かったみたいですね」

 ぶるぶる震えている獣人に視線を向けるバズ。ガルガも獣人の状態に気付いたのか、少し困った表情をした。

「そういえば、静かになったな。たったあれだけの事で」

 我を見て溜め息を吐くガルガ。彼からしたら「あれだけの事」ではないんだろうな。

 でも苛立ったんだ。仕方ないだろう?

 ただ原因の獣人は生かしておいた方がいいとわかったから、隣でニヤ付いていた獣人にしたんだ。我にしては、考えた方だと思うんだけどな。

「ルクス? どうして自慢げなんだ?」

 ありえないという表情をするガルガ。

「うるさい原因を仕留めたかったが、必要そうだから別の者で我慢したんだ。凄いだろ?」

「「……」」

 どうしてまた二人とも黙るんだ? それに、こんな感じの空気が少しずつ増えていないか?

「はぁ、まぁいい。おい。森に何を持ち込んだ?」

 ガルガの質問にさっと顔を反らす獣人。そんな獣人の前に、我はゆっくりと近づく。

「待て。この森には、凄い力が眠っているんだ。それを手にすれば、この世界を手に出来ると言われている。欲しくないか? 欲しいだろう? そのためには、この森を守っている獣人が邪魔なんだ。だから、そいつらを殺そうとしているだけなんだ。こっち側に付けば、この世界で何もかも手にする事が出来るぞ。俺が、ガード侯爵にお前たちを紹介する、その力をあの人のために使えば、俺よりもっといい地位を用意してくれるかもしれない。どうだ? 地位も金も手に入れられるチャンスだ」

「いらないな」

「僕もいらないです」

「欲しくなれば、我は自分でやる」

「えっ?」

 あまりにきっぱりと断られた事が理解出来ないのか、ポカンとした表情をする獣人。クルビズは我を見て、なぜか納得した様子で頷いた。

「なぜだ? この世界――」

「だからいらないって」

 呆れた様子で話すガルガ。獣人がバズに視線を向けるが、彼も肩を竦めるだけだった。

 呆然とする獣人。

「何を、森に持ち込んだ?」

 ガルガが獣人に近づき聞く。そっと視線をガルガに向けた獣人は、気持ちの悪い笑みを見せた。

「俺たちだけじゃない。この森を手に入れたいのは、俺たちだけじゃ。多くの者がこの森を手に入れようとしている。いずれ森を守る獣人たちだけでは手に負えないぞ。いいのか?」

「あぁそれは、大丈夫だ。今森に住んでいる裏切り者たちを処理すれば、あとは我が張った結界が弾く」

「ははっ。どうしてこの森に、それほど肩入れをする? ドラゴンが見たいからか? そんな、いるかいないかもわからない存在のために? 馬鹿げていると思わないか?」

 獣人が陰鬱(いんうつ)な表情で呟く。我らが、獣人の言葉に乗って来ない事を理解したようだ。

「僕たちは、ドラゴンを実際に目にしています。だから、馬鹿げているとは思いません」

「はっ? ドラゴン?」

「はい、そうです。ドラゴンが実際に目の前にいますので」

 バズの視線が我に向く。その視線の先を見た獣人は笑う。

「あはは、彼女のどこがドラゴンなんだ? 騙されているようだな」

「いや、ルクスはドラゴンだ。そこで白目をむいて倒れている者も、本当の姿を見たのでそうなった」

 ガルガが我を見るので「仕方ないと」溜め息を吐く。簡単に姿は戻るが、何度もやるとなると面倒くさい。


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