もうひとつの相談
「………………特に何もないですよ」
つい顔を背けて窓の外を見る。あー、相変わらず王都の景色は綺麗だなー。
「本当に何もない人はそんなに間をあけて返答しませんよ」
「いや、うん、まぁその……ね?」
ま、そりゃばれるよね。確かにフィーネさんの言う通り特に何かあったよ、つい最近。
「よければ相談に乗りますが」
「……」
さて、どうしたものか。あると言ったところで、かなり個人的な問題だから口に出すのは躊躇われる。でも自分の中で解決できるようなものでもなく……あぁどうしようもどかしい。そもそもフィーネさんはサラのこと良く知らないしなぁ……。
「ユゼフ少佐。あなたは変人です」
「……なんですか急に」
なんかフィーネさんが突然俺を変人呼ばわりする。こんなにも日々真面目に、誠実に生きている人間なんて今時珍しいのに、よりによって変人はないでしょう!?
「少佐、あなたが先ほど私に言った言葉を覚えていますか?」
「えっ? えーっと……講和会議の話ですか? それとも人選について? あとは大公の……」
「違います。私が言葉を止めた時です」
「……あぁ。あの、リンツ伯の言葉が云々でしたっけ?」
必死に聞かなかったことにしようとしていた、リンツ伯爵家の内部事情についてのことだ。どうやら当たりだったようで「そうです」とフィーネさんは頷いた。
え、でもそれ俺が変人って言われたことと何か関係あるの?
「先ほど少佐は『相談に乗る』『大丈夫か』と何度も仰っていました。それは嬉しいのですが、途端立場が逆になると私に相談してくれないのは不公平というものです」
「……そういうフィーネさんも話してくれなかったじゃないですか」
「むっ……」
フィーネさんの口が一瞬への字に曲がったが、その後何かを思いついたのか右手人差し指を顔の脇に出した。
「ではこうしましょう。私はユゼフ少佐に相談します。ですので少佐も洗いざらい話してください。無論、話しにくい部分や個人的な部分は省いてもらって構いません」
「それなんか双方に利があるんですか?」
「ありますよ。相談と言うものは喋った時点で解決する事も多々ありますし、そうでなくともとりあえずは問題の内容を理解する手助けくらいはできます」
「……なるほど」
確かにそうかもしれない。それにフィーネさんは情報の専門家、俺が抱えている問題を洗い出してくれるかもしれない。
「わかりました。その提案に乗りましょう」
俺がそう言うと、満足したように彼女は微笑みつつ頷いてくれた。そしてテーブルの上の資料を片付けしながら「まずは私から」と言ってその相談とやらを切り出したのだ。
「私が三女であることは言いましたよね?」
「えぇ。フィーネさんと初めて会った時に言われたので良く覚えていますよ」
「……たいへん記憶力が良いようで。まぁそれはともかく、私には姉が2人、兄が1人、そして弟が1人います」
「リンツ伯って子沢山なんですね」
「そうですね。両親は恋愛結婚でしたし、張り切りすぎたのでしょう」
「……」
「なんですか少佐、その目は」
「あぁいえ、なんでもないです。続きをどうぞ」
別にフィーネさんが遠回しに下の話をするのがちょっと意外だったなとか思ってないよ。
「まぁそれはともかく、問題なのは姉……長子長女のクラウディアお姉様なのです」
「そのクラウディアさんがどうしたんですか?」
「はい。まぁ細かい話は少し言えませんがザックリ言うと……」
「言うと?」
なんだろう、やっぱり貴族特有のドロドロとした話があるのだろうか。
「私はクラウディアお姉様が苦手なのです」
「………………はぁ」
なんか一気に低次元の話になったのは気のせいだろうか。
「どう思います?」
「いやどうもこうもないですよ。情報量少なすぎます」
「……と言っても、これ以上私から言えませんので、続きはクラウディアお姉様から直接聞いてください」
「え? 直接?」
「はい。公国の講和会議の席に、我がオストマルク外務省から人員を派遣させるかもしれないと言いましたよね?」
「言いましたね……ってまさか」
俺がそう言うと、フィーネさんは肩を少し落としてため息交じりに言った。
「その通りです。クラウディアお姉様は20歳にして現在外務省の高官……大臣秘書官です」
「え、かなり上の人じゃないですか」
そんな上の人間が姉か。確かにそれは尊敬はするだろうし同時に苦手意識も持つだろうな。……長女がこれだと次女・長男もやっぱりバケモノなんだろうか。フィーネさんも情報面ではかなり頼りになる存在だし、リンツ伯の遺伝子ってばかなり強力なんじゃない? もう精子バンク作って売っちゃえばいいのに。
あぁいや、クーデンホーフ候の遺伝子も娘を通じてリンツ伯爵家の子供たちに受け継がれてるのか。今さらだけど凄いサラブレッドな家だな。
で、そのような能力があり、そしてフィーネさんの姉ということは美人であることは間違いない次期リンツ伯爵家当主と公国で会う可能性があると。
うん、そうだな。
「会いたいような、会いたくないような。なんとなくフィーネさんの気持ちが分かったような気がします」
「それはどうも、ありがとうございます」
そう言う彼女は苦笑した。フィーネさんも恐らく、公国で姉に久しぶりに会いたいと思いつつ、苦手だから会いたくないとも思っているのかもしれない。
まぁでも会いたくないと思ってる人間ほどなぜか会うし、今回もそうなんだろうなきっと……。
【お知らせ】
書籍版『大陸英雄戦記』の書影と発売日が公開されました。
第1巻は11月14日、アース・スターノベル様より発売されます。
書影については某密林で公開されてますが直接リンクを貼るのは規約上問題があるため差し控えていただきます。ので、各々ググるか作者ツイッター(waru_ichi)を見てください。
とりあえずサラさん可愛いですエミリア殿下尊いですマヤさんカッコイイです。




