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大陸英雄戦記  作者: 悪一
砂漠の嵐
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漁色家

 マテウス准将が死者の国から蘇ってしまったのは、サラとフィーネさんが執務室を出てから5分経った後だった。


「わ、私は何を……。そうだ、女神はどこに!?」


 起き上がって早々そんなことを言うのだから、たぶんこの人はあの世に行っても天国にいる天使やら女神やらを口説くのだろうな。


「最初からそのような者はいませんでしたよ、准将閣下」

「……貴様は誰だ」


 気絶する前に会った男の情報は都合よく消えるらしい。


「…………お初にお目にかかります閣下。シレジア王国から派遣されました、軍事顧問のユゼフ・ワレサ少佐と申します。以後よろしくお願いします」

「……そうか。で、赤い髪の女神はどこにいる?」


 俺の自己紹介を丸っきり無視してサラの話題に戻る准将。ある意味一貫しているが本題に入れないのでどうにもできない。

 いや、気絶する前は会話も成立していなかったから、これは喜ばしい事なのかもしれない。女性がいると前後不覚に陥って口説き始めるから、男1人で会うとそれなりに会話できる人物という可能性もある。


 ていうかそうでなきゃ軍隊に入れない。武門の名家と言えども。


「赤い髪の女性、もといサラ・マリノフスカ少佐は別用あって今は出ております。何かお言伝があれば私が伝えておきますが」

「そうか。ではこう言ってくれ。新婚旅行と結婚式の日取りを考えておいて欲しいと」

「嫌です」

「……なに?」


 おっといけね、つい思わず本音が。


「准将閣下、そんなことよりも本題に入りましょう。話が進みません」

「お前のような、女性の心を読めない様な子供に話すことなどない!」


 やめて! それは本当のことだからやめて! 結構後悔してるんだから!


「それに、私は一度自分の女にすると決めたら、その女性が自分のものとなるか、はたまた悔しくも他人のものとなるまで攻め続けると決めているのだ! だからさっさとあの女神を連れてこんかバカ者がァ!」

「いやそこまでしつこいと嫌われて結局他人のものとなる気がしますが」

「侯爵家の息子にして顔立ちもよく性格も良い私が嫌われるはずなかろう!」


 前2つは賛同できるけど最後だけは納得できないよ!

 ……ったく、いろんな意味で俺とは真逆な人だなこの人。俺は農民の子供で顔はイケメンってわけでもない(たぶん)し、そしてなにより性格が良い。けどマテウス准将は貴族の子で爽やかイケメンで性格が残念だ。


「准将閣下。女性好きもよろしいですが、本職である軍務もしてもらわねば困ります」


 主にクライン大将と俺の計画が。


「私は下らんことより女性と付き合いたいのだ」

「……」


 プランA。なんとかして説得して軍務に復帰してもらう。

 プランC。そういうのを生業としている専門の女性を連れて来てお茶を濁す。

 プランDEAD。サラの右手が真っ赤に燃える。准将を倒せと轟き叫ぶ。


 さてどれが一番面倒が少ないだろうか。A案は今やってるけど話が進まないし、C案はお茶を濁したところで話が進まない可能性あるし第一そういうのじゃ満足しそうにないし、D案はサラの手が汚れちゃうし。


 どうしたものか。


「ほら、さっさと連れてこないか。私はこれでも忙しいのだ。それにうかうかしていると、あの美しき女神殿が他の俗物共に取られてしまうではないか。だから早くしろ」


 いや忙しいってお前どう見ても仕事してないだろう。それに俗物ってもしかして他の男の――って、ん? ちょっと待てよ?


「准将閣下。女神殿……もとい、マリノフスカ少佐を呼ぶ前に少し質問をよろしいですか?」

「断る。時間稼ぎのつもりかもしれないがこうなれば私が直接足を運んで」

「閣下が質問に答えてくれれば、マリノフスカ少佐とついでにもう1人を連れてきますが」

「なんでも聞きたまえ」


 慣れると結構扱いやすいかもしれない。

 いやそれよりも前に。


「准将閣下は、人妻というものには興味ありますか?」

「ない。私は最高の果実を手に入れたいとは思うが、他人の果実を奪おうなどとは思わん」


 即答だった。


「……いい心がけだと思います」


 つまり彼はNTRものの同人誌を苦手とする人、ということになる。


 なるほど。うん。光明が見えてきた。見えてきたけど、その、うん。

 ……うん。うん。待ってね。


 つまりだ。

 サラやフィーネさんがマテウス准将の毒牙にかからないためには、徹底的に彼に近づかないか、あるいは彼女たちに恋仲である男性がいればいいと言うことである。


 そして、俺は彼女たちが誰が好きなのかを知っている。ついこの間知った。


 ……うん、そういうことだ。


 …………マテウス准将の言動を封じ込める策は思いついた。何、簡単な事じゃないか。だから何も問題はない。そう、本当に何も問題はない。問題は俺がとても恥ずかしい思いをすると言うことだけだ。


「おい、何を赤くなっている。まさか貴様はそういうのが好きで――」

「いえ違いますこれは全く違いますちょっと別のことを考えていただけですから問題ないです」

「そうか。なら早く女神殿と天使殿を呼んでくるのだ。早急に」

「は、はい」


 ……。


 ユゼフ・ワレサ、一世一代の決断の時である。

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