『うそ』つき河童は結婚できない
条件:「う」「ぅ」「そ」「ぞ」を使用してはならない
家の近所の家庭菜園の横を通り抜けていたら、イケメンに抱きつかれた。変態は変態だ。イケメン無罪とか言わないからな!
「愛している。俺と結婚してほしい」
「はい、結婚詐欺師! おまわりさん、助けてください!」
「なぜだ! 今のナンパにここまで否定される部分があったか!」
「否定される部分しかなかったわ! 会ったばかりのイケメンにいきなり愛を囁かれてほいほいついていくほど、こっちも頭お花畑じゃねえんだわ」
「なんだ、この口の悪い女は!」
「口が悪くて、何かお前に迷惑かけたか? ああん?」
「だが、俺は四月一日に嫁を娶らねば、国に帰れぬのだ」
「はあ?」
「だから、最悪性別女なら誰でもいい。とりあえず花嫁を準備できれば」
「黙れ、誰でもいいとか失礼にもほどがあるわ!」
「なんだと? こちらも時間が限られているからお前みたいな猿もどきの失礼な女で我慢してやると言っているではないか!」
「なんだと? 今すぐ無駄に長い金髪ロン毛をむしり取って、ザビエルハゲにしてやるから覚悟しろ!」
「なぜだ、なぜ俺の名前がザビエルであることと、かつらをかぶっていることがバレている! やはり、この国の女は我らの髪型をまことに嫌っているのか!」
「げ、マジもんでザビエルハゲじゃん。こんなやつに、失礼な女呼ばわりされたくないわ」
「だが、これは誇り高き我らにのみ許された髪型で!」
「はっ、河童かよ」
「信じられない。貴様、何者だ! なぜ俺の秘密を知っている!」
「ああ、めんどくせえ。嫁探しでもなんでもいいから、勝手にやんなよ。私は帰るから」
「頼む! 俺を助けると思って、嫁になってくれ!」
「嫌だってばよ。人間界で嫁を連れてこないと跡継ぎになれないとか最悪な習わしがある世界で、実は他に囲っている女がいて、連れてきた花嫁は白い結婚のお飾り妻とかが関の山でしょ。誰がなるか、あほんだら!」
「なぜだ! なぜお見通しなのだ!」
「お前マジで、稀に見る下衆だな。いっぺん死ねよ」
「ええい、もはやこれまで。悪いが無理矢理でも連れ帰らせていただく!」
「ってかさあ、四月一日とかいつの話よ。とっくの昔に終わってんじゃん」
「は?」
「あんたの国のことは知らないけど、こっちじゃ日が昇って沈んで、さらに再び日が昇ったら翌日になってるから」
「ああああ、次に次元の扉が開くのは一年後なのに!」
「はあ、お疲れさま。じゃあ」
「頼む! 一年間俺のことを養ってくれ」
「何でお前みたいなナチュラルモラハラ男を世話しなきゃなんねえんだよ。死ね」
「頼む! 何でもするから!!!」
「ふふん、何でもするって言ったな? 言質は取ったからからな?」
河童の国から来たイケメンプリンス(ただし、ナチュラルに俺さま)は、口の悪すぎる科学者(実験大好き干物女)にひんむかれ、あんなことやこんなことまで観察され、お婿に行けないと泣かされる未来をまだ知らない。




