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大陸英雄戦記  作者: 悪一
砂漠の嵐
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ティベリウス

 10月5日。


「……あれが、件のティベリウス・アナトリコンですか」

「そうだ」


 増援を得て、なし崩しに終了した戦いの後、降伏したキリス兵士の尋問をしている最中に、俺らが求めていたその人物を見つけた。


 単眼鏡でその人物、ティベリウスを見ると確かに王侯貴族のような風格は漂っている。

 マテウス少将とどちらがイケメンかと問われると、ティベリウスの方に分がある。中身が。


 俺は今、マテウス少将と共にあって戦場清掃と補給の最中。


「求めていた人物が、こうも簡単に見つかるとは思いませんでしたよ」

「私は、君のようなガキが彼を求めていたとは知らなかったよ。あれか、君は男にも興味あるのか?」

「まさか」


 俺はホモではない。断じてホモではない。大事な事だから何度でも言おうじゃないか。

 それはさておき、俺らが求めていた「キリス中央政府に反感を持ちそれなりに権威のある人間」の発見は僥倖である。


「彼や、彼らの部下はなんて言ってるんです?」

「ティベリウスの部下とやらはキリス中央軍を離脱した、と言っているよ」

「それはまぁ、なんというか……」


 無謀だなぁ。たった1万強の軍隊でキリス本国に立ち向かおうとは。

 ……まぁ、終戦の為の踏み台にはしやすいけど。


「彼らはどうやら、叡智宮ハギア・ソフィアから間接的な死刑宣告を受けていたようだ。だから身分に相応しくもなく最前線に飛ばされた。面倒な人間や部隊も合流させ、一網打尽を企てたようだ」

「けど、ティベリウスの采配でそれが叶わず、さらには叛乱されてしまったと?」

「そういうことだ」


 なるほど。どうやら叡智宮の連中はアホらしい。

 無理に殺そうとせず、郊外か離島に軟禁すればいいものを。


「ところでクソガキ」

「クソガキ言わないでください、変態閣下」

「君こそ変態と言うのはやめてくれたまえ。……彼ら、どうするつもりなのだ?」

「そうですね。グライコス地方に親オストマルク帝国政権を樹立させて独立させますよ」


 名付けてグライコス王国。

 目指すはオストマルクの傀儡国家、緩衝国家の完成である。


 グライコス地方に住んでいる民族は、グライコス人100%。そしてオストマルク本国にグライコス人はほとんどいない。いても集計誤差の程度だ。

 多民族国家オストマルクに、さらに民族を足してしまうと政治的な混乱を招くだけ。特に、特権階級に居座るリヴォニア人が叛乱を抑えることができなくなる。


 なら、いっそのこと独立させてしまえというわけだ。

 邪魔な居候より、友好的な隣人。


 名目上の国家元首をオストマルク帝国皇帝にしてもいい。その場合はグライコス大公国とかだろうか。


「だが現状、それは彼ら次第だ」

「え? なんでです?」


 ティベリウスを主君として仰ぎキリス第二帝国から離反した叛乱者たちが、グライコス地方独立を賭けて第二帝国と戦う。いいシナリオじゃないか。本人たちにとっても、俺らにとっても。


「そうだな。まず第一に、ティベリウス自身が『自分は離反していない』と言っているのだ。まぁこれは部下たちを思っての事だろうと推測できる。問題第二は『生きて屈辱を晒すなら、名誉の死を』などと言う人間が彼の部下に多くいると言うことだ」


 その筆頭が、エル・テルメという老人なのだそう。

 なんというか軍人という型に悪い意味ではまりすぎているような。


「そこら辺はうまく説得してください、閣下」

「……お前に言われるのは癪だ」



 数日後、帝国軍別働部隊によってサロニカが陥落したとの報が部隊にもたらされた。

 これでグライコス地方南部、中部は抑えた。ハルマンリを守護していたティベリウス軍がいない東部戦域は随分と戦線が前進したようで、国境のハドリアノポリスまで押し返すことに成功している。


「報告によれば、サロニカ失陥を機に東部戦域でも士気の衰えが顕著らしい」

「となれば、残すところはグライコス地方の独立ですか」


 ティベリウス・アナトリコンは、悩んでいるらしい。

 自分が拒否すれば部下は死を選ぶ。でも自分が王となって、敵国だったオストマルクに従属することはそれはそれで嫌だ、ということだ。


 将としては優秀らしいティベリウスだが、もしかして感情に流されて政治的決断を誤る人なのではないだろうか。だから政争に負けた?


「ということなら話は簡単ですね、少佐」


 と、フィーネさん。

 情報担当官らしい悪い顔をしているのは気のせいか。


「何言っているんですか少佐。ユゼフ少佐の方がいつも悪い顔をしていますよ?」

「えっ、そんなに?」

「はい」


 嘘だ。もしかしたらフィーネさんの悪い冗談――、


「確かにユゼフには負けるわね」

「サラまでそれを言うのか……」


 正直者のサラにそれを言われてしまうと、なんか凹む。

 もう少しポーカーフェイスの勉強をした方がいいかしら。


「……はぁ」


 そしてなぜか少し離れたところで、俺たちの会話を聞いていたらしいゼーマン曹長が溜め息を吐いていた。


「どうしたんですか、ゼーマンさん」

「いえ、マテウス閣下に聞いた方がはやいかと……」


 えっ、何があった。

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