夜の『おちゃ』をあなたと
条件:「お」「ぉ」「ち」「ぢ」「や」「ゃ」を使用してはならない。
職場にある戸棚が、変だと噂になった。夜になるとかりかりかたかた、妙に騒がしいらしい。ねずみが入り込んだ可能性もあるそうで、確認してくれないかと上司に頼まれてしまった。ただでさえサービス残業だというのに、この上さらに余計な用事を言いつけられるとは、本当についていない。
駆除を依頼するとなると結構な金額がかかるらしい。なんとか自力で頼むと言われ、ねずみ取りシート片手に恐々のぞいてみたものの、戸棚の中には年代物のティーカップがひと組あるだけだ。動物が入り込めそうな穴もないし、変な汚れもない。
そういえば職場が某メーカーのサブスクを導入してから、飲み物は各自で作ることになっている。会議などがあっても、用意する飲み物は、ペットボトルと使い捨ての紙コップがすっかり定番になってしてしまった。便利というだけではなく、衛生的という意味でも好まれているのだとか。
もしかして彼らは戸棚の中で寂しさに耐えかねていたのだろうか。カップを取り出してみれば、年季が入っているがとても上等な代物だった。さっと消毒し使ってみることにした。とは言っても、同期にもらった有名メーカーのティーバッグを利用するだけなのだけれど。
せっかくなのでものをくれた同期本人にも声をかけてみた。私の話を聞いたあと、付喪神かなと真面目な表情で言うものだから、つい吹き出してしまいそうになる。さすがにこのカップは、九十九年も居座ってはいないのではなかろうか。
久しぶりに使われて満足したのか、戸棚の怪はなくなった。と言いたいところだが、定期的に使ってあげないとねずみ騒動を繰り返すようになったため、私と同期による夜のティーパーティーは未だに続いている。
目下の課題は、同期の転勤を機に結婚することになったため、今後このカップを誰に託すべきかということだったりする。我々と同様、職場内結婚だった上司を見るに、このティーカップはなかなか進展しないじれったい男女を結びつける、縁結びの神さまみたいなものなのだろう。
その後、誰彼構わず見合いを持ってくる田舎のばあさんみたいなものかと彼が言った途端に、ねずみどころか象のようにカップが暴れだしたので、神さまは大層気難しい貴婦人らしいと判明した。




