姉がまた今日も、『しつれん』したと騒ぐから。
条件:「し」「じ」「つ」「づ」「っ」「れ」「ん」を使用してはならない
僕の姉はとてもうるさい。今日もまた「ロストラブ」だと嘆いている。似たようなことを繰り返すとか、よくもまあ飽きないものだね。
「わざわざ取り寄せたのに、着る機会さえないとか。あわせて髪色も変えて、ユニークな香水も購入済みなのに。十日だよ。わずか十日で姿を消すとか! ひどくない? 乙女心をなめるのも大概にせいよ!」
だから相手に合わせてないで、好きな服を着なよ。僕とか服の色も柄も固定だから、着替えに悩むこともないぜ?
「ないわ。というか、ないわ。ひとの気持ちを弄ぶとか、ギルティ過ぎ。ゴー・トゥー・ヘルだわ」
いや、愛が重いのよ。てか、ひとの背中で鼻水を拭くのはやめて。向こうもそこまでのこだわりを想像できないよ。もう諦めな。努力で願いが叶うとは限らないことも理解できるだろ?
「うううう、あなたたちは前からそうなの。うちが泣こうがわめこうが、冷めた目で見てくるの。慰めてよ。頭を撫でてよおおおお」
姉がスーパーウルトラ我儘タイムに入る。こうなると、ある程度駄々をこねないと終わらない。どうでもいいが、居間ではなく姉の部屋でやりゃいいのに。おちおち水も飲めないだろ。
床をのたうちまわり姉がべそをかいていると、焼き芋を食べていた母が頭を振る。ところで、その焼き芋、僕はまだ食べてないのだが? 僕にも早くわけてちょうだい。床に寝そべるうざい姉をわずかばかり踏み抜いて、移動する。
「あなたは、もう。いまだに子どもみたいなわがままを」
母の言葉を聞いたのか、のろのろと姉が立ち上がる。だから、わざわざ僕の隣に座るなよ。姉の隣にいると、ろくなことがないのに。密かに移動すると、獲物を狙うような目で見てくる。だから、僕を見るな。
「春は嫌いなの?」
「憎き杉と檜がいるからさ。止まらぬ鼻水に、恋も冷めるわ」
「なら」
「だめ、あの名を言葉にするとか。もう会いたくないの」
まあ嫌でも外に行かなきゃならない姉はご苦労だよな。僕はといえば、外へのひとりお出かけもできないのに。この世の中はままならないね。
「はあ、もうやだあ。冬になるの早すぎだから」
「どうせもうすぐ、スノボ最高、冬大好き、恋人と旅行行くからとか言い出すわよ」
「スキーとかスノボ、特に興味ない」
「あら、ママの若い頃は、大学生と言えばスキーやスノボのためにバイトに精を出すものだけど」
「まあ、世代が違うからねえ」
「ママはぎりぎり平成だから! あなたもママも平成!!!」
「うわー、虎、ママが怖いよおお。助けてええええ」
だからうざいから! 僕の匂いを嗅ぐのはやめろ!!! 軽く威嚇すると、姉はようやく手を離す。
「あああ、虎遊ぼうよおおおお。でも、そういうところも好きいいいいい」
悪いね。僕には、姉よりも好きなひとがいるからさ。夜は隣で寝てあげるから。姉を振り払うと、すぐさまパラダイスに潜り込む。
「ママ、虎がああああああ」
「あなたが構いすぎるのが悪いの。そもそも虎は耳がいいから、うるさいのは嫌いなのよ」
「えええ、ひどいいいいい。うちも虎と遊びたいのにい。秋もうちを振るわ、虎もうちを振るわ、弱り目に祟り目だわ」
「テストも近いのだから、テキストでも読みなさい」
「もう、ママは先のことばかり言う! やだ、虎。うちもおこたに入らせてよおおおおお。もう、虎が叩いた。ひどいよ」
「だから、嫌がる虎を撫でまわすのはやめなさい」
姉と母の会話はまだまだ終わりそうもないが、おこたの中なら影響はない。僕はあおむけのまま、大きく伸びた。
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