狂想曲
「難攻不落の要塞に対して正面から攻撃するは愚者のすることなり、と誰かが教えてくれたのでね。それを私なりに実行しただけさ。効果はあったようだな」
「いや、だってマヤさんこの場には2人しかいないって……!」
「この場=この部屋という意味じゃないからな」
卑怯というか屁理屈すぎる! てか、サラとかフィーネさんがいる部屋で俺エレナ皇女一家の亡命事件のこと喋っちゃったじゃん! 機密解除まだされてないんだよ!?
……まぁフィーネさんにはどうせ知られる話だし、サラには後で釘刺しとけば何とかなるでしょ。なるよね?
「じゃ、そういうことで私は帰る。あとは若い奴だけに任せる」
投げっぱなし!?
「ちょ、ちょっと、待ってくださいって! この変な空気どうすればいいんですか!?」
「そこまで面倒見なければならない義理は私にはないよ。せいぜい参謀らしく考えたまえ。じゃあな」
と、そう言ってマヤさんは無情にも第三応接室から退室し……と思ったら、再びドアを開けて顔だけ覗かせてきた。
「あ、と。ひとつ言い忘れてた」
「なんです?」
「若気の至りで子作りはやめてくれよ。一応ここは総督府だからな」
「何言ってるんですか!」
マヤさんがオヤジ臭くなってる。
彼女はくつくつと笑いながら、その後は何も言わずにパタリと扉を閉めた。
「……」
「……」
「……」
微妙な空気に包まれたまま俺、サラ、フィーネさんは無言を貫く。いやその前にいつまでサラとフィーネさんはソファの後ろに隠れてるんだろうか。
「あー……とりあえず、お2人さん。そのままだと話辛いし……ね?」
ソファに掛けたらどうだと勧めてみるも、なぜか2人は目だけを出す格好をやめない。
「そういたいのは山々なんだけど……ちょっと今顔出したら恥ずかしいっていうかなんというかで……」
「右に同じく」
いつまでもそういう格好になってるのが一番気まずいんだけどなぁ……。
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「終わりましたか?」
第三応接室の外で、結果を待っていたエミリアはマヤにそう聞いた。
「えぇ。無事……かどうかは当人たちの努力次第ですが、一応の結論は出ました。後はなるようになるでしょう」
「……そうですか」
エミリアはマヤと目を合さず、顔を俯かせながら彼女の報告を聞いていた。感情を読まれないように必死に努力しているようにも見えるが、その行動こそエミリアの心理を突くものではないか。マヤにはそう思えた。
「殿下。あえて申し上げますが……、私が真に正直に物を言うべきなのはエミリア殿下なのではないか、そう思うのですよ」
「……『真実』などと言うものは、どんな時でも一番の輝きを保っているというものではないのです。時にそれはどす黒くて、隠さなければならないこともある。そうは思いませんか?」
「殿下がそれで満足するのであれば、私としてはそれ以上の追及はしません。……ですが、それで本当によろしいのですか?」
マヤがこの話題をエミリアに尋ねるのはもう何度目の事だったか、当の本人たちは忘れていたが、結論はいつも決まって同じである。
「いいんですよ。私と彼は別世界の人間で……私には私のするべきことがあるのです」
エミリアはそう言い残して、第三応接室とマヤから離れる。
第三応接室の中からは先程とは違う喧騒が、でも少しだけ幸せそうな、そんな声が漏れ聞こえていた。そんなちょっとした声が、今のエミリアには耐えられなかったのかもしれない。
自分が結婚するまでは、まだ時間はある。何時のことになるのかわからないけど、今よりもっと国内・国外の情勢が安定したらそうなるのはわかりきっていること。
だけど少しだけ我が儘を言えば、もうしばらく、この素敵な友人たちと一緒にいたいのだ。
そう考えながら、エミリアは自らに与えられた地位職責を全うすべく、自身の執務室の戸を開けた。
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「ね、ねぇユゼフ」
「……なに?」
「私、ね、今月誕生日なんだけど……」
「あー……7月25日だっけ?」
「な、なんで知ってるの!」
「なんで知らないと思ったの?」
「少佐、友人と言えど普通は他人の誕生日は知らないものですよ?」
「そんなこと言ってフィーネさん私の誕生日知ってたじゃないですか」
「好きな男性の誕生日くらい知ってて当然です」
「……あ、うん。まぁ私もフィーネさんの誕生日知ってるけど」
「ちょっとユゼフ! 今は私が話してるの!」
「はいはい。で、もうすぐ19歳になるサラがどうしたの?」
「…………えーっと、ね。ユゼフって誕生日のプレゼントにフィーネから……その、されたじゃない」
「あー、うん、まぁ、そうだね」
「だから、その、私にも同じことしてほしいかな……って、その……」
「うん、サラさん。落ち着こう。そんな恥ずかしい事ホイホイ言って……」
「わ、私とはしたくないってわけ!?」
「いやそういうわけじゃなくてむしろ……っていやいやいやいや」
「だ、だから今……してほしいのよ!」
「いや待って今日はまだ7月14日……!」
「いいから、後々だとちょっと恥ずかしいから!」
「少佐、いつまでも女性を待たせるのはダメですよ」
「あーうー……いやだからと言ってフィーネさんの目の前で」
「あんただって私の目の前でしたじゃない! ちょっと来なさい!」
「あ、ちょっと待ってなんで胸倉掴んで――――」
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というわけで『クラクフ狂想曲』終了です。
「恋愛パートが長い」とさんざん言われましたがそう言えば去年の9月から戦争やってなかったね。ごめんなさい。
でも次からはガチで戦争する予定です。戦記だもんね。
私の脳内プロットでは次の章は戦争、その次の章も戦争、そしてたぶん次の章も戦争です。
どうぞよろしくお願いします。
そしてこの度、大陸英雄戦記が小説家になろう年間戦記ランキング第1位を獲得しました。
今後ともポンコツユゼフくんとその仲間たちをよろしくお願いします。




