表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/111

4.探り合いのワルツ


 夜会も佳境(かきょう)に入った。

 アメリアとウィリアムはワルツを踊っていた。


 先ほどの騒ぎはお互いの両親によって上手く収められ、ウィリアムの父ロバートと、アメリアの父リチャードは両家の繁栄を願い固い握手を交わした。

 アメリアとウィリアムは、正式な婚約に至ったのである。


 その後ロバートとリチャードはそれぞれの仕事について、またそれぞれの妻は、結婚までの行事をどのように行うかについて話に花を咲かせていた。

 必然的にウィリアムとアメリアは二人きりにされる。


 ウィリアムはアメリアが誰かとダンスを踊っているところをただの一度も見たことがなかった。社交界デビューを果たした頃のアメリアにはダンスの申し込みが殺到したものだが、それをことごとく断っているうちに誰からも誘われなくなったためである。

 けれどルイスは言っていた。アメリアは八歳で全てを完璧にこなしてみせた、と。


 ウィリアムはしばらく考えた末、アメリアにダンスを申し込んでみた。断られるだろうかと思ったが、アメリアは迷いなくウィリアムの手を取った。

 そういうわけで今、二人はワルツを踊っているのである。


 二人はフロアの中央でホールドし、軽やかにステップを踏んでいた。ワルツの三拍子に合わせ、複数のステップを組み合わせながら優雅に回転を繰り返す。まるで長年のパートナーのごとき安定感だ。


 ウィリアムの燕尾服の裾と、アメリアの深紅のドレスがテンポよく広がる。

 アメリアのダンスは完璧だった。スイングはダイナミックかつ美しく、難易度の高いステップも悠々とこなす。

 それに何より、初めての相手のウィリアムの動きの先を読み、ぴったり息を合わせてくる。


 ウィリアムはそんなアメリアのはにかんだような笑みを見つめ、考えた。

 今ならば、周りに声を聞かれることもないだろう――と。


「ダンス、お上手なのですね」


 言いながら、ウィリアムはやや挑発気味にステップを踏んでみた。

 だがアメリアは乗ってこない。


「そんな、ウィリアム様こそ本当にお上手ですわ」――そう言って微笑むだけ。

 仕方なくウィリアムは、直接的な方法を取る。


「アメリア嬢ともあろう方がご謙遜なさるとは……よもや本当に私に好意を寄せている訳ではあるまい?」


 そう言ってニヤリと口角を上げる。すると、アメリアは笑みを深くした。


「あら。そのお言葉、そのままお返ししますわ」


 刹那――アメリアの冷たい笑顔に、ウィリアムは悟った。


「……やはり。――なぜあなたは私の申し出を受けたのですか」

「変なことをお聞きになるのね。わたしはただお受けしただけ。理由などないわ」


 二人は足を止めることなく踊り続ける。


「だが、あなたは私のことを嫌っておいでだったのでは」

「あら……なぜ? ルイスがそう言ったの?」

「――ッ」

「驚いたのはこちらの方よ。わたしを調べるようにルイスに指示したのは……あなた?」

「……それは」


 それはまたもや予想外の言葉で、ウィリアムは咄嗟に否定することができなかった。

 まさかアメリアがルイスについて知っているとは――ルイスがアメリアの周辺を調査したことに気付くとは思ってもみなかったのだ。

 けれどアメリアは気が付いた。その上でこの縁談の話に乗ったというのか。


「……本当に素直な方」


 アメリアは呟く。――と同時に音が止んだ。終曲だ。人が入れ替わっていく。

 そのざわめきの中、ウィリアムを誘い出すアメリア。


「ウィリアム様、少し夜風に当たりませんか? わたくし――少し暑くなってきましたわ」

「……ああ、そうだな。そうしよう」


 ――こうして二人は会場を抜け、先客のいないテラスへと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ