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リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠@11/12「縁談広告。お飾りの妻を募集いたします」


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惚れた病に『くすり』なし

条件「く」「ぐ」「す」「ず」「り」を使ってはならない。

「あんた、いい加減(かげん)にしなさいよ」

「だから、わたしは絶対(ぜったい)大聖女(だいせいじょ)になんかならないって()ってるじゃない」


 国境沿(こっきょうぞ)いの(やま)(なか)今日(きょう)もまた聖女(せいじょ)神官(しんかん)()()いをしていた。それを(はじ)めて()村長(むらおさ)たちはおろおろしているが、(たび)同行者(どうこうしゃ)()れたもの。またやっていると(わら)いながら(なが)めるだけだ。


「やっとこさ、けじめがついたのよ。これであんたの(あこが)れの王都(おうと)(かえ)れるじゃない」


 聖女(せいじょ)過去(かこ)結構(けっこう)なやらかしから、まれなる(ちから)()ちつつ辺境(へんきょう)での活動(かつどう)にいそしんでいた。国家(こっか)(ささ)える重要(じゅうよう)任務(にんむ)ながら、重労働(じゅうろうどう)(うえ)地味(じみ)なため(だれ)もが敬遠(けいえん)していた仕事(しごと)(まっと)うしたことが評価(ひょうか)されたのだ。


 上昇志向(じょうしょうしこう)(つよ)さゆえに失敗(しっぱい)した聖女(せいじょ)だからこそ、機会(きかい)があれば(よろこ)んで中央(ちゅうおう)(もど)るだろうと(おも)っていた神官(しんかん)は、(わけ)()からないと(いぶか)しむ。


自分(じぶん)()ってたんじゃない。こんなど田舎(いなか)巡礼(じゅんれい)なんかもう勘弁(かんべん)してほしいって」

「あれから(かんが)えが()わったの。わたしは、一生(いっしょう)、あんたたちと一緒(いっしょ)にこの仕事(しごと)をやるのよ!」


 最先端(さいせんたん)衣裳(いしょう)もお洒落(しゃれ)カフェ(かふぇ)もない、宿(やど)洗練(せんれん)されているどころか、どこに()っても(むし)()る。それなのにこれほどまでに頑固(がんこ)態度(たいど)をとるということは……。()っからの乙女思考(おとめしこう)()(ぬし)神官(しんかん)は、にまにまと(わら)った。これはきっと(こい)(ちが)いないと。


「へえ、なに。もしかして、アタシ(あたし)()れちゃった? やあねえ、(たし)かにアタシ(あたし)美人(びじん)だけど。(こま)っちゃうわ」


 だから、(かる)冗談(じょうだん)だったのだ。自分(じぶん)道化(どうけ)にして(わら)()ばそうと(おも)っていたのに。


「うわあん、そうよ。あたしはあんたに()れちゃったのよ。このあほんだら! 馬鹿(ばか)殿下(でんか)には(だま)されるし、(つぎ)(こい)()ちた相手(あいて)女子(じょし)なんて対象外(たいしょうがい)オネェ(おねぇ)神官(しんかん)だし。もうやだあ。最低(さいてい)だよ」


 ぽろぽろと聖女(せいじょ)(なみだ)をこぼした。野盗(やとう)相手(あいて)にしても不敵(ふてき)()みを()かべている神官(しんかん)がおろおろと(あせ)ってしまった。


 言葉(ことば)()まるほど、動揺(どうよう)してしまっていたらしい。


「ごめんなさいね、からかってしまって」


 ()(つづ)ける聖女(せいじょ)が、(うら)めしそうに神官(しんかん)()つめている。


 最初(さいしょ)出会(であ)ったときはどぎつい厚化粧(あつげしょう)だったのに、いつの()にかあどけない(かお)をあらわにした聖女(せいじょ)。そんな彼女(かのじょ)にはいつだって(わら)っていてほしいと不意(ふい)(おも)う。


アタシ(あたし)もあんたのこと(きら)いじゃないわよ」

仕事仲間(しごとなかま)とか友達(ともだち)としてとかじゃ、意味(いみ)ないんだもん」

「あら、アタシ(あたし)可愛(かわい)いものに()がないだけで、男性(だんせい)恋愛対象(れんあいたいしょう)だとは()ってないんだけど?」


 (うえ)三人(さんにん)(あね)がいるせいでマッチョ(まっちょ)乙男(おとめん)(そだ)ってしまった神官(しんかん)は、今日(きょう)大騒(おおさわ)ぎしながら聖女(せいじょ)巡礼(じゅんれい)(たび)(つづ)けている。

こちらの作品は、短編「冤罪で獄死したはずが死に戻りました。大切な恩人を幸せにするため、壁の花はやめて悪役令嬢を演じさせていただきます。お覚悟はよろしくて?」(https://book1.adouzi.eu.org/n0283ii/)の聖女のその後です。単品でも楽しめますが、先にあちらを読むとより楽しんでもらえるかと思います。

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