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大陸英雄戦記  作者: 悪一
共和国炎上
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大晦日の共和国

 時計の針を、12月27日の10時までに戻す。

 シュンペルク駐屯地は、その時混乱の極みにあった。


「おい、見つかったか!?」

「いや、こっちにはいない。兵舎の方は!?」


 彼らが捜しているのは、この駐屯地に赴任してきたばかりの司令官、即ちヘルベルト・リーバル中将である。彼は駐屯地の大多数の人間に何も言わずに外出し、あろうことか敵の要塞に向かってしまったのである。


 この時点で、リーバルが要塞に向かったということを知る者はこの駐屯地にはほとんどいなかった。30分後、駐屯地入口の警備兵が昨夜の内に数人の護衛を引き連れて外出していたことを証言し、混乱に拍車がかかった。


 18時20分になり、ようやくリーバルがオルミュッツ要塞に向け移動したことが判明したのである。

 駐屯地に残った国粋派将官4名が緊急の会議を開いたが、それは会議と言うより怒りと疑念のぶつけ合いだった。


「リーバル閣下は何をお考えか!? 無断で、しかも僅かな護衛のみで要塞に乗り込むとは!」


 もっとも怒りを顕わにしたのが、副司令官のブラーハ少将だった。彼は元からこのシュンペルク駐屯地の司令官であり、オルミュッツ要塞陥落後の各駐屯地の混乱を手際よく収拾した人物でもある。

 ブラーハはその功績を認められ中将に昇進され2個師団を率いることを期待した……のだが、昇進はなく、中央から派遣された将官に指揮権を奪われてしまったのである。形だけで言えば、彼は昇進どころかシュンペルク駐屯地警備隊司令官から副司令官に降格されてしまったのである。

 しかもその派遣された将官が、嫌われ者にして野戦の知識が全くないリーバルだったことが、ブラーハ少将の激しい怒りを買った。


 そして今回の独断専行である。怒りが爆発するのもやむを得ない事だろう。


「少将閣下、少し落ち着かれてはどうか」

「……そうだな」


 部下から諌められたブラーハは、表面上は落ち着きを取り戻した。だがそれはあくまで表面上の物であり、心の中では激しい怒りに燃えていたことは否めない。それに止めに入った部下というのが、駐屯地を放棄した敗残の将であることが、さらにブラーハをイラつかせる結果となった。


「ともかく、要塞にいるリーバル閣下をどうお救いするべきか……」


 表面上の冷静さを取り戻したブラーハはそう切り出して、議事を進めた。この会議は敵中に囚われの身となったリーバルの奪還、これを行うにあたって具体的にどうするかを決めるものである。

 だがこのブラーハの発言の直後、先ほどとは違う部下がこれを遮った。


「ちょっと待ってくださいブラーハ殿。リーバル閣下を救出することは決定事項なのですか!?」

「違うのか?」


 ブラーハは「何を言っているんだ」と言わんばかりの表情でそれを言ったが、部下の詰問がそれで終わるはずもなかった。


「リーバル閣下は今あの難攻不落の要塞にいるのです。そんなところに行くなど、自殺行為ですぞ!」

「危険は承知している。だが、もしヘルベルト・リーバル中将が行方不明だと中央が知ったら、どうなることかな?」

「そ、それは……」

「そういうことだ。少なくとも、我々は中央に『救出しようとしたが無理だった』という姿勢ポーズを見せなければならない」


 ブラーハのこの言葉によって、3人の部下は皆押し黙った。リーバルの置かれた政治的立場がそうさせたのである。

 国粋派はバレシュ少将に続き、またしても中央の意向を気にして間違った戦略的判断を実行する羽目になってしまった。


 こうしてシュンペルク駐屯2個師団は、独断でオルミュッツ要塞に対する攻勢作戦を行うことになった。部下たちはせめてヴラノフ駐屯3個師団との連携作戦を望んだが、それはブラーハの「リーバル閣下に関する事はシュンペルクだけに留めさせよ」という命令によって黙殺された。


 そして12月30日。

 シュンペルク駐屯2個師団は「嫌われ者のリーバル」の救出のために、戦略的に無意味な出陣をしたのである。




---




 オルミュッツ要塞北側で索敵行動を行っていた騎兵隊から「シュンペルク軍団動く」の報が俺の手元に届いたのは、12月31日のことである。


「……シュンペルクだけですか?」


 エミリア殿下にその情報を報告したところそのような発言が飛び出した。

 確かにどの疑問はもっともである。たった2個師団で難攻不落の要塞を落とすなんて無茶な話だろう。いや俺ら1個師団で落としちゃったけど。


「はい。ヴラノフ軍団が動いたという情報は入ってきておりません。恐らく、あのお方を救出するために軽挙に出たということでしょう。彼の政治的立場を思えば不思議ではありません」


 軍人が政治的立場を気にして戦略的判断を誤る。軍事独裁国家ならではの弊害か。いやまぁ、貴族制国家でも、前線に取り残されたやんごとなきお方を見捨てられずに軽挙妄動に出るってことはあるか。

 やっぱりこの世界に必要なのは、患部をバッサリ切り捨てる度量を持った君主だね。……エミリア殿下には、それができるのだろうか。


 ……いや、今はそれどころじゃないか。


「ともかく、2個師団だけが出撃というのは各個撃破の好機です。すぐに迎撃しましょう」

「そうですね。王権派の者と相談の上、具体的な迎撃作戦案を……」


 と、エミリア殿下が言いかけた所で、俺はそれを制止させた。殿下が首を傾げながら「どうしました?」と聞いてきたのに合わせて、俺は懐から殿下が求めている作戦案を提示した。


「実は、もう作っていたのです」

「……いつの間に?」


 エミリア殿下が唖然としながら聞いてきた。その表情を見れただけで頑張って作った甲斐があります。


「シュンペルク2個師団が攻めてきた場合、ヴラノフ3個師団が攻めてきた場合、シュンペルク・ヴラノフの連合5個師団が攻めてきた場合を想定して事前に策定しておりました。多少の修正は必要かと思われますが、これを軸にしていただければ、味方の被害最少で戦果最大を期待できます」


 こうして俺の作戦は王権派との会議の結果、ほぼそのまま採用されるに至った。「実は要塞陥落時から考えていました」と言った時はちょっと変な目で見られたけど。まぁ、それはいいや。

物語時間内でクリスマスまでに内戦終わらせる予定でした

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