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大陸英雄戦記  作者: 悪一
第60代皇帝
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交換

「コホン。さて、少し話が逸れましたね。戻しましょうか」


 10分程エミリア殿下らが話し込んでいたが、さすがに本題を忘れそうになるくらい話していたら問題なので話題を戻す。カロル大公の思惑についてだ。


「えっと、つまり大公が敵国の皇帝家と血縁関係になったのが、まずいことなのよね?」

「まぁ一行で纏めるとそうなる」


 長々と説明させておいてそんなザックリ纏められると説明した甲斐がないが、サラに完全に理解させるのも手間なので放っておこう。


「じゃあ、それを指摘すれば何とかなるんじゃないの?」

「つまりこの婚約を材料に大公を弾劾しろってこと?」

「うん」

「恐らく無理でしょうね」


 サラの提案を否定したのはフィーネさんだった。彼女は紅茶を飲みつつ、その理由を述べる。


「理由は2つ。1つは、恐らくカロル大公は『ばれても問題ない』と判断して結婚に至ったのでしょう。弾劾自体が出来るか、たとえ公に訴えることができてもシレジア貴族で多数派を握るカロル大公には決定打を与えられません。むしろ告発した側、つまりエミリア殿下が攻撃される危険性もあります」


 多数派工作において、エミリア殿下の勢力は完全に負けている。王族たる大公を弾劾するとなると貴族たちを召集して貴族による裁判を行うことになるだろうが、大公派貴族が多数派であれば「無実」と判定されるのは自明の理。

 逆に告発したエミリア殿下の「王族としての品位」や、内務省治安警察局が仮にも王族のプライベートを暴こうとしたことを責められる可能性がある。そうなれば相討ちにもならない。


「む……」


 サラはぐうの音も出ない御様子。まぁたぶん半分くらいは何言ってるか理解してないんだろうけど、正論で反論されているのはわかってるから何も言えないのだろう。


「2つ目の理由は、もし大公の失脚に成功したところで意味はありません。今回彼がやっていることは『シレジア併呑後の地位の保障』であって、具体的なシレジア滅亡の策謀を巡らせているわけではないのですから。大公を失脚させたがシレジアは滅亡し大公が地位を獲得すると言うことにもなりかねません」

「むむむ……」


 サラ、沈没。いやこの場合フィーネさんが大人げないと言った方がいいのか。最年少の人間が最年長の人間に対して大人げない態度を取るというのは若干矛盾してるが。


「私もフィーネさんと同意見です。現状じゃ大公の弾劾は益はありません。むしろ放っておいて大公の動きを見て情報を集める方が良いかと」


 大公ほど地位も職責ある人間が動くとなれば、その情報だけで色々な推測ができる。東大陸帝国側の情報も欲しいし、具体的にどうやって帝国と協力するのかも知りたい。それが分かった後に対策なりすればいいんじゃないだろうか。

 と思うのだが、フィーネさんは不敵な笑みを浮かべた。


「そう、上手くいきますかね?」

「不安になるような事言わないでください。これでも内心はビクビクしてるんです」

「これは失敬」


 やや冗談じみた口調だが、その憂慮はもっともなものだろう。リスクが大きくても、大公の暗殺という手も選択肢の内に入れておいた方がいいかもしれない。


「ま、いずれにしても我々が提供できる情報と言うのは以上です。毎度毎度少なくて申し訳ありません」

「いえいえ、大丈夫ですよ。とても有用な情報でしたから」

「そう言っていただけるとありがたいです」


 と言っても調べたの俺じゃないけどね。後でイリアさんにお礼を言っておこう。


「さて、では私の方からも情報を」


 そう言って、フィーネさんはソファの脇に置いてあったらしい鞄から資料の束を出してきた。物凄く分厚いってことはわかる。100ページは優に超えているだろう。

 エミリア殿下がそれを取り、そしてその資料の表題を眺める。そして殿下の表情は徐々に険しいものとなっていった。


「これは……どうやって?」

「彼の帝国の内務大臣は我が国と懇意の関係にありますからね。最近は新宰相セルゲイ・ロマノフによる帝国官僚の綱紀粛正の煽りを受けて首筋が寒いらしいですが」


 ……なにそれこわい。いや本当こわい。


 フィーネさんが渡したその資料の表題は「東大陸帝国新政策の詳細」である。

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