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大陸英雄戦記  作者: 悪一
クラクフ狂騒曲
289/496

コリント

「では、話を戻しましょう」


 どっかの元中将の話で盛り上がったせいで本来の目的を忘れかけてしまっていたが、今回の本題は情報交換である。


 情報機関における情報収集活動には、主に4つの手法がある。オシント、ヒューミント、シギント、コリントである。


 オシントは、一般に公開されている情報を事細かに精査して重要な情報を見つけ出す手法。たとえば政府の公式声明や官報なんかを分析する。スパイ活動と言えば聞こえはいいけれど、その活動のほとんどはこのオシントに分類される。


 ヒューミントは、人間を介して情報を集める手法だ。政府要人と接触したり、事情を知っている者から聞き出したり、誘い出したり、罠に嵌めたりする。分かり易く言うとコネ。俺がオストマルク大使館に居た時にやったことだ。


 次にシギント。これは技術的な情報活動のことで、郵便物の検閲や暗号解読、伝書鳩や伝令馬の捕獲など。でも通信技術が発達してないこの大陸じゃあまり重要視されていないかも。


 最後にコリント。これは別々の情報機関が、互いの苦手分野を補い合って情報を集める手法の事だ。情報交換とか、情報収集手段を教えたりする。今回やろうとしているのがこれだ。


 シレジア王国の情報機関、内務省治安警察局と公爵領民政局統計部の得意分野は、シレジア王国内における親東大陸帝国派であるカロル大公派や、カールスバート復古王国、東大陸帝国に関する事。

 対してオストマルク帝国の情報機関である情報省は、隣国キリス第二帝国や歴史的・民族的つながりのあるリヴォニア貴族連合の動向が得意分野だ。


 この得意分野の情報を教え合うのが、貸し借りなしの本当の情報交換となる。情報収集をオストマルクに頼っていた期間が長いから結構な情報を利子として払わなければならないだろうけどさ……。


「じゃ、まずは私の方から……」


 と、俺からまず情報を提供することにする。

 そうは言っても、最近の周辺国の情勢は大人しい。目に見えて謀略を働いてるのは某元中将ぐらいなもんだ。


「1つ目。先日、カロル・シレジア大公とマルセリーナ・パヌフニカ侯爵令嬢の結婚式が挙行されたのは御存じかと思いますけど、その結婚式に招待された各国使節の動向です」


 エーレスンド条約が締結され、フランツ陛下やエミリア殿下がシレジアに帰還したそのすぐ後、結婚式を執り行う旨が宮内省より通達された。

 まぁ、王族の結婚式と言うこともあってエミリア殿下曰く派手だったらしい。財務尚書グルシュカ男爵が若干悲鳴をあげてたくらいには。


 それはさておいて、結婚披露宴というのも外交の場となり得る。ていうか各国のお偉いさんが集まっただけでそれは外交だ。


 けど今回の結婚式の場合、派手な動きはなかった。披露宴の場に居合わせることが出来たのは内務省の人間くらいだったからあまり大規模に探ることができなかったというのもあるが、警戒していたのか怪しいものはなし。

 あえて言うなれば、カロル大公が度々東大陸帝国大使と話していた程度だが、それは今更である。


「2つ目。東大陸帝国で、また新たな政策が実行されようとしているみたいです。まだ起案段階ですが」

「どのような?」

「『警察』の設立です」

「……秘密警察ですか?」


 フィーネさんはそう言ったが、これは間違いだ。確かにこの大陸では「警察=政治秘密警察」の事を指す。でもそれは、帝国においては皇帝官房治安維持局という名で存在している。

 だから今言っている「警察」はもっと別なもの。つまり、


「一般刑事専門の警察機構、ですよ」


 シレジア含め、各国の一般刑事警察機構は軍が担っている。シレジアの場合、各地の警備隊や国家警務局がそれだ。

 しかし帝国宰相セルゲイ・ロマノフが進めようとしているのは、恐らく前世世界における「普通の警察」を作ろうとしているのだと思う。


「具体的にどのようなものになるのかはまだわかりません。警察省を作るのか、宰相府や皇帝直轄の部局となるのか、規模はどうなるのか……。いずれにせよ、大陸の政治史に加筆が必要なのは確かです」


 これで近現代的警察機構が出来たらどうなるのだろうか。今はまだ軍制改革中で予算もないだろうから、設立はだいぶ先になりそうだけども。


「なるほど。並々ならぬ実行力がセルゲイにある、ということですか」

「そういうことでしょうね」


 もうこれセルゲイが転生者なんじゃないかと疑うレベルだ。俺だけが転生したかもしれないと調子に乗ってたけど、もしかしたら大陸中にいっぱいいるのかも。


「興味深い情報でした。ありがとうございます」

「いえいえ。私たちはまだオストマルクから借りたモノを返しきれていないですよ」


 本当に、いつになったら利子を返せるのやら。


「さて、次に私から1つだけ。……もっとも、シレジアにはあまり関係のない話かもしれませんが」

「なんです?」


 俺が聞くと、フィーネさんが1枚の紙を渡してきた。情報の量が多くないのはまだ把握し切れていないのか、それともまだ表に出てすらいない段階なのかはわからない。

 確かに一見するとその情報はシレジアには関係ないようにも見える。でも、東大陸帝国やオストマルクにとってみればそうではない。戦争の火種にもなるような話だ。


「キリス第二帝国の動向が、少し怪しくなってきました」


 フィーネさんは、やや沈鬱な表情でそう言ったのである。

【速報】

アーススター・ノベルより1巻・2巻刊行中の『大陸英雄戦記』が、レーベル初のコミカライズ決定です。


詳しいことはまだ決まっておりませんが、これも皆さまのおかげです。ありがとうございます。これからもよしなに

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